ぶらつくらずべりい

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詩「湿った肌と渇いた肌」

2010-02-25 06:09:46 | 
僕と彼女はお互いがお互いでなくてよかった。

僕は女の湿った肌と、ぬるぬるとした粘着質な穴に包まれたかった。

彼女は男の乾いた肌と、固くて熱く尖ったものを包みたいだけだった。

抱き合ったあと彼女はよく泣いた。

シーツに包まり背中を丸めただ泣くためだけに泣いていた。

彼女が僕に誰を重ねていたかは知らない。

何故なら僕たちは僕たちの内面について一切語ることを諦めていたから。

しかし僕たちは世界中でもっとも似ている存在だろう。

そこにある肌の温もりだけを温もりのもたらす優しさだけを信じていたから。

言葉や表情や仕種なんてまるで信じてはいなかったから。

僕たちはときおり、意味もなく饒舌になった。

かと思えば一言も喋ることなく無茶苦茶に抱き合って別れた。

けれど少なくともお互いの肌に触れているときはお互いに優しさに満たされていた。

僕たちはただそれだけの関係だった。