ヤマヒデの沖縄便りⅣ 歩き続けて 歩き続ける 再び

「基地の島」沖縄を歩き、琉球諸島を巡る基地・戦争への道を問いかけ、自然を語る。●無断転載、お断り。
 

【補足】核兵器禁止条約の発効と私たちが考えたいこと(20210124)

2021年01月24日 | 考え直すために
(Ⅰ)はじめに
 核兵器禁止条約が2021年1月22日、遂に発効した。大いに歓迎すべきだと私は考える。私たちが暮している地球が核に汚され始めたのは1945年7月からだ。同年8月6日のヒロシマ、9日のナガサキに原爆が投下された。米国が核兵器に先鞭をつけたが、対抗する形でソ連が所有・配備するようになり、89年米ソが冷戦終結を宣言したものの核兵器は、米、ソ(ロシア)、イギリス、フランス、中国、さらにインド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮に拡がっている。
 この75年余りの経過の中でも特筆すべき事があった。1954年3月Ⅰ日のビキニ環礁での核実験による第5福竜丸など多数の漁船の乗組員や周辺の多数の島々の島民が核汚染に晒されるなど、あちこちで核実験による被爆事故も絶えなかった。1962年、キューバ危機が勃発し、米ソ核戦争一歩手前に至ったのだ。1970年3月に核拡散防止条約(NPT)が発効したが、これは核保有国(米・ソ・英・仏・中の5カ国)と非核保有国を分離し、前者の核の保有の特権化と後者への核拡散防止だった。要するに核という最大且つ極限の暴力を肯定した上での支配秩序の整理に過ぎなかったのだ。
 こうした中で、被爆者達の努力を初め、NGOやオーストリアなどの有志国の取り組みの中で、1996年7月国際司法裁判所が、核兵器の使用は国際人道法に反するとの勧告を出した。これが国連での核兵器廃絶に向けたステップとなり、2013年3月核の非人道性に関する国際会議がオスロ(ノルウェー)で初めて開催された。2017年3月27日、国連本部で核兵器禁止条約交渉が始まり、同年7月7日、核兵器禁止条約が採択された。同年12月、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)がノーベル平和賞を授与された。同条約を批准した諸国が50カ国となり90日後の2021年1月22日、同条約が発効に至ったのだ。

(Ⅱ)核兵器禁止条約の要点を押さえる
 この核兵器禁止条約の批准国は、全て非核国ばかりだ。核兵器保有国はそっぽを向いたままだ。しかしだからといって、無力なのだろうか。以下条文に当たりながら検討する。
 「【前文】本条約の締約国は、国連憲章の目的と原則の実現に貢献することを決意する。
 核兵器の使用によって引き起こされる壊滅的な人道上の結末を深く懸念し、そのような兵器全廃の重大な必要性を認識し、全廃こそが如何なる状況に於いても核兵器が二度と使われないことを保証する唯一の方法である。」
 核兵器の全廃をすっきりと打ち出し、人道上の視点を価値判断の基礎に据えている。
【本文】第1条の禁止項目は核兵器の開発・実験・製造・生産・獲得・保有・貯蔵、移譲、移譲の受け入れ、使用・威嚇、核爆発を支援・奨励・勧誘すること、核に係わる支援を要請し、或いは受け入れること、配備・導入・展開の容認と、事細かに揚げている。
 また、第6条に被害者支援と環境改善を揚げている。この事項が重要なのは核実験等による被害から差別することなく支援し、「これらの者が社会的、経済的に孤立しないようにする」とあるからだ。環境改善についても明記している。
 第7条に「国際協力と支援」が謳われており、締約国間の協力、国連機構との協力が謳われている。
 第8条に「締約国会議」が定められ、本条約の履行と締約の状況などを協議する。会議は国連事務総長によって開催され、非締約国、国連機関等、NGO(非政府組織)も参加できる。
 第12条「普遍性」が謳われており、「締約国は」本条約の非締約国に対し、全ての国の普遍的な支持という目標に向けた条約の署名、批准、受諾、承認、加盟を促す。
 つまり核兵器禁止がこの世界の正義であり、これは普遍的なものだと宣言しているのだ。無論、今後も核保有国と核兵器禁止条約締約国との緊張が続く。後者を支持する人々が、諸国がどれだけ増えていくのかにかかっているだろう。

(Ⅲ)加盟国と、あれこれ
 参加加盟国は51カ国・地域。
◎中南米が21カ国:アンティグア・バーブーダ、ベリーズ、ボリビア、コスタリカ、キューバ、ドミニカ、エクアドル、エルサルバドル、ガイアナ、ホンジュラス、ジャマイカ、メキシコ、ニカラグア、パナマ、パラグアイ、セントクリストファー・ネビス、セントルシア、セントビンセント・グレナディーン、トリニダード・トバコ、ウルグアイ、ベネズエラ。
◎オセアニアは10カ国:クック諸島、フィジー、キリバス、ナウル、ニュージーランド、ニウエ、サモア、ツバル、バヌアツ、パラオ。
◎アジアは7カ国:ラオス、マレーシア、タイ、ベトナム、バングラデシュ、モルディブ、カザフスタン。
◎アフリカは7カ国:ベナン、ボツワナ、ガンビア、レソト、ナミビア、ナイジェリア、南アフリカ。
◎欧州は5カ国。オーストリア、バチカン、アイルランド、マルタ、サンマリノ。
◎中東は1地域:パレスチナ。
 確かに核保有国はゼロだし、小国が殆どだ。しかし小国だからこそ核廃絶・核兵器禁止に動いたのだ。動けているのだ。小国は軍事産業が成長し、依存する構造になりにくいのだ。     
 特に中南米が多いのは、1968年にトラテロルコ核兵器禁止条約を交わしてきた歴史があるからだ。これは1962年のキューバ危機の反省から生まれたものだった。米国の裏庭みたいな諸国は、そこらで核戦争をやられたら、壊滅させられる。核ミサイルが落とされなくても、核物質は流れ流されやってくる。

