「でも、まだいたずら坊主みたいなところがあるから、やっぱりこれからの働き次第だな。いい跡継ぎができて幸せだよ、ケントは。おれんとこなんて、もうあと何年もしないうちに廃業さ。もうおれもがたがきちまってるから、今までみたいにゃ働けねぇ。――ダイアナも、あんなになっちまったからなぁ」
リチャードは、ぐっとこらえるように息を飲みこむと、話を続けた。
「あいつの母親も、早くに亡くなって、おれはダイアナの成長だけを楽しみに、一生懸命働いてきたんだよ。ところがだ。もっともっと稼ごうって、欲張ったばかりに、狼男を自分の家で養う羽目になっちまうなんて――あの世に行ったら、なんて言って謝りゃいいのか、まるで考えもつきゃしねぇ」
「おじさん――」と、アリエナは涙を見せるリチャードの姿を見て、思いを断ち切るように言った。
「なんだい、アリエナ」
「おじさん。わたし、ダイアナに聞いたんです。狼男は、バードじゃないんです。トムが、トムがトーマス達をそそのかして、人を脅かしていたんです」
「――どうしたっていうんