「20minuten」という、チューリヒで毎日無料配布されている(駅などに置かれている)新聞があります。「20分」という意味ですが、その間に全部読めるってことでしょうか(www.20min.ch)。
今日(9月21日)の紙面に、「自動的帰化のせいでもうすぐイスラム教徒が我々の女性政策をつくるのだろうか? 帰化法案に二つの『否』を!」という意見広告が全面サイズ(って言っても日本の新聞の半分以下ですが)が載りました(写真)。
来週の日曜日、9月26日にスイスでは国民投票が行われます。直接民主制のお国柄ですから、色々なことが国民投票、州民投票、市民投票にかけられるのですが(ベルン市では以前、町の市電の自動券売機を新しくするかどうかで市民投票をしたこともありました。結果は「否」。その後券売機は新しくなったはずですが)、今回のものは連邦の憲法に関わることなので、全国民の過半数と、23あるカントン(州)の過半数が要求される大きなものです。
投票にかかる法案は、外国人の「帰化」(という言い方はあまり好きでないが、要するに国籍を与えること)に関するもので、中身は二つ。一つは、連邦が、外国人の帰化に関する原則を定めることと、スイスで育った若者が国籍を取得できることを州が憲法で保証するようにすること。もう一つは、スイスで育った外国人から生まれた子ども(第3世代)が自動的に市民権を取得できるようにすることだそうです。
上に書いた意見広告は、この法案を否決するよう訴えるものですが、イスラム教徒を標的にして感情に訴えるという悪質な手口です。今スイスにはすでに31万人のイスラム教徒が生活している。さらに10万人の不法滞在者がイスラム教徒だ。イスラム教徒は猛烈な勢いで増えている。この調子で増えると2010年には62万人、2020年には124万人になる。連中は、他の宗教に非寛容で、性の平等を認めない。年少者を無理やり結婚させる、「聖戦」を言い訳にしてテロをやる、といった悪口のオンパレードです。
民族でなく、宗教を問題にしているので、おそらく民族差別に該当しないことになるのでしょう。しかし明らかに、イスラムが優勢な地域から来ている外国人を標的にした差別的広告です。
現在、チューリヒ市の人口はおよそ36万4000人(2003年末)。そのうち約30%(約10万人)が外国人です。約半数はいわゆる欧州経済圏に属する国からの人間ですが、他に、セルビア・モンテネグロから1万4000人、トルコから5500人、そしてクロアチア、マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナから併せて9000人となっています。アジアからは1万2000人弱ですが、そのうちスリランカ人が4300人。
チューリヒは外国人の多い町です。町に行けば色々な言語が聞こえてきます。スーパーに行けば、レジに座っていたり、商品を配架している人は外国人のことが多い。フランス人やイタリア人(実に多いそうです)は、ちょっと見ただけではそれとわからないので、つまりは、見るからに外国人(実はそうでない場合もあるでしょうが)という、西アジア、中央アジア、東アジア、アフリカからの人間が非常に多いということなのでしょう。
しかし、外国人が多いということは、長く住んでいながらスイス国籍を取れない人が多いということでもあります。スイスでは(スイスでも、と言うべきか)国籍をとるのが容易ではない。スイスでは地方自治体がその権限を握っているのですが(自分たちの地域共同体に受け入れるという決定をしなければ、受け入れてもらえない)、なかなか閉鎖的で手続きも複雑だそうです。(このことを皮肉った "Die Schweizermacher" という映画があります。)
今回の国民投票は、その手続きをスイス全体で統一し、きちんと法律化しようという意図によるもののようです。スイスに定住している外国人の4分の1は、スイスで生まれ、学校に通い、スイス方言を話すにもかかわらず、スイス国籍がもらえない状態だそうです。すでに14の州では手続きが簡素化されており、今回は、これを全スイスに広げようという意図があるとのこと。また、そのような第2世代から生まれる「第3世代」は年間2500人になるそうで、今回の法改正がなされれば、この子どもたちはスイス国籍を自動的に取得できるようになるようです。
このような動きは評価されるべきですが、それに反対する人々も多いわけで、この法案はすでに2回(1983年と1994年)否決されているのですが、94年の時は、州の過半数が取れずに可決できなかったとのことです。そして今回も、冒頭に掲げたような意見広告が大きく出されるわけです。しかし、正面切っての反対というよりも、イスラムをテロや女性差別と結びつける悪質で姑息な方法に訴えるやり方です。一方では、自分たちのやりたくない仕事を外国人にさせておきながら、他方では外国人を出来るだけ排除したいというのは、どう考えてもおかしいでしょう。
