学校は、その後すぐ、休校となった。町は、ダイアナの事件におびえ、また葬式の準備に奔走する人達で、騒がしかった。アリエナもすぐさま、家に鞄を置くと、ダイアナの遺体が安置されている教会に向かった。
教会の前は、喪服に身を包んだ人で一杯だった。
「おお、アリエナ――」と、ダイアナの叔母さんが、アリエナを見つけて抱きしめた。
「どうもありがとう、来てくれたのね。あの子、いま神様の前で休んでるわ。アリエナとは大の仲良しだったから、喜ぶわ。お別れしてあげてね」
アリエナは目に涙をためながらうなずくと、泣き出したいのをこらえて奥へ入っていった。棺は、十字架の御前で高い段の上に乗せられていた。ダイアナの父のリチャードが棺の前の席に座って、じっとうなだれていた。
「おじさん――」と、アリエナはリチャードの肩にそっと触れた。
「――アリエナ」
リチャードは顔を上げると、肩に置かれた手を握りしめて言った。
「ありがとう、来てくれて。ダイアナは、アリエナと一番の仲良しだったから、喜ぶと思うよ。さあ、綺麗な寝顔を、見てあげておくれ」
棺の蓋を、リチャードはゆっくりと持ち上げた。そこには、たくさんの花に囲まれて眠る、ダイアナがいた。
「ダイアナ……」と、アリエナは変わり果てたダイアナの顔をそっと撫でながら、こらえていた涙を流して泣いた。
ダイアナは、まるでお姫様のような、綺麗で豪華なドレスを身につけていた。まるでダイアナが話してくれた夢のようだった。いまにも、にこっといたずらっぽく微笑みながら、「びっくりした?」とおどけて、起き上がりそうだった。しかし、アリエナが何度呼んでみても、ダイアナはぴくりとも動かなかった。震える手で、アリエナは唇に触れた。口紅をさした唇は、ふっくらとしていて、柔らかそうだった。しかし、冷やっとした感触が、指先から伝わってきた。その冷たさは、もはや命を持つものではないことを、知らしめた。
アリエナは、唇に触れた指をびくりと離した。ぞくりとするような恐さを感じた。ダイアナが、急に死者となって見えた。悲しみの涙が、急に恐怖の涙に変わった。もう二度と戻らない異世界のダイアナが、蘇って、自分をも連れ去ってしまいそうに思えた。
アリエナが後じさったところで、リチャードが再び棺の蓋を閉めた。冥界とこの世とが、完全に隔たれたようだった。
「ありがとう。――ごめんね」
リチャードが、目を赤く腫らしながら、そう言った。「ごめんね」という言葉は、ダイアナの口調とそっくりだった。アリエナは黙ってうなずくと、礼拝堂の出口に向かいながら、心の中でごめんね、とつぶやいた。
外は、アリエナが来た時とは違う熱気で包まれていた。父のケントが町長としてみんなの先頭に立っていたが、激しく罵声を浴びせられているのは、アリエナ同様訃報を聞いてやって来たオモラだった。
「なんだい、あたしだって町民だよ。花ぐらい手向けるのは当然じゃないか」