やじる声が聞こえてくる方へ、オモラもまた激しくやり返していた。ケントが、困ったような顔をしてなだめていた。
「おかみさん、おかみさんの言うのも当然のことだが、ちょっとまずいんだよ。事件が事件なんでね、みんな神経質になってるんだから――」
「だからどうしたい。他人なんか問題じゃないんだよ。心の問題さ、心の。あの子のことを思えばこそ、こうやって出向いてきたんじゃないか」と、オモラはそう言うと、ケントを邪魔だと押しのけようとした。
「おい、狼男の嫁さん。犯人はどこにいるか教えてくれや。もしかしたら、おまえさんが隠しているのかもな」
声が聞こえたと思うと、オモラ目がけて飛んできた物があった。石だった。
「あいた――」
と、頬に手をやるオモラが顔を上げると、目のすぐ下がむくむくと膨らんできた。
「痛いじゃないか」と、オモラが叫ぶと、今度はまた別の方向から、石が飛んできた。小さいがゴツゴツした石は、かろうじてオモラを逸れ、すぐ足元の地面に落ちた。
「やめろ」と、オモラについて来たグレイが叫んだ。まだ見習いの、それも見ず知らずのグレイに言われたのが癪に障ったのか、オモラに浴びせられていた罵声とは違うどよめきが、波のように広がった。
「おかみさん。わたしの顔に免じて、ここはどうか身を引いてくれないだろうか――」
ケントがオモラの腕を取って歩き始めた。意地になっているオモラは言うことを聞くまいとしたが、バードが間に入ってきて、言った。
「おかみさん、ぼくが代わりに花を手向けてきますから、町長さんの言うことを聞いてください。また誰かが傷つくのは、見たくないから――お願いです」
バードが言うのを聞いて、オモラはしぶしぶ了解した。「じゃ、よろしく頼んだよ」と、そう言って花を手渡した。ケントもひと安心とばかり、ほっと胸をなでおろして苦笑を浮かべていた。
アリエナは、隅の方でこの顛末を見届けていた。オモラの立ち去る姿が、とても悲しげに見えた。そして、その背を追うように吐き捨てられる言葉が、それこそ狼男の叫びのように思えた。
アリエナが家に帰ると、トムの部屋のわずかに開いたドアの隙間から、なにやら言い争う声が聞こえた。声の主は、トーマスのようだった。そして、その他にも複数の声が聞こえた。アリエナはすぐさま、いつもの四人組だろうと直感した。
「だからよぉ。約束が違うじゃねぇかよ」
「まずいぜ、見つかったらただじゃ済まねぇぞ」
「おれ、嫌だよう――」