外国から来た人々、そしてその子どもや孫も一緒に生きている社会をどう形作っていくかというのは、どの国にも共通するテーマですが、スイスが今回、どういう決定をするのか興味深いところです。同じことは、もちろん日本の社会にも問われるわけです。たとえ半年間とはいえ、外国人として生きることの不安を経験しつつ過ごしているだけに、このテーマは身につまされるような感じがします。この感じを日本でも持ち続けないといけないはずなのですが。
スーパー「ミグロ」の入り口付近などで、『Surprise』という雑誌を売っている人たちがいます。この雑誌は、無職の人々の経済的自立を支援するプロジェクトによるもので、日本でも『Big Issue 日本版』(だったか?)という同種の雑誌があります(私の勤めている関西学院大学でもキャンパスで見かけます)。外国人だけが販売をしているわけではないのですが、不思議といつも見かけるのは黒人です。買っている人をまだ見たことはありません。値段は1部5フラン(450円くらい)。日本の Big Issue は200円だから、ちょっと高い感じがしますが、スイスの物価を考えれば、これが妥当な価格なのかもしれません。
今日、ミグロの近くを通った際、大柄な白人が、雑誌を売っている黒人に大声で怒鳴り散らしているのを見ました。原因が何だったのかはわかりませんが、いかにも、立場の弱い外国人に対する威嚇という感じで、気分が悪くなりました。
冒頭の広告は、同種のものが数日前にも掲載されていました。10年以上前に来たときには、それほど感じなかった(ベルンだったからかもしれませんが)外国人に対する冷たい空気を、ここチューリヒでは何度となく感じます。神学部の中で出会う人たちは皆温かい、いい人ばかりですが、街角では、人間の温かみがあまり感じられないような気がします。
救いは、今日の同じ新聞に、「パスポートなしでスイス人! 二つの『はい』を」という、逆の意見広告も出ていたことです。こちらは紙面1/2のサイズでしたが。
今日(9月21日)の紙面に、「自動的帰化のせいでもうすぐイスラム教徒が我々の女性政策をつくるのだろうか? 帰化法案に二つの『否』を!」という意見広告が全面サイズ(って言っても日本の新聞の半分以下ですが)が載りました(写真)。
来週の日曜日、9月26日にスイスでは国民投票が行われます。直接民主制のお国柄ですから、色々なことが国民投票、州民投票、市民投票にかけられるのですが(ベルン市では以前、町の市電の自動券売機を新しくするかどうかで市民投票をしたこともありました。結果は「否」。その後券売機は新しくなったはずですが)、今回のものは連邦の憲法に関わることなので、全国民の過半数と、23あるカントン(州)の過半数が要求される大きなものです。
投票にかかる法案は、外国人の「帰化」(という言い方はあまり好きでないが、要するに国籍を与えること)に関するもので、中身は二つ。一つは、連邦が、外国人の帰化に関する原則を定めることと、スイスで育った若者が国籍を取得できることを州が憲法で保証するようにすること。もう一つは、スイスで育った外国人から生まれた子ども(第3世代)が自動的に市民権を取得できるようにすることだそうです。
上に書いた意見広告は、この法案を否決するよう訴えるものですが、イスラム教徒を標的にして感情に訴えるという悪質な手口です。今スイスにはすでに31万人のイスラム教徒が生活している。さらに10万人の不法滞在者がイスラム教徒だ。イスラム教徒は猛烈な勢いで増えている。この調子で増えると2010年には62万人、2020年には124万人になる。連中は、他の宗教に非寛容で、性の平等を認めない。年少者を無理やり結婚させる、「聖戦」を言い訳にしてテロをやる、といった悪口のオンパレードです。
民族でなく、宗教を問題にしているので、おそらく民族差別に該当しないことになるのでしょう。しかし明らかに、イスラムが優勢な地域から来ている外国人を標的にした差別的広告です。
現在、チューリヒ市の人口はおよそ36万4000人(2003年末)。そのうち約30%(約10万人)が外国人です。約半数はいわゆる欧州経済圏に属する国からの人間ですが、他に、セルビア・モンテネグロから1万4000人、トルコから5500人、そしてクロアチア、マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナから併せて9000人となっています。アジアからは1万2000人弱ですが、そのうちスリランカ人が4300人。
チューリヒは外国人の多い町です。町に行けば色々な言語が聞こえてきます。スーパーに行けば、レジに座っていたり、商品を配架している人は外国人のことが多い。フランス人やイタリア人(実に多いそうです)は、ちょっと見ただけではそれとわからないので、つまりは、見るからに外国人(実はそうでない場合もあるでしょうが)という、西アジア、中央アジア、東アジア、アフリカからの人間が非常に多いということなのでしょう。
しかし、外国人が多いということは、長く住んでいながらスイス国籍を取れない人が多いということでもあります。スイスでは(スイスでも、と言うべきか)国籍をとるのが容易ではない。スイスでは地方自治体がその権限を握っているのですが(自分たちの地域共同体に受け入れるという決定をしなければ、受け入れてもらえない)、なかなか閉鎖的で手続きも複雑だそうです。(このことを皮肉った "Die Schweizermacher" という映画があります。)
今回の国民投票は、その手続きをスイス全体で統一し、きちんと法律化しようという意図によるもののようです。スイスに定住している外国人の4分の1は、スイスで生まれ、学校に通い、スイス方言を話すにもかかわらず、スイス国籍がもらえない状態だそうです。すでに14の州では手続きが簡素化されており、今回は、これを全スイスに広げようという意図があるとのこと。また、そのような第2世代から生まれる「第3世代」は年間2500人になるそうで、今回の法改正がなされれば、この子どもたちはスイス国籍を自動的に取得できるようになるようです。
このような動きは評価されるべきですが、それに反対する人々も多いわけで、この法案はすでに2回(1983年と1994年)否決されているのですが、94年の時は、州の過半数が取れずに可決できなかったとのことです。そして今回も、冒頭に掲げたような意見広告が大きく出されるわけです。しかし、正面切っての反対というよりも、イスラムをテロや女性差別と結びつける悪質で姑息な方法に訴えるやり方です。一方では、自分たちのやりたくない仕事を外国人にさせておきながら、他方では外国人を出来るだけ排除したいというのは、どう考えてもおかしいでしょう。
外国から来た人々、そしてその子どもや孫も一緒に生きている社会をどう形作っていくかというのは、どの国にも共通するテーマですが、スイスが今回、どういう決定をするのか興味深いところです。同じことは、もちろん日本の社会にも問われるわけです。たとえ半年間とはいえ、外国人として生きることの不安を経験しつつ過ごしているだけに、このテーマは身につまされるような感じがします。この感じを日本でも持ち続けないといけないはずなのですが。
スーパー「ミグロ」の入り口付近などで、『Surprise』という雑誌を売っている人たちがいます。この雑誌は、無職の人々の経済的自立を支援するプロジェクトによるもので、日本でも『Big Issue 日本版』(だったか?)という同種の雑誌があります(私の勤めている関西学院大学でもキャンパスで見かけます)。外国人だけが販売をしているわけではないのですが、不思議といつも見かけるのは黒人です。買っている人をまだ見たことはありません。値段は1部5フラン(450円くらい)。日本の Big Issue は200円だから、ちょっと高い感じがしますが、スイスの物価を考えれば、これが妥当な価格なのかもしれません。
今日、ミグロの近くを通った際、大柄な白人が、雑誌を売っている黒人に大声で怒鳴り散らしているのを見ました。原因が何だったのかはわかりませんが、いかにも、立場の弱い外国人に対する威嚇という感じで、気分が悪くなりました。
冒頭の広告は、同種のものが数日前にも掲載されていました。10年以上前に来たときには、それほど感じなかった(ベルンだったからかもしれませんが)外国人に対する冷たい空気を、ここチューリヒでは何度となく感じます。神学部の中で出会う人たちは皆温かい、いい人ばかりですが、街角では、人間の温かみがあまり感じられないような気がします。
救いは、今日の同じ新聞に、「パスポートなしでスイス人! 二つの『はい』を」という、逆の意見広告も出ていたことです。こちらは紙面1/2のサイズでしたが。
第2世代の国籍取得手続き統一についても、第3世代の自動的な国籍取得についても、いずれも結果は「否」。またしてもスイス・パスポートの壁は高いままにされたわけです。
今回の投票では、フランス語圏とドイツ語圏ではっきり結果が別れました。フランス語圏の各州が(例外はありますが)どちらの案件についても賛成多数だったのに対し、ドイツ語圏は反対多数。第3世代の国籍取得については、ベルン州やバーゼル州(都市部)といった都会の州は賛成でした。
結局、外国人にオープンな西スイス(フランス語圏)と、閉鎖的な東スイス(ドイツ語圏)という対照的なことになり、全体としては反対が多かったわけです。実にがっかりする結果でした。