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人が観察することが難しい海の中や空での生き物の生態を研究するために撮影されたもので、こうした調査手法は「バイオロギング」と呼ばれています。

2024-11-19 07:33:05 | その他
上の映像は、海鳥のおなかに付けた小型カメラで撮影された決定的瞬間。よ~く見ると、海に飛び込んだ海鳥がイカを捕まえて食べようとしています。


人が観察することが難しい海の中や空での生き物の生態を研究するために撮影されたもので、こうした調査手法は「バイオロギング」と呼ばれています。

知られざる「バイオロギング」研究の現場を取材しました。

(仙台放送局カメラマン 福田洋介)

謎に包まれたウミガメの生態を解き明かせ
東京大学大気海洋研究所では、岩手県大槌町を拠点に約20年前からウミガメのバイオロギング調査を行っています。

暖かい地域に生息しているイメージのウミガメですが、水温が高くなる時期に定置網漁の網にかかるなど、三陸の海でもその姿が確認されてきました。
この研究所の佐藤克文教授です。

ウミガメの研究は主に関東より南の産卵場所で行われてきましたが、佐藤教授はあえて産卵の時期でない時に過ごす三陸の海で調査を続けています。
佐藤克文教授
「ウミガメは産卵期以外の季節にどこで何をしているのか全然分かっていなかったんですが、どうも三陸の海というのは、大人になる前の青年期のウミガメにとって成長するのに非常に都合の良い餌場ではないかという新しい状況が見えてきました」
青年期のウミガメは海の中で何を食べて、どう過ごしているのか?
いよいよ調査開始。佐藤教授の研究グループの学生たちによってアカウミガメに計測器が取り付けられます。

「バイオロギング」は人が直接調査することが難しく、謎に包まれていた生態を解き明かすために用いられています。

今回の調査は誤って定置網などにかかってしまったアカウミガメを、地元の漁協の協力を得て港まで運び、海に戻すタイミングで行いました。
ウミガメの背中に取り付けた計測器で、海の中の行動を撮影するカメラのほか、泳ぐスピードや潜った深さ、水温、移動経路を記録することができます。

ウミガメの負担にならないよう、体重の3%以下の重さで、一定の時間がたつと外れる仕組みになっています。

無事に取り付け作業が終わり、港から放流しました。どんな情報が記録されるのか楽しみに待つだけ…ではありません。
研究グループの学生 坂井紀乃さん
「ウミガメの行動を記録できたとしても回収できないと全部台なしになってしまうので…毎回、祈るような気持ちで放流しています」
バイオロギング調査で一番大変なのは「計測器の回収」です。

ウミガメから切り離された約30cmの大きさの計測器を、広大な海から回収しなければなりません。
大海原での捜索、計測器の行方は?
放流して3日後の午前4時。ウミガメから切り離された計測器が発する信号を頼りに、その位置が分かりました。

向かったのは岩手県釜石市の港から南に約50キロ離れた気仙沼沖。ウミガメは想定以上の距離を移動していました。
黒潮に乗って沖合に流されると回収できなくなってしまうため時間との勝負です。このため急いで海に出ました。
計測器からの信号が近くなってきたら、最後は目視での捜索ですが…広大な海で見つけるのは至難の業。なかなか見つかりません。

「あった!あそこです!」
港を出て約3時間。

ようやく海を漂う計測器を発見し、無事回収することができました。
研究グループの学生 坂井さん
「失敗するんじゃないかとドキドキすることもあるんですけど、やっぱり帰ってきた時の喜びとか、データを見た喜びとかは代えがたいものがあります」
バイオロギングだから分かること
研究室に戻り回収したデータを確認すると、計測器には12時間ほどの映像が記録されていました。
「食べてる!食べてる!」

その中には、海面付近でクラゲなどの浮遊生物を食べている様子が映っていました。

佐藤教授によると、アカウミガメは従来、ふんの調査などから主にウニや貝など海底にいる生物を食べていると考えられていたといいます。

しかし三陸沖での20年に渡るバイオロギングの調査で、沖合ではクラゲを多く食べていることや深さ300m以上のところに潜ることが分かりました。

また三陸の海にやってくるウミガメは大人になる前の成長期の個体が多く、ウミガメにとって成長するのに都合の良い餌場ではないかという新しい状況も見えてきました。
佐藤教授
「沖合ではものすごい数のクラゲをガツガツ食べているということが分かりました。何かを明らかにしたいなと思って装置をつけてデータを取ってみると、何か予想していたものと違う方向性の新しい事実が見えてくる。これがバイオロギングの魅力の1つです」
サケ不漁の原因を探るのにも活用
バイオロギングよる生態調査は、近年記録的な不漁が続いているサケの資源管理のためにも行われています。
サケは日本から3000キロ以上離れたベーリング海を回遊して数年かけて帰ってきます。

水産研究・教育機構では20年以上前から毎年夏に、ベーリング海でサケに計測器をつけて放流。これまでの研究でサケが泳いだルートの一部や水深・水温が分かってきました。
このうち、2012年に取れたデータからは「水温の高いところを避けている可能性」が見えてきました。
本多健太郎主任研究員
「サケがオホーツク海に入って水温が高くなってくると、より冷たい100mよりも深い海域まで潜るという行動を見せるようになりました。高水温になってくると、それを避けるために深い海域、深度まで潜っていた可能性が考えられます」
水産研究・教育機構では、ことしの夏は69匹に計測器をつけて、ベーリング海で放流しました。

来年秋以降の回収を目指しています。

1つでも計測器を回収できればサケの生態解明が前進するとともに、海水温の上昇が不漁に影響しているのか分かるのではないかと期待しています。
本多研究員
「今後温暖化が進行していく中で、もしかしたら日本系のサケの分布域、あるいは回遊ルートが変わっていく可能性が考えられます。やはり直接的な行動観察のデータがあれば、より鮮明に見えてくるのかなと思います」
気象予測への貢献も バイオロギング調査の未来
バイオロギングで得られた水深や水温などのデータからは、海洋環境を知ることもできます。

ウミガメの研究をしている佐藤教授は、データが将来的には台風の進路など、気象予測に貢献できる可能性もあると考えています。
東京大学大気海洋研究所 佐藤教授
「われわれが暮らす陸上の気象を大きく左右する海の状況を測定することはとても重要なことです。それにバイオロギングのデータが非常に大きく貢献できるということが分かってきました。人間が構築してきた観測網と補い合うような相互的な観測に貢献できるだろうと考えています」
生き物のまだ知られていない生態に迫るバイオロギング。

そのデータが気候変動などの影響で厳しさを増す自然の保護につながれば、人や野生の生き物、双方にとって有益な取り組みになる可能性があります。
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