4 変身
「本当のことなのか?」
ケントが、エレナを問い詰めていた。
「なにをおっしゃるの。そんなこと、ロンドンの成金紳士のたわ言に決まってるじゃないの」と、言い返すエレナの顔には、不安の影がありありと浮かんでいた。
「なんだって? 本当のことを言ってくれ。ぼくが聞いてきたことが、まるで嘘っぱちだとでも言うのか。
ああ、君がそう言い張るならいいだろう。ぼくがロンドンで耳にしたことを、すべて納得のいくように説明できたなら、君を信じてやろうじゃないか。――はじめてこの話を聞いたぼくの気持ちがわかるかい、エレナ。トムが病気だったなんて、それも、残酷に生き物を殺して喜ぶような、心の病気だったなんて」
「トムの悪口を言うのはやめて!」
エレナは言い放つと、ケントをぶとうと手を振り上げた。ケントは力強い腕でその手首をつかむと、激しい口調で言った。
「どういうつもりなんだ、エレナ。ぼくと結婚したのも、トムを病院に放りこまれたくなかったからなのか。わざわざ不自由するのを承知で、こんな田舎にやって来たのも、田舎なら、トムがなにをしようと見つかりっこない、そう思ったからなのか。犬や猫の首をちょん切っても、ニワトリの足を切って動けなくするのも、田舎なら楽しいお遊びになるとでも思ってたのか」
「やめて――お願い。もうやめて」と、エレナは力なく言うと、硬直していた表情を崩して泣き始めた。ケントは急に力を失った腕を放すと、エレナをそっと抱きしめた。
「ごめんなさい。あの子、病気なの。でも、わかって頂戴。誰にもあの子を治すことはできないの。ただ見守ってやるしか――だから私、あなたについて行こうと思ったの。男の人なら、あの子を抑えておけると思って、だから私――」
「もういいよ……」と、ケントは優しく言うと、エレナの頭に頬を寄せた。
アリエナは、父親とトムが言い争っているのを、はじめて目の当たりにした。週末の朝だったが、ケントはトムを自室に呼び出した。口論は、いくらも立たないうちに聞こえてきた。今にも殴り合いが始まりそうな、そんな雰囲気だった。そして、それにも増して驚いたのは、いつもならトムをかばって駆けつけるはずのエレナが、知らぬ振りをして編み物をしていることだった。
トムが勢いよく部屋を飛び出してきた。蹴り上げられたようなドアは、壁に当たって跳ね返り、耳が痛くなるような音を立てた。
「ばかやろう、おれはそんなもの盗っちゃいないし、犬なんか殺しちゃいねぇよ」
ぺっ、とトムは床に唾を吐いた。そしてエレナのそばまで来ると、
「あいつになんとか言ってくれよ。おれを泥棒扱いしやがるんだ」
「トム、もう悪いことはしないで。ケントも私も、あなたのことを心配しているからこそ、言っているのよ」