工場萌え、である。
出るべくして出た、というか、
手に取っただけで恍惚としてしまう自分は何なのだろう。
元来、男の子は誰でも、メカメカしいものに惹かれる素養を持っている。
車やバイク、飛行機、ロケット、銃器、オーディオ機器等々、
完成品としてのデザインや存在感の美しさから始まって
エンジンやモーター、配線などのディテールに興味がいくものだ。
とすると「工場」というのは巨大なエンジンみたいなものだから
そこに萌える心理はほとんど変わらない、と言っていい。
ただし、異なってくるのは
「商品」として生産されるモノには少なからず「デザイン」が施され
目的に沿った(あるいはあえてハズした)美的な形態を持っていることに対して
「工場」はあくまでも生産の場としての機能性を優先し
構造物としての美しさを目的としていないことにある。
もちろん、景観や地域社会に対する配慮から設計上工夫されていることは
多々あるだろうが、そこに惹かれるわけではない。
むしろ、増殖を続けた結果、想定外に生じた風景のズレの中に
面白さがあるのだと思う。
本書は工場景観を金属的なジオラマの一種として
映像化しており、夜景が多く取り上げられている。
いわば、ちょっとレトロなSF映像といった趣きで
メカニカルな凄さや、幻想的な光景が楽しめる。
あえて話をそらすと
工場景観の本質は、それが決して美しくないことにあると思う。
「生産」というプラスのエネルギーを孕みながら、
同時に人間の欲望と自然破壊の醜怪をむき出しにせざるを得ない場所。
生産という行為が、当然のごとく「廃棄」と結びつく虚脱感。
そういう二面性が、廃墟写真と同様な後ろ暗さ、羞恥心を刺激する。
目線を変えれば、白日の元にさらされた錆びた鉄骨があり
敷地の片隅で回収を待つ、塗装のはげた、へこみだらけのドラム缶が見え
生産の代償として排出される、廃棄物の山に遭遇する。
さらに本やビデオではわからない、独特の臭気とノイズ。
それを見ることは、痛みを求め血をむさぼる
ゴス的な、頽廃的エロスの世界に踏み込むことになる。
夜景はその羞態を隠し、光に彩られた美しさのみを浮き上がらせる
厚化粧に過ぎない。
前書きの中でも語られているように
本書は、工場という存在自体の複雑な社会背景にはあえて触れずに
都市景観の一部として気軽に楽しむことを目的に編集されている。
いってみれば「戦争」を一時棚上げにして
戦闘機や戦車のプラモデルに興じる心理と同じことで
興味と好奇心、探究心の純粋な追求により
ゴス的な「倒錯」を免れている。
後半の工場を見るためのスポット紹介は地道なフィールドワークの成果。
ぜひ全国規模に拡大して欲しいものだ。
また、工場と親和性の高い音楽や、工場を背景にした映画やら小説やらも
紹介されており(『ハチクロ』まで含まれてる!)
この世界の情報交換の活況ぶりが伺い知れる。
ゴス・グロに踏み込まない軽さと、ほどよい深さが
『工場萌え』たる所以であろう。
ちょっとズレたアイドルの水着写真集的な楽しみ方で、正解。
余談だが、横浜地下街の有隣堂の写真集コーナーでは
なぜかこの本だけ、まるでエロ写真集のごとくシュリンクされていた。
相当、好きモノの担当者に違いない。
『工場萌え』 石井哲:写真 大山顕:文 東京書籍 ¥1,900(税別)
出るべくして出た、というか、
手に取っただけで恍惚としてしまう自分は何なのだろう。
元来、男の子は誰でも、メカメカしいものに惹かれる素養を持っている。
車やバイク、飛行機、ロケット、銃器、オーディオ機器等々、
完成品としてのデザインや存在感の美しさから始まって
エンジンやモーター、配線などのディテールに興味がいくものだ。
とすると「工場」というのは巨大なエンジンみたいなものだから
そこに萌える心理はほとんど変わらない、と言っていい。
ただし、異なってくるのは
「商品」として生産されるモノには少なからず「デザイン」が施され
目的に沿った(あるいはあえてハズした)美的な形態を持っていることに対して
「工場」はあくまでも生産の場としての機能性を優先し
構造物としての美しさを目的としていないことにある。
もちろん、景観や地域社会に対する配慮から設計上工夫されていることは
多々あるだろうが、そこに惹かれるわけではない。
むしろ、増殖を続けた結果、想定外に生じた風景のズレの中に
面白さがあるのだと思う。
本書は工場景観を金属的なジオラマの一種として
映像化しており、夜景が多く取り上げられている。
いわば、ちょっとレトロなSF映像といった趣きで
メカニカルな凄さや、幻想的な光景が楽しめる。
あえて話をそらすと
工場景観の本質は、それが決して美しくないことにあると思う。
「生産」というプラスのエネルギーを孕みながら、
同時に人間の欲望と自然破壊の醜怪をむき出しにせざるを得ない場所。
生産という行為が、当然のごとく「廃棄」と結びつく虚脱感。
そういう二面性が、廃墟写真と同様な後ろ暗さ、羞恥心を刺激する。
目線を変えれば、白日の元にさらされた錆びた鉄骨があり
敷地の片隅で回収を待つ、塗装のはげた、へこみだらけのドラム缶が見え
生産の代償として排出される、廃棄物の山に遭遇する。
さらに本やビデオではわからない、独特の臭気とノイズ。
それを見ることは、痛みを求め血をむさぼる
ゴス的な、頽廃的エロスの世界に踏み込むことになる。
夜景はその羞態を隠し、光に彩られた美しさのみを浮き上がらせる
厚化粧に過ぎない。
前書きの中でも語られているように
本書は、工場という存在自体の複雑な社会背景にはあえて触れずに
都市景観の一部として気軽に楽しむことを目的に編集されている。
いってみれば「戦争」を一時棚上げにして
戦闘機や戦車のプラモデルに興じる心理と同じことで
興味と好奇心、探究心の純粋な追求により
ゴス的な「倒錯」を免れている。
後半の工場を見るためのスポット紹介は地道なフィールドワークの成果。
ぜひ全国規模に拡大して欲しいものだ。
また、工場と親和性の高い音楽や、工場を背景にした映画やら小説やらも
紹介されており(『ハチクロ』まで含まれてる!)
この世界の情報交換の活況ぶりが伺い知れる。
ゴス・グロに踏み込まない軽さと、ほどよい深さが
『工場萌え』たる所以であろう。
ちょっとズレたアイドルの水着写真集的な楽しみ方で、正解。
余談だが、横浜地下街の有隣堂の写真集コーナーでは
なぜかこの本だけ、まるでエロ写真集のごとくシュリンクされていた。
相当、好きモノの担当者に違いない。
『工場萌え』 石井哲:写真 大山顕:文 東京書籍 ¥1,900(税別)