ヤマヒデの沖縄便りⅣ 歩き続けて 歩き続ける 再び

「基地の島」沖縄を歩き続け34年、気ままに綴ります。自然観察大好き。琉球諸島を戦場に据える「島嶼防衛」は愚の骨頂。
 

【拡散願います】沖縄から視る「安保3文書」(20231001)

2023年10月09日 | 他紙執筆原稿

沖縄から視る「安保3文書」(執筆は2,023年9月初旬)
◎本稿は社会主義協会発行「科学的社会主義」第306号 2,023年10月号に寄稿したものである。(山本英夫)

(Ⅰ)初めに
 2022年12月16日、岸田政権は、「安保3文書」(①「国家安全保障戦略について」、②「国家防衛戦略について」、③「防衛力整備計画について」)を閣議決定した。明らかに「違憲」と断じざるをえない文書が閣議決定だけで進むこの国の異状を私は憂い、怒っている。またこうした動きを批判する言辞が余りにも少ないことに危惧を覚えている。
 私は、去る6月11日、東京/世田谷で、同名のタイトル(写真を中心に)で講演会を行なった(主催:戦争させない世田谷1000人委員会)。そのご縁で貴誌に寄稿させていただいた。

(Ⅱ)「安保3文書」の何が脅威なのか?
 そこで先ず「国家安全保障戦略」を見てみよう。「1策定の趣旨」にこうある。「これまで、我が国を含む先進民主主義国は、自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値を擁護し、共存共栄の国際社会の形成を主導してきた」(2段落目)。(中略)「普遍的価値を共有しない一部の国家は、独自の歴史観・価値観に基づき既存の国際秩序の修正を図ろうとする動きを見せている。人類が過去一世紀近くに亘って築き上げてきた武力行使の一般的禁止という国際社会の大原則が、(中略)国連安全保障理事会の常任理事国により、あからさまな形で破られた」とある。
 「普遍的価値を共有する国家」対「普遍的価値を共有しない国家」と世界を分ける。この分断策は、あくまでも前者から見た仕分けだ。手前勝手な「価値観」を大上段に掲げ、「敵対国」をこき下ろすやり口。冷静に考えよう。78年前の敗戦に至るこの国は何をやってきたのか? 侵略・武力行使・虐殺をやってきたのが、この国だろう。今日「自由・民主主義・基本的人権」を尊重しているのだろうか。例えば、沖縄に対する自治・人権を一貫して否定し、米国尊重の立場を固執する国だろうに。また米国は、ベトナム戦争、アフガン戦争、イラク戦争などの加害国であり、どれだけの人々を殺してきたのだろうか。私たちは、空疎な「美しい言葉」に騙され、過去を忘れてはならない。
 無論、私もロシアのウクライナ侵略だと考えている。だが、こうも無神経な裁断では、世界の対立を固定化・強化するばかりだろう。
 そして「このような世界の歴史の転換期において、我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境のただ中にある。その中において、防衛力の抜本的強化をはじめとして最悪の事態をも見据えた備えを盤石なものとし、我が国の平和と繁栄、国民の安全、国際社会の共存共栄を含む我が国の国益を守っていかなければならない」と「軍事力による平和」を明確に打ち出した。「国家としての力の発揮は国民の決意から始まる」と、国民を「軍事力を第一とする国家」の防衛力=軍事力の担い手に、再び仕立て上げようとしているのだ。
 また、「Ⅲ 我が国の安全保障に関する基本的な原則」で、「3 平和国家として、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核3原則を堅持するとの基本方針は今後も変わらない」としているが、「4 拡大抑止の提供を含む日米同盟は、我が国の安全保障政策の基軸であり続ける」と主張。この「拡大抑止の提供」とは核軍拡の推進であり、相手に脅威となる力を拡大していくことだ。米国との同盟を強化しながら、自国の軍事力を抜本的に強化する道は、「専守防衛」とは相容れない。

(Ⅲ)防衛力=軍事力の基軸は日米同盟 
 「1 我が国の安全保障に関わる総合的な国力の主な要素」を①外交力、②防衛力、③経済力、④技術力、⑤情報力としている。しかし、①外交力とは長年の日米安保体制の中で培ってきた、米国依存、米国の力の下での外交だろう。プラス財政援助の金の力だろう。経済力はこの30年間に亘る劣化、「先進国」の中でも低成長が目立っている。経済力の低下を軍事力の強化で、カバーしようとするものだ。また技術力や情報力を軍事力の強化に活用していく姿勢が明白だ。総じてこの国は「防衛力」の強化と称して軍事力に依存した国家に成り下がる、日本版軍産学複合体への道であろう。
 「Ⅵの2 戦略的なアプローチとそれを構成する主な方策」の「(1)危機を未然に防ぎ、平和で安定した国際環境を能動的に創出し、自由で開かれた国際秩序を強化するための外交を中心とした取り組みの展開」のトップはお約束の如く「ア 日米同盟の強化」だ。「日米の戦略レベルで連携を図り、米国と共に外交、防衛、経済等のあらゆる分野において、日米同盟を強化していく」。
 また、同「イ」は「我が国は、インド太平洋地域に位置する国家として、日米同盟を基軸としつつ、日米豪印(クアッド)等の取り組みを通じて、同志国との協力を深化し、FOIPの実現に向けた取り組みをさらに進める」(FOIP:「自由で開かれたインド太平洋」構想)
 後段に「二国間、多国間の対話を通じた同志国等のインド太平洋地域への関与の強化の促進、共同訓練、情報保護協定・物品役務相互提供協定・円滑化協定の締結、防衛装備品の移転(後略)」とあり、軍事同盟への道だ。
 政府・防衛省は「同志国」とは、どの国を指しているのか、明らかにしていない。曖昧なまま、有事に米日同盟による対中封じ込めの共同作戦に関わる国を増やしたいのだろう。
 同「ウ 我が国周辺国・地域との外交、領土問題を含む諸懸案の解決に向けた取り組みの強化」として対中外交を規定している。「不測の事態の発生を回避・防止するための枠組みの構築を含む日中間の取り組みを進める」。これは硬軟両面作戦だろうが、どれだけの歯止めになるのだろうか。また現下の福島第一原発からの汚染水の放出に対する中国政府の対応は、厳しいものであり、日本国内の漁業水産物全面禁輸措置、首脳会談の延期などが何を意味するのか、吟味しておくべきだ。

(Ⅳ) 軍事力の抜本的強化
 以下、「Ⅳ 2 (2)我が国の防衛体制の強化」の概要を確認しよう(この詳細が、文書➁の「国家防衛戦略について」に示されている)。 
 「力による一方的な現状変更及びその試み」が生起したときに対応できる「防衛力を抜本的に強化していく」と武力にのめり込んでいる。2018年の「防衛計画大綱」に示された領域横断作戦(宇宙・サイバー・電磁波プラス従来の陸海空の能力の有機的結合)。さらにスタンドオフ防衛能力等による「反撃能力」の確立だ。
 ミサイル戦等が複雑に深化し、軍拡にまっしぐらだ。スタンドオフミサイルとは敵の攻撃能力の及ばない地点から、より速く攻撃することだ。こうした「能力」の開発競争になる。発射地点も陸海(海中を含む)空に広がり、一方的勝利はないだろう。また攻撃は、軍事拠点に留まるまい。住宅や工場、病院などにも広がろう。そもそも原発の被災に如何に対処するのだろうか? 日本の原発は攻撃されないとは、「希望的観測」に過ぎない。総じて「国民の生命・身体・財産の安全を確保する」と言うが、言葉だけの欺瞞だ。
さらに「(3)米国との安全保障面における協力の深化」は、「核を含むあらゆる能力によって裏打ちされた米国による拡大抑止の提供を含む日米同盟の抑止力と対処力を一層強化する」とある。
 「(4)我が国を全方位でシームレスに守るための取り組みの強化」は、「能動的サイバー防御」、「海洋安全保障の推進と海上保安能力の強化」(シーレーン防衛)、宇宙の安全保障、技術力の軍事利用の促進・官民連携、安全保障のための情報力の強化、有事も念頭においた国内での対応力の強化(警察・海上保安庁・民間空港・港湾等)。国民保護のための諸施策、在外邦人の保護、またジブチ(中東―インド洋の西に位置するアデン湾沿い)に設けた戦後初の海外基地の活用と多岐に亘る。その最後の項目に、エネルギーや食料などの資源の確保が並んでいる。
 しかし、エネルギーも食料も従前から海外に依存してきたこの国が、いざ有事を見据えて慌てているのだろう。「有事にも耐えうる強靱なエネルギー供給体制を構築」とあるように、軍事優先の計画を整備するのだろう。食料は人々の暮らしの基本だ。しかし戦争が起きれば、生産も輸入も低下し、不安定になる。ウクライナ戦争でも立証されている。
 ここで「反撃能力」と「敵基地攻撃能力」について一言ふれておく。そもそも先制攻撃か反撃かを戦争の中で誰が判断できるのか。スタンドオフミサイルや軍事衛星などを配備すれば、敵基地司令部を叩ける。大規模戦争に構えながら、「専守防衛は変わらない」とは、強弁にも程があろう。

(Ⅴ)何故こんなトンデモナイ政治決定がなされてきたのか?
 ①「防衛計画大綱」改訂の流れの中で
こうした流れは、いつから始まったのか? それは民主党政権下の2010年末の「防衛計画大綱」にある。この「Ⅳ 我が国安全保障の基本方針」で「(3)我が国の防衛力―動的防衛力」を打ち出した。従来の「基盤的防衛力構想」を廃棄し、動的防衛力を「各種事態に対し、より実効的な抑止と対処を可能とし(後略)」と定めた。
「力には力を」の論理を台頭させたのだ。「Ⅴ 防衛力のあり方」に「ア 周辺海空域の安全確保」、「イ 島嶼部に対する攻撃への対応」「ウ サイバー攻撃への対応」「エ ゲリラや特殊部隊による攻撃への対応」等を掲げた。新たに「動的防衛力」の要に位置づけられたのが「島嶼部に対する攻撃への対応」だ。ここから沿岸監視隊(与那国島)や対艦ミサイル部隊・対空ミサイル部隊(石垣島・宮古島・奄美大島)が新設されていく(以上「中期防衛力整備計画」2011年―15年)。また陸海空の統合運用が重視されていく。
そして安倍政権になった2013年末の「防衛計画大綱」は「統合機動防衛力」を打ち出した。陸海空の統合運用の強化を前提に、その柱を「平素から、常時継続的な情報収集・警戒監視・偵察活動」の強化と、「安全保障環境に即した部隊配置と機動展開を含む対処態勢の構築」とした。また「日米同盟の強化」を改めて打ち出した事は重要だ。陸海空の統合運用は米日共同作戦下で一体化されていくからだ。
こうして島々に陸上自衛隊等の部隊が置かれていき、全国的に陸海空それぞれの態勢が強化されていく。また、「日米防衛協力のための(軍事)指針」の見直しが明記された。 
 さらに安倍政権は2018年末に防衛計画大綱を改訂。18防衛計画大綱は、「安保3文書」の素案と呼んでも過言ではない。18大綱は「多次元統合防衛力」に飛躍した。これは宇宙・サイバー・電磁波という新たな領域に従来の陸海空の能力を組み合わせた時代を画する新たな軍事作戦だ。「平時から有事までのあらゆる段階における活動(=作戦)にシームレス(=つなぎ目のない)に実施できること」を重視。何よりも「日米同盟の強化」が明確に打ち出されている。
 「宇宙・サイバー・電磁波」+「陸海空」とは、地球上のみならず宇宙へ、また、益々見えない戦争になるだろう。島嶼部への対応の項目に「侵攻部隊の脅威圏の外から、その接近・上陸を阻止する」とスタンドオフ防衛能力が付記されている。
 
➁2014年の集団的自衛権の「解釈改憲」と2015年の「日米ガイドライン」(軍事指針)の改定
 米国政府は、2013年に「日米ガイドライン」の改定を安倍政権に提起し、安倍政権は、2014年7月1日、「集団的自衛権の部分的合憲化」を閣議決定した。それが2015年4月の「日米ガイドライン」改定に繋がり、その中身が整理され、「18年大綱」に至ったのだ。
 2014年の「集団的自衛権の部分的合憲」化を、岸田政権は、国会審議を経ずに「安保3文書」でエスカレートさせたのだ。これは、米国政府と、米国に追随する日本政府、立憲主義の破壊に感度の鈍い野党と国民の意識が折り重なって成立したのだろう。
 
(Ⅵ)沖縄から視る意味 
 琉球諸島などに自衛隊基地を新設したことによって、「島嶼部」での武力行使は、個別的自衛権(自国への攻撃への反撃)となった。しかし「個別的自衛権だから反撃は当然」なのだろうか。そこに島民・住民が住んでいる。この構想は、石垣島・宮古島・沖縄島の間を中国軍が太平洋に出ることを阻止しようと考えられてきたものだ。対艦ミサイル部隊を新設したが、撃てば反撃される。島の自衛隊は破壊される。水陸機動団や即応機動師団などが駆けつけ奪還作戦を行なう。ボコボコにされる島。「国民保護」で九州に避難できる? 軍事力が優先される社会となって、誰が「保護」され、されないのか。
 2021年、米国が「台湾有事」を煽りだした。まだ沖縄の人々の関心は、高まっていない。ひとつひとつの島々から関心を高め、連携していこう。

 「軍隊は住民の命を守らない」。私は、今こそ『平和に生きる権利』を掲げ、琉球諸島を、台湾を戦場にしないと訴えたい。沖縄を、人々が暮らす場を、何処の国でも、誰でも、蹂躙することは許されない。私たちは、被害者にも加害者にもなりたくない。対話する心を育み、武力に依存し奢る生き方を拒否しよう。
 最後に一言。「3文書」の①「国家安全保障戦略について」➁「国家防衛戦略について」の2つの文書に、「沖縄の負担軽減」―「普天間飛行場の移設を含む在日米軍再編」が記されている。しかし今見てきた通り、米日相俟っての軍事力強化の一環としての「移設」なのだ。
「基地の島沖縄」を無視し、揶揄する態度は、アジアにおける戦争への道を加速するだろう。「安保3文書」を各地で直視していただきたい。軍事がもたらす、とてつもない破壊力を、私たちが学び深めよう。沖縄島でも、辺野古新基地建設を阻止し、普天間基地の即時無条件返還を勝ちとる闘いと様々な課題を結ぶ広がりを創り出さなければならない。(本文中、下線は引用者が付した)

 

◎同号に山城博治さんが「沖縄を再び『地獄の戦場』にさせないために」を書かれている。二つ並べて読まれることをおすすめします。彼と私が名前を並べるとは思いませんでした。(ヤマヒデ)



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