先生にどうしたんですか、と気遣わせるほど、アリエナの顔は蒼白になっていた。
訃報が舞いこんだのは、終業間近のことだった。トントントンと、ほかの先生がノックをして、黒板の前に立っていた先生を廊下に呼んだ。どうしたんだろうという目が、並んで話をする先生に注がれた。授業中、先生を呼びに来るということは、なにか事故でもない限り、ないことだった。教室のそこら中で、ささやき声が聞こえた。
「またトーマス達が、いたずらしたんじゃないの」
という声が、アリエナの耳にも届いた。アリエナは、はっと息を飲んだ。隣に座っているはずのダイアナに、なにかあったのでは……。
からかわれているトーマスは、不自然なほどおとなしく、ぎこちない笑みを浮かべながら、黙って席についていた。
アリエナの予感は、的中していた。
「みなさん、ちょっと静かにして、聞いてください」
ざわついていた教室が、水を打ったようにしんと静まった。
「いま、連絡が入りました。私も、まだ信じられないのですが、ダイアナさんが、お亡くなりになりました――」
えー、という声が、教室中にこだました。アリエナは、目を見開いたまま、ぼう然として声も出せなかった。
「残念なことですが、さきほど、川岸で倒れているダイアナさんが、牧童に発見されました。牛に水を飲ませに行ったところ、人のようなものが倒れているので、近づくと、ダイアナさんだったそうです。お父さんが確認しました」と、先生はそこで言葉を切り、眼鏡を取ると、目尻を指で拭った。
「えー、みなさん。先生からひと言、お願いがあります。もう二度とこんなことが起こらないよう、ようく聞いていてください。最近、狼男が町に出ているのは、知っていますね。みなさんがたの家では、お兄さんが戦争へ行っていたり、お父さんが行っている人もいますけれど、残っている人達が、町を守るために頑張っているのも、知っていますね」
先生は眼鏡をかけ直すと、鼻をすすって、どうですか、と訊いた。教室にいる大半の生徒が、こくりとうなずいた。
「先生も、皆さんが十分気をつけてくれるよう、夜は決して外に出てはいけない、とそう言いました。
実は、ダイアナさんは、狼男に襲われたのです。知らせてくれた先生によると、体中傷だらけで、腕などはもげそうなほどだったらしいです。
どうして、ダイアナさんは狼男に襲われなければならなかったのでしょう。犯人は狼男です。狼男は、先生も憎いです。けれど、先生のいうことを聞かず、夜中に外出したダイアナさんも、先生は憎いです。もう、今となっては遅いでしょうが、もしも、ダイアナさんが昨日の夜、どんな用事があったのかは知りませんが、朝が来るまで待っていてくれたら、夜中に外を出歩くなんてことをしなければ、命を落とすことはなかっただろうと、私は思います――」
先生は、くるりと後ろを向き、嗚咽を漏らした。