ぶらつくらずべりい

短歌と詩のサイト

みなかみ 若山牧水

2010-02-26 04:45:30 | クンストカンマー(美術収集室)
飲むなと叱り叱りながらにつぐうす暗き部屋の夜の酒のいろ

飲むなと叱りながらも、飲めと注ぐ。この複雑な親心を破調が表現している。親は子の欲求を満たしてやることが喜びであるが、健康のことも案じている。
その気持ちが分かるから酒の色が印象に残ったのだろう。この日の酒は苦かったのではないか。

詩「湿った肌と渇いた肌」

2010-02-25 06:09:46 | 
僕と彼女はお互いがお互いでなくてよかった。

僕は女の湿った肌と、ぬるぬるとした粘着質な穴に包まれたかった。

彼女は男の乾いた肌と、固くて熱く尖ったものを包みたいだけだった。

抱き合ったあと彼女はよく泣いた。

シーツに包まり背中を丸めただ泣くためだけに泣いていた。

彼女が僕に誰を重ねていたかは知らない。

何故なら僕たちは僕たちの内面について一切語ることを諦めていたから。

しかし僕たちは世界中でもっとも似ている存在だろう。

そこにある肌の温もりだけを温もりのもたらす優しさだけを信じていたから。

言葉や表情や仕種なんてまるで信じてはいなかったから。

僕たちはときおり、意味もなく饒舌になった。

かと思えば一言も喋ることなく無茶苦茶に抱き合って別れた。

けれど少なくともお互いの肌に触れているときはお互いに優しさに満たされていた。

僕たちはただそれだけの関係だった。


河野裕子 森のやうに獣のやうに

2010-02-24 06:07:47 | クンストカンマー(美術収集室)
愛、されど耳より聴かず ももいろに日向を歩く三半規管

構成の面白い一首。「愛」という言葉はどの器官で聞くのか。耳ではない。耳の奥の三半規管で聞く。だから、桃色に日向を歩く三半規管だと感じたのだろう。そして大事なことは三半規管はバランスや方向を司る器管であることだろう。