銀河のサンマ

何でもあり

くまこ(春)

2019-03-13 | ものかたり(くまこ)




くまこは甘えん坊さんねえ」

きょうだいの中で一番早起きの、くまこはお母さんに抱っこしてもらうのが日課です。

くまことお母さんはお弁当をこしらえながら外をちらちらみています。

庭に淡いピンクの桜が咲き、今日はみんなで花見をしようと昨日から家族会議できめていたのでした。


 
 一匹の猫が道端に捨てられました。

目が開いて二週間ばかりでしょうか。

 猫はおぼつかない足で必死に歩き自分のお父さんやお母さん、お兄さんや、お姉さんを探しました。

けれども見つかりませんでした。

歩けなくなったら塀をもがくように登りあたりを見わたしましたが見つかりませんでした。

日が暮れても誰も迎えに来ることはありませんでした。

お腹が空いてきた猫は落ちているゴミ袋の中に食べ物をみつけましたが、小さな手ではゴミ袋を開けることはできませんでした。

(どうして僕だけ捨てられたのかな)

猫はとても悲しくなってしまいました。

 

 何日か経って猫は、お腹が空きすぎて力がでなってしまいました。

夜の塀の上からは、いろいろな家のあかりが灯ってきます。

美味しそうに夕飯を食べている匂い家。

お父さんが子供とお風呂で、はしゃぐ声。

女の子が面白そうに本を読んで笑っている所もありました。

 猫はうらやましくてたまりませんでしたが、それよりもお腹が空いて、あと十歩しか歩けそうにありませんでした。

「一歩、二歩、三歩、四歩、五歩... 」

塀の上でつぶやきます。

「六歩、七歩、八歩、九歩、十歩」

数え歩き終わったところに一軒の小さなあかりの灯る家にたどりつきました。

小さな家の中はにぎやかな様子です。

猫は少しかがんで窓のなかの部屋をのぞいてみることにしました。

(一、二、三、四、五、六っ!)

猫はおどろきました、だって、その家には猫がたくさんいるんだもの。その時

―ぐーっ!―

猫のお腹もおどろき大きく鳴りました。

猫はすぐさま、その家に向かって叫びました。

「みゃあ、みゃあ、何かちょうだいよ!」

すると家にいた一匹の猫が塀のうえにいる猫に気づきました。

「みゃあ、みゃあ、お腹ペコペコ!」

家にいた二匹目の猫が塀のうえにいる猫に気づきました。

猫はうらやましくて悲しくて、お腹が空きすぎて叫びました。

「みゃあ、みゃあ!お腹がペコペコ!みゃあみゃあ、苦しいよ!みゃあ、みゃあ、何かちょうだいよー!」

猫の声は次第にかすれ静かに目をつむり涙がこぼれ毛がぬれてゆきました。

(今日もご飯を食べることができなかった)

猫の心は何とも言えぬ苦しさにふるえました。

 すると「あら、塀のうえに子猫がいるわ」

家に住んでいる女の人が猫の声に気づき窓をあけ顔をだし猫をみつけました。

「捨てられたのかしら?」

誰かと話しているようです。

「おや、可愛い子猫だね、迷い子かい?」

「小さい子なのにね」

女の人は悲しい顔をしました。

 猫は目を開け最後の望みをかけ力をふりしぼり叫び言いました。

「みゃあ、みゃあー!家にいれて!お腹ペコペコ何かちょうだい!みゃあ、みゃあ!」

「この子を家に迎えてもいいかしら?」

「そうだね、じゃ塀のうえから部屋までジャンプできたら家族になろう」

「みゃあ、みゃあ!こわくて高くてジャンプできないよ!」

家にいる猫が皆あつまってきました。

「にゃあ、にゃあ、頑張って!」

「みゃあ、みゃあ、怖くてできないよ!」

「にゃあ、にゃあ、君ならできるさ!」

 

 塀のうえから部屋までの高さ二メートル。

家の猫たちの声援もあり猫はふるいたちました。

小さな手に力を入れ、肘をのばし深呼吸、耳をぴんと立て、お尻をあげて

「みゃおんっ!」

下へ下へ大ジャンプ、そしてドシーン!

大きな尻もちをつき部屋へ着地。

「この子本当にジャンプしたわ!お尻いたかったわね、おりこうさん」

 猫は痛いのなんて平気でした。

それよりお腹が空いてたまらなかったからです。

待っててね、と女の人は部屋の奥にゆき、急いでお皿いっぱいにのせた魚ご飯をもってきました。

猫は皿にとびつき、うなりをあげ夢中で食べました。何日も何日も食べていないからです。

「あわてて食べると、お腹いたくなるから気をつけてね」

女の人は、ほほえみ猫をなでますが猫はききませんでした。

それよりお腹が空いてたまらなかったからです。

男の人がそばにきて言いました。

「とてもお腹空いていたんだね、苦しかったね、ところでどこから来たんだい?」

猫はどこからきたのか、今は言いませんでした。

それよりお腹が空いてたまらなかったからです。

 六匹の猫も猫のまわり囲み、みまもります。

「名前はあるのかい?」

一匹の猫がそっとたずねました。

猫は口に魚ご飯が入ったままモゴモゴしてこたえました。

「く、く、くまこ」

これはお腹が空きすぎても言わないといけない、猫にとって特別なものでした。

黒に近い茶色の毛が熊の子にそっくりだと、その猫のお父さんとお母さんが猫が生まれた日に名づけたのでした。

名前を聞いて安心した猫たち男の人、女の人、皆にっこり。

「くまこ、ようこそ!」

この日から猫のくまこは六匹のお兄さん、お姉さんができました。

男の人はくまこのお父さん、女の人はくまこのお母さんになりました。


「さてさて、寝起きの遅い皆を起こしましょう、くまこ」

お弁当つくりがおわり、くまこは抱っこされ皆が寝ている部屋へ向かいます。

「みゃあ、ごろごろごろ。起きて!花見をするんだよ!」

「おはよう、くまこ。今日も抱っこかい?甘えん坊さんは早起きだね」

寝ぐせをつけ目をこする、お父さん。

「にゃあ、おはよう、くまこ、お母さん。花見たのしみだね」

一番上のお兄さんコテツが伸びをして起きてきました。

「にゃあ、おはよう、お弁当もう出来たの?」

二番目のお姉さんミャンが顔を洗いはじめ、次々あくびをしながら起きました。


 
 桜の木のしたで花見がはじまります。

お弁当には、お父さんの好きなおにぎりいっぱいと、子供たちの大好きな魚ご飯がぎっしりつまっています。

その時です、すずめたちが桜の花をついばみ、ちょんちょんとお弁当のうえに落ちました。

「桜ご飯だー!」

くまこが大きな声ではしゃぎ、お兄さんもお姉さんも舞う花びらを追いかけます。

くまこはもう、ひとりぼっちになることはありませんでした。

 

 













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