リアルタイムからずれてしまった話題だが、西武王国が崩壊して、堤義明氏が逮捕されたことは、専門学校のホテル学科で授業をするカッチイにとって大きな関心事だった。
国内80所を超えるプリンスホテルグループは、客室数では、日本最大であり、そのほとんどが高級ホテルである。ホテルの土地を含め所有、経営、運営するのは、所有直営方式と呼ばれるが、このような高級で大規模なホテルチェーンが、1つの企業グループの手によって、世界にもあまり例がないのだ。
この礎を築いたのが、堤義明氏の父、康次郎氏であった。彼の目指すものは、堤家の繁栄を目指した「堤商法」であり、できるだけ赤字会社に近づけることで、法人税を払わないという特異で、閉鎖的なものであった。彼の時代は、それで押し通せたのかもしれない。しかし、結局、子孫に負担を強い、罪作りなことをしたのが、この偉大すぎる先代だったという気がしてならない。
康次郎氏は、生涯に、5人の女性と「家庭」をもち、5人の息子をもうけた。そのなかから、自分に代わるカリスマの役目を、三男の義明氏に任じたが、この複雑な血縁関係が、兄弟間の諍いの呼んだ。
二男の堤清二氏は、西武百貨店を中心とした西武グループを形成し、辻井喬のペンネームで知られる作家でもある。流通業から、リゾート開発に走り、バブル期に、超豪華ホテル「ホテル西洋銀座」を建設して失敗しているが、今回の義明氏の失脚に及んで、コクド株の所有権を求めて訴訟を起こしている。
今の時代、経営者が何でも決めるというワンマン経営は、許されない。今、盛んに言われる企業価値というのは、売上額や資産だけで決まるものではない。企業の社会的責任が厳しく問われるのである。社会貢献をして、利益を社会に還元していくことが求められる。情報を開示し、環境保護に配慮し、地域社会とのコミニュケーションをはかることも必要なのだ。
株を守れという「家憲」を残した康次郎氏には、今の時代の要請する企業価値の基準など「想定のまったく範囲外」であったことだろう。父の呪縛を逃れられず裸の王様になった義明氏もある意味、犠牲者といえるかもしれない。しかし、部下を2人も自殺に追い込むまで、手をこまねいていた罪は、やはり深い。
ホンダやソニーが世界的な企業になりえたのは、創業者が、次世代の社長には、外部からのヒトを据えたことだと思う。