「ばかやろう――自分の命は大切にしやがれ」と、カッカは鼻をすすり上げると、グレイを背中に担ぎ、墓場を後にした。
アリエナは、黙ってたたずんでいた。みんなが帰っていったのも、グレイ達が去って行ったのも、なにひとつわからなかった。心は、空っぽだった。と、アリエナの耳に懐かしい声が聞こえた。アリスの鳴き声だった。アリエナは、はっと我に返った。
「アリス……」
おき火を背に、アリスはしっかりと四つ足で立っていた。アリエナには最初、目の前にいる犬がアリスであるとは、わからなかった。それほどにアリスは大きくなり、たくましくなっていた。
「アリス――」と、アリエナは両手を広げ、つぶやいた。が、アリスはじっとアリエナを見据えたまま、ぴくりとも動こうとしなかった。その目は、アリエナの心をすべて見透かしているようだった。
「おいで、アリス」
アリエナが近寄ろうとすると、アリスはさっと身を翻して走った。その先には、グレイを背負うカッカの後ろ姿があった。
アリスは、カッカのまわりを飛びつくように駆けまわり、カッカの背が遠くなるにつれ、同じように小さく、だんだんと遠ざかっていった。
「アリス……」
と、そうつぶやくアリエナの声は、もうアリスには届かなかった。