ダイアナは、そういう自分が夢のとおり淑女になったつもりで、熱っぽく語った。ダイアナの話を聞いているうち、アリエナの涙は引いてしまっていた。いつのまにか、からっと晴れた笑顔が、浮かんでいた。
帰り際、アリエナは玄関までダイアナを送っていった。と、義兄のトムが、ちょうど帰ってきたところだった。
「お帰りなさい――」と、アリエナは小さな声で言った。
「ああ」と、トムはつまらなさそうに言った。
「こんにちは」
ダイアナがにこっと会釈をすると、トムの目が瞬間光りを帯びた。その顔には、アリエナには見せたこともない笑みが浮かんでいた。
その晩、トムが食事の席で、はじめてアリエナに話しかけた。「アリエナ」と、呼びかけられ、彼女はびくんと体を硬直させた。普段は仲良く話しているケントとエレナも、急に押し黙り、トムに注意を向けた。
「アリエナ、昼間の彼女、どこの娘なんだ」
トムのぶっきらぼうで、命令的な口調に嫌悪感を抱いたアリエナは、「さあ」と言って小首を傾げた。
「とぼける気かよ――」
トムは力強く床を踏みつけた。
「アリエナ」と、重くなりかけた空気を吹き払うように、横からケントが話しかけてきた。
「アリエナ、昼間来てたのは、ダイアナだろ?」
どうなんだ、と言う父にアリエナは、しぶしぶ「ええ」と答えた。
「すぐそばの、鍛冶屋の娘だよ、トム」
「ねぇ、どんな娘なの?」と、エレナが訊いた。
「ああ、とっても利口な娘でね、鍛冶屋を継がせるにはもったいない器量好しだよ」
「あら、アリエナにはもってこいのお友達だわ。やっぱり、父親が真面目な人だと、同じくらい真面目なお友達を選ぶのね」
アリエナは、エレナの言葉を聞いて、きりりと唇を噛んだ。
「――そうだトム、仕事はどうだい。もうすっかり慣れたかな」と、ケントが思い出したように訊いた。
ケントは、トムをグリフォン亭の従業員として、働かせていた。行く末は、後を継がせるつもりであることも、家族の前で明らかにしていた。まったく見ず知らずの土地で、まだ地歩も固まらないうちから、外で働かせるのはしのびない、そんな気づかいからだったが、実際はエレナにほだされ、本式に契約を結んだのだった。
ケントの問いに、トムはただうなずいただけだった。いかにも、面倒くさいといった態度が、ありありとうかがえた。