「いいえ、そんなことないわ。トムは狼男なんかじゃない。あれはトーマス達のいたずらだって――」
ダイアナは、急に話すのをやめると、口をつぐんだ。
「トーマスのいたずら?」
どういうことなの、ダイアナ。と、問い詰めるアリエナに向かって、ダイアナは口がすべったと慎重な顔つきになったが、すぐに思い直したように言った。
「そうよ。狼男の事件は、みんなトーマス達がやったいたずらなのよ。狼に似せた仮装をして、道を歩いている酔っぱらいを脅かしたのよ。だから、なにも恐がることなんかありはしないわ」
「ダイアナ、どうしてそんなこと、今まで黙ってたの? みんな、父さんも、町のほかの人達だって、必死になってわたし達を守ろうとしてるのに」
「子供だもの、いたずらぐらいするわよ」
「――なんてこと言うの。子供だなんて、そんな都合のいいこと言わないで」と、アリエナは叫んだ。そして、ダイアナにつかみかかった。
「トムなのね。張本人はトムなんでしょう。あの人がそそのかして、トーマス達に悪さをさせてたんでしょう」
アリエナは詰め寄った。ダイアナに向かって、しきりに名乗り出て、みんなに本当のことを説明するように求めた。しかしダイアナは、真面目ぶっているとアリエナを非難し、逆に突っかかっていった。
階下で異状を察知し、駆けこんできたバードとグレイは、ダイアナとアリエナが互いに傷つけ合っているのを見て、すぐさま止めに入った。
引き離された二人は、それでもなおののしり合い、あいだに入ったグレイ達を手間取らせた。
「ダイアナ、あなたが言わないなら、わたしがみんなに言うわ。こんな騒ぎは、誰も望んじゃいないんだから」
「なんですって、言えるものなら言ってご覧なさい。あなたとわたしの仲もこれまでよ、これっきり友達だなんて思わないから。それでもいいなら、さあ、早くみんなに知らせるがいいわ」
「――わからずや」
アリエナは目に涙をためながら言うと、だっと部屋を飛び出して行った。
バードに羽交い締めにされていたダイアナは、急に力なく崩折れ、床にぺたんと座りこんだまま、溢れ出す涙を拭いもせず、流れ落ちるにまかせて激しく慟哭した。
アリエナにとって、それがダイアナとの最後の別れとなった。本当のことを言うべきか、言わないで黙っているべきか、アリエナは次の日、もんもんとしたまま、朝を迎えた。
朝食も、ろくに喉を通らなかった。とにかく、ダイアナと仲直りをしなくちゃ、そう心に決めて、学校へ向かった。
ダイアナは、その日めずらしく欠席した。遅れて来ることはあっても、決して休んだことのないダイアナが休んだことで、アリエナは自分を責めずにはいられなかった。