ずっと昔、昔、喧嘩をした。
今日こそ口きかない、そう強がっても涙が溢れ、台所の手拭きで涙を拭った。
夜遅く、ビニールポットに挿木した10センチ程の沈丁花を、彼が私に渡した。
知っている、私が花好きだから何かあげれば、その場がおさまることを。
知っている、花屋で一番安いものを探してきたことを。
知っている、渡した挿木が沈丁花だと彼が知らないことを。
知っている、それに対して許してしまうグニャんと撚れた自分自身の心を。
彼は知らない、私が沈丁花を好んで無いことを。
それでも許す自分は情けないと落ちこんだものだ。
実家や生家には沈丁花がたくさんあり、沈丁花のある場所は庭の暗い陰になる場所にあった。
地味な花のうえ葉の色は濃く、暗い場所にあることで子供の私からは何とも知れない花だった。
まあ2月の寒い時期に、春ですよーと香りで知らせてくれる「知らせ花」くらいに思っていた。
さて10センチほどの挿木は、みるみると大きくなり、今ではベランダの大将だ。
大きな火鉢の底に穴をあけて植え替えに苦労したほど大きくなった。
植え替えたということは、あれから大好きになったのだ。
香りは素晴らしく、寒くても少し窓を開けて家中、沈丁花香を漂わせていたくなる。
実家や生家の細かい記憶の部分まで香りが行き届き、頭のアルバムが整理されていく様。
幼い頃の体験と大人の体験が合わさらなければ、ここまで好きになれなかったかもしれない。
今朝気づいたが、寒いなら部屋に生けて嗅げばいいやん。と100均のガラスにさしてみる。
下手でも良い、生けてみる感が良きに良き、眺め、嗅ぐ、嗅ぐ、嗅ぐ、嗅ぐ(笑)
鼻がどんどん沈丁花に近づき、沈丁花も迷惑限りなしだろう。
ところで、20年以上経ったよ、沈丁花。
大きく太く成長して、御蔭で咲く時期が楽しみでしょうがない。
実家や生家の細かい記憶の部分まで香りが行き届く時は面白い。
喧嘩して打算でくれただろうが、君のチョイスは素晴らしかったと思う。
と、沈丁花をみて、今朝、急に当時のことを思い出したのが初めてな私(笑)
君は如何しているだろう、と考えたことがない。
君への「知らせ花」とはならんかった。
すまんね、花の方は愛おしくて(笑)