○本稿は、「世田谷いち」(23年2月1号)に寄稿したものを転載する。
「安保・軍事3文書」以降の沖縄から①
(1)安保・軍事3文書が出されて
ご承知の通り、岸田政権は、「国家安全保障戦略について」、「国家防衛戦略について」、「防衛力整備計画」を2022年12月16日閣議決定した。
1月に入り、米日安保・外交首脳会談「2プラス2」が行なわれ、バイデン・岸田の首脳会談も行なわれた。岸田首相は、この3文書について「1年余りかけて議論してきた」と胸を張った。全て政権の内輪での議論でまとめ、各国の首脳会談で確認し合う手法だ。「勝手に決めるな!」との批判は正当だが、彼らの視線は、米国の政権に注がれているのだ。
私は従来から、この国は「米国」―「日本国」―沖縄の垂直的な差別分断支配に置かれていると指摘してきた。この安保3文書は、この姿勢を鮮明にしている。軍事力で固めた先に何が待っているのだろうか?
(Ⅱ)「島嶼防衛」から対中戦争最前線へ
私は、本連載を通じて、「防衛計画大綱」の再編を通じた「島嶼防衛」を批判してきた。それが「国家防衛戦略」に格上げされたのだ。沖縄の米軍基地は、2006年のグアム再編以来海兵隊基地の大幅移転が準備されてきた。グアムにキャンプ・プラズの建設が進んでいる。その心は当初から対中戦争に備えるためだ。沖縄では中国から近すぎ、ヤバすぎるのだ。米国・米軍は距離をとり、視界を広げ、軍事基地の分散配置を進める。沖縄-「日本」に自衛隊を増強させ、米軍を補完させ、戦える同盟軍を造らせてきた。
この国が掲げてきた「専守防衛」の衣は、甲冑に「専守防衛」と書いただけになってしまった。もしも交戦したら、ペンキは剥げ、肉片がこびりつく。否、ミサイル攻撃を受ければ肉片も残るまい。対中最前線になるとは、沖縄・琉球諸島だけでカバーできないのだ。軍事網は物質的に、電子的に繋がってこそ偉力を発揮できるからだ。
那覇空港の隣が陸上自衛隊15旅団司令部。この書は「第15旅団の我らは美しい島と沖縄県民の真心を守るため、身命を賭して護衛の任務に就く」とある。トホホ。
(Ⅲ)第15旅団の師団化計画に着目すべき
さて、私が今度の計画で特に着目しているのは「第15旅団」の「第15師団」への格上げ計画だ。如何なる意味か。単純に言えば、旅団は約4000名規模の独立して戦える部隊編成だ。師団は約9000名規模の部隊編成。倍増計画となる。
何故ここに着目するのか? それは2010年の防衛計画大綱以来、琉球諸島は島嶼だから、大部隊をおけないと、小規模の対艦ミサイル、対空ミサイル、警備隊(小規模の歩兵部隊)の編制を打ち出した経緯がある。自衛隊の基地は全国的に狭小だ。北海道、他を例外として。だが、軍隊が軍隊たるためには、常に演習場での訓練を重ねない限り、精強な部隊を維持できない。沖縄の演習場の殆どは米軍優先使用だ。その米軍がグアム島に移れば、演習場の空きもできる。つまりこのグアム移転と自衛隊の師団化はワンセットなのだ。
現行の第15旅団は、第51普通科連隊、第15高射特科連隊、同後方支援隊、同情報隊、同施設隊、同ヘリコプター隊、同偵察隊、同通信隊、同特殊武器防護隊、宮古警備隊で編成されている。ここに普通科連隊が1個連隊増設されれば、後方支援隊、施設隊、ヘリコプター隊、偵察隊、通信隊等も増設・増員されるだろう。軍隊が跋扈すれば情報保全隊などの民衆管理部隊も強化されよう。重要土地管理規制法の運用との絡みも強化されるに違いない。
現行約3000名の第15旅団が如何なる第15師団になるのか詳細は不明だが、島々の部隊と、佐世保等の水陸機動連隊、各地の即応機動連隊、また米国海兵隊(即応海兵連隊等)との共同作戦・演習となる。
グアム再編で、在沖米軍の数は減っても、戦闘部隊としての自衛隊が増強されていけば、平時においても、沖縄の負担軽減はありえまい。(続く)