(Ⅳ)核を認めるのか否かの文明論
 核を認める文明・諸国は、暴力を究極的に追求していく。否、これは原因と結果が逆か。暴力=力が正義は〇〇ファーストに陥るし、「俺が絶対の世界」(国)のナショナリズムと差別に至る。自然界に存在しなかったもの(プルトニウムなど)をつくりだし、圧倒的な破壊力に変えるなど、人間の欲望の極地をいく。核開発と環境保全はトコトン対立する。
 人間が核を捨てる判断は、人間が人類として生き延びる上で最低限の価値転換ではなかろうか。この条約の発効を契機に私が考えたいことだ。

(Ⅴ)「被爆国日本」は何故批准しないのか?
①この国に沿って考える
 日本政府の本条約への対応は、積極的に反対だ。棄権ですらなく、公然と反対を表明してきたのだ。「米日核安保体制」を追求し、「核抑止力」を信奉しているからだ。この態度は被爆から76年変わっていない。2重基準、欺瞞的な政策なのだ。
 被爆国日本が態度を改めれば、国際的な影響力をもつことはまちがいない。

②日本民衆(私たち)に沿って考える
 私たちは何故こんな政府を選んできたのだろう? 軍隊を自衛隊と言い換え、核安保体制を非核3原則と欺瞞して、過ごしてきた日本。だからヒロシマ・ナガサキですら、8月6日と8月9日としか考えていないのだ。だからヒバクシャのご尽力にお任せしてきたのではないか。ヒバクシャが苦しめられてきたのは日々刻々なのだ。これは被爆に限らず、戦争の痛手は大なり小なりそうなのだ。私たちは反省するしかない。
 私たちの多くが無関心できたのは、米国の存在が大きな重しになってきたからだ。米国は物質と自由を宣伝しながら、核爆弾のことを軍事機密にしてきた。核に関する表現の自由を奪ってきた。52年4月28日までの占領下はそうだった。ヒロシマ・ナガサキー反原爆の声が噴出したのは54年3月Ⅰ日の第Ⅴ福竜丸事件が表面化してからだ。原水禁運動。
 だから反核運動は反戦運動から切り離されてしまった。米国占領下の軍事機密・弾圧と、核実験による被害者を救え・マグロをまもろうによって。無論、核実験がもたらす人人への影響とまぐろなどの食べ物への問題と、反戦は本来重なっている。少し考えれば、わかることだ。核兵器の巨大な破壊力は個々人を殺すレベルから広範な地域を汚染し、環境を丸ごと汚染し、緩慢なる死をもたらすレベルに跳ね上がっているのだ。
 また、米国が核武装一番乗りだったが、これはドイツも日本もソ連も考えていたことだ。核というトンデモナイ破壊力を知っており、それぞれが研究していた。経済力・技術力・組織力に優れていた米国がいち早く具体化させたのだ。
 戦後生まれの私たちは、こうした歴史を知らなすぎる。戦時下の日本は、今で言う大量破壊兵器である化学兵器・生物兵器の研究をやっていた。中国では人体実験を重ねながら生物兵器・化学兵器を製造し、使用していた。核兵器については実践的な研究段階に至っていなかった。生物兵器については「731部隊」などとして知られている。
 その極めつけは、大日本帝国はその生物兵器の研究を米国に献上したのだ(「731部隊の生物兵器とアメリカ」ピーター・ウイリアムズ、デヴィッド・ウォーレス著 かもがわ出版、2003年刊など参照)。こうしたことも日本政府が米国を2度の核攻撃を国際法違反で告発しない陰の理由の一つとなっており、両国の「日米同盟」といわれる間柄には根深いものがあるのだ。
 これから日本という国が人道的な立場に立つとすれば、こうした歴史の暗部を自己切開し、生き直すことが問われているはずだ。

(Ⅵ)沖縄から考える
 既に長くなってしまったので、問題点だけ整理する。
①沖縄戦とヒロシマ・ナガサキを共に考えることから浮かび上がってくること。
②米国の沖縄の軍事占領から、「戦後日本」は再出発したこと。
③普天間基地などはハーグ陸戦条約(国際法)違反のまま日本に返還されていないのだ。少なくとも72年5月15日をもって、沖縄の日本国への返還と同時に、戦争で奪った土地・基地を米日政府は沖縄に返すべきだった。即刻返すべきなのだ。
④国際人道法など人道的な立場から、沖縄の状況も原爆の問題も考え直すべきだろう。
 核兵器禁止条約の発効は、私たちにもヒバクシャ・ヒロシマ・ナガサキ、原発ヒバクシャの問題を考え直すことと、沖縄の問題を共につかみ出す契機にできないかと私は考えている。今後も皆様と共有化していきたい問題群だ。

【後記】この問題について私は以前から書かなければと思いつつも、書けませんでした。核兵器禁止条約からも学びながら、歩みたいと考えます。




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