「よかったじゃないか。でも、もう寝なさい」と、ケントはそう言って、寝室へ戻っていった。アリエナはしかし、もう眠気などどこかへ飛んでいってしまっていた。
「どう、おいしい」と、店の食堂に入り、皿いっぱいにミルクを注ぐと、アリエナは言った。
アリスは、たっぷりのミルクをあっというまに平らげてしまった。アリエナは大喜びし、さっそくアリスを部屋に連れて行くと、アリスがいた時に使っていたボールを探し出し、ポンと床に放って遊ばせようとした。
「どうしたの、アリス?」
アリスはボールなど見向きもしなかった。伏せて、嬉しそうに尻尾は振っているものの、耳をすまし、かすかな物音にもぴくりと反応していた。
アリエナは、アリスが以前のアリスではないことを悟った。もう立派な大人になっていた。アリエナは、ちょっぴり悲しさを覚えながらも、ベッドに入った。アリスがいなくなってから起こった、たくさんの出来事が思い返された。アリエナは、アリスの息吹を感じながら、静かに深い眠りに落ちていった――。
朝、アリエナは花火の音で目を覚ました。大砲のように大きな音は、心地よいベッドの中でたゆたんでいるアリエナを、心臓が飛び出しそうなほど驚かせるのに、十分なほどの迫力を持っていた。
半ば寝ぼけているアリエナは、昨夜のアリスが夢ではなかったかと思い、毛布を跳ね上げて起き上がった。アリスは、ベッドの横で、しっかりと座っていた。アリエナは、アリスがぴしっとした姿勢でいるのを見て、アリスが自分をなにかから守ろうとしているのではないか、そう思った。
朝食も早々に、アリエナは去年と同じ、ピエロの仮装をすると、パレードが行われる表通りへ、アリスを連れて大急ぎで駆けていった。
神父を先頭とするパレードは、実に賑やかなものだった。きらびやかな山車がこれもきらびやかに飾られた馬に引かれ、通りをゆっくりと行進していった。全国から来た大道芸人達が、鳴り物を響かせて盛り上がらせていた。思い思いの仮装をした住人達は、大道芸人の輪に加わって狂ったように踊り、また山車の後ろにくっついて町内を練り歩いた。アリエナもそれらの人々に混じって、空腹も忘れるほど夢中になって祭りに参加していた。
夜になり、祭りはいっそうの盛り上がりを見せていた。町中が昼間同様に明るく照らされ、湯水のように振る舞われた酒が、あちらこちらに水たまりを作っていた。我を忘れた人達は、その水たまりに飛びこみ、酒まみれ泥まみれになりながらも、踊り続けた。
ドドーン、という音と共に花火が天空を焦がした。たくさんの火の粉が、しんしんと輝く満月の上る空を、無数に飛び散った。
アリエナも疲れ切った顔をしながら空を見上げ、花火が打ち上げられるたびに歓声を上げていた。