竹吉優輔「レミングスの夏」
二〇一四年、八月十七日
僕たちは小高い丘に立っていた。モトオは四年前夏の計画を、中二病だったのだといった。あの計画に誰よりの必死だったヨーコは夢を見つけ、ミトは今でもみんなのことを祈り続けている。だがここにナギはいなかった。
ナギは孤独に計画を練り上げ、僕たちを誘った。僕たちはナギと共に全力で戦った。そしてナギは僕たちの前から消えた。
あの夏僕たちはレミングスと名乗り、市長の娘の白石宏美を誘拐した。レミングスとは集団で移動し川や海を渡り、新天地を目指す鼠のことだ。僕たちなら必ずやり遂げられる。そして新天地にたどりつける。僕たちはそう信じていた。
その夜白石宏美の携帯から父である市長への要求を送りつけた。
「あなたの手腕は認めている。しかし改革を急ぐあまり、古きよきこの街を蹂躙しようとしている。我々はあなたに要求する。あなたが以下の六箇条をすべて守るなら、娘は八月末日には無事に戻るだろ。
街を思うなら。誠意を見せてほしい。我々は心から、平和を望んでいる」
六つの条件はいずれも町に古くからある施設の解体や運営にかかわるのもで、市長の独断で決定できるものばかりだった。市長が推し進めている開発計画の反対派の犯行のように見せかけたのだ。誰も中学生のやったことだとは思わないだろう……。
中学二年の夏、彼らは何故こんな誘拐事件を起こしたのだろうか。事件の真相はフラッシュバックのように一瞬垣間見られるのだが、全容は最後の最後まで分からない。そこが気になって読みつづけてしまう。
果たしてフレミングスの鼠たちは新天地にたどりつくことができたのだろうか。それとも途中でおぼれ死んでしまったのだろうか。
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