――願いは、叶えられた。人々の念願であった狼男が、捕まった。それは、誰もがよく知っている人物だった。そして、誰もが我が目を疑う、人物だった。
「へえ、あの鍛冶屋のバードがかい。たまげたねぇ――」
「なにね、店の後を継ぐってことで、親方ともめてたらしいんだよ。ほら、ダイアナがロンドンへ行きたいって言ってた話、知ってるだろ。それでさ」
「なにも殺さなくたって、よかっただろうに」
バードは、高い十字架に両手足をくくりつけられ、荒れ放題の野原に立っていた。そこは、病死した家畜たちの眠る、墓場だった。墓標らしいものは、なにひとつ見あたらず、ただ、こんもりとした土まんじゅうだけが、ぽつぽつと見えるだけだった。
バードの周りを、町の人々が遠巻きに見守っていた。司祭が、長々と清めの言葉を述べ、狼男の災いから町を救ってくれるよう、神に祈っていた。司祭が口上を並べ立てているうちに、何人かの男達が、張りつけ台の足元に薪を積み上げていった。次第に興奮してきた群衆は、ぐんなりとしているバード目がけて石を投げ、罵声を浴びせかけた。中には、早く火を点けるよう、司祭に呪いの言葉を吐く者もいた。
アリエナは、その群衆の中にまぎれていた。バードの処刑が始まると聞いたアリエナは、先ほどまで、自分の部屋の隅でうずくまっていた。恐くて、がくがくと震えていた。まさか、ごく身近にいる人間が捕まるとは、思ってもいなかった。狼男は、自然にみんなの心から忘れ去られるだろう、そう願っていた。しかし、現実は違った。人々は、狼男を追い求めた。しつこくしつこく探し求めた。そしてとうとう縛につけることができたが、真犯人として陽の下に出てきた狼男は、アリエナの知っている人物ではなかった。町の人々は、口々にこいつが犯人だったのか、とののしっていた。アリエナが耳にしただけでも、本当のことさえ知らなければ、もっともとうなずけるほど、バードは犯人になる理由をすべて持っていた。
(わたしが、バードを狼男にしてしまった。罪もない人を処刑させてしまった)
アリエナはどうしていいかわからなかった。今すぐ、ケントの元に飛んでいって、犯人はバードじゃない。トム達のいたずらだったの、と打ち明けたかった。しかし、なにをされるかわからないという思いが、犯人の命を上回った。ダイアナの恨みを晴らせたんだ、と同級生がアリエナの所にも押しかけた。アリエナは、平静を装い、みんなと一緒に処刑場へ向かわざるを得なかった。どこか変だと思われたくなかった。どんなに些細なことでも、みんなに勘づかれるようなことはしたくなかった。
アリエナの心臓は、破裂してしまいそうだった。舌が、喉の奥へ引っこんでしまいそうなほど緊張していた。
ついに、司祭が手渡された松明を持ち、うずたかく積まれた薪に火を点けた。