くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

狼おとこ(29)

2022-03-09 19:22:46 | 「狼おとこ」

 アリエナには、ひとつ気になることがあった。トムだった。トムは、エレナが話し始めた狼男の想像を、一人ほくそ笑みながら聞いていた。愉快でしかたがない、といった感じだった。どうして、みんなが恐れているのを、面白がっているのか? トムと同じ表情をする人間を、アリエナはほかにも知っていた。学校のトーマス達だった。一度など、授業中にこっそりダイアナと話していたのを盗み聞きして、トーマスがしんとした教室中に響き渡るほど、大笑いしたことがあった。心配でしかたがないアリエナは、トーマスが狼男ではないか、と疑ったくらいだった。トーマスは先生に尻を鞭打たれたが、罰が与えられた後も、口元に思い出し笑いが浮かんでいたのを、アリエナは見逃さなかった。
 アリエナは、その事件が公になった前の晩、どうしても目が冴えて、ぼんやりと星空を見上げていた。と、廊下を歩く音が聞こえてきた。あわててベッドに潜りこみ、口を半開きにして寝たふりをしたが、足音はアリエナの部屋を通り過ぎ、階段を下りていった。やがて、表のドアが開き、誰かが外へ出て行った。アリエナは窓に張りつくようにして、外をうかがった。薄ぼんやりと明るい空の下、トムの後ろ姿が、ちらりと見えた。次の朝、ちゃんとトムは起きてきたが、ケントが体の調子をたずねるほど、どこか疲れ切ったような様子だった。まさか、狼男が出没していたなどとは、その時のアリエナには知るよしもなかった。
 トムやトーマスのことを、アリエナは誰にも打ち明けていなかった。親友のダイアナにさえ、言うのをためらっていた。それは、ダイアナがトムにあこがれの念を抱いているのを、知ってしまったからだった。二人の話の中に、ときおりトムが出てくることがあった。アリエナは、あまりいい印象がないので、そのとおりを言うのだが、ダイアナが語るトムは、まるでおとぎ話の白馬に乗った王子様だった。トムが、ずっとロンドンにいたということが、どこか年下の彼女を引きつけているようだった。しかし二人は、すでに何度か会っているようだった。アリエナは、その考えを否定しようとしたが、トムのことを熱っぽく語るダイアナは、ほかのことなど、もうなにも目に入らない、といったふうだった。
 狼男は、その後も出没し続けた。男達は、力を合わせて山狩りを行い、夜警を立て、狼男の恐怖がなくなるよう、全力を傾けた。しかし、惨劇は誰もが予想もしていなかったところに訪れた――。
 その日、アリエナはダイアナの家へ、お祭りの打ち合わせのために出かけていった。鍛冶屋には、親友の姿はなかったが、鍛冶場では、バードが槌を振るい、そのそばでアリエナの知らない見習いが、仕事を見守っていた。
「ダイアナ、入るわよ」と、アリエナがドアをノックした。
「どうぞ――」
 アリエナが中に入ると、ダイアナは真新しい生地を広げて、ごきげんそうに手にとって眺めていた。
「どうしたの、これ?」
「わたしね、もう決めたの。今度のお祭りでは、お姫様になるのよ」
 ダイアナは生地を体にあて、アリエナの前でくるりと回って見せた。
「いいなぁ。わたし、なにをやろうか、まるでいい案が出ないのよ」
「去年のあなたのアレ、面白かったわよ」

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よもよも

2022-03-09 06:22:39 | Weblog

やれほれ。

ニュースで札幌じゃ大雪で建物が壊れたとかってやってたけど、

あれれって、自分の知ってる建物が出てくると、

時代を感じて寂しくなるわ。。

そういや新幹線の改札が創世川の東側にできるとか、

駅前に高層ビルが建設されるとか、

またぞろ札幌の景色ががらりと変わるようで、

さらに寂しさが増してくる・・・。

札幌の人達って、この景色はそのままにしておきたいって

場所あんのかね??

何でもかんでも新しく入れ替わるのが

歴史に縛られない札幌のいい所かもしれないけど、

なんかだんだん古い住民の居場所が無くなるような気がして、

歴史としての重みや深みを蓄積できない札幌の弱さにも感じるんだけど

どうかな??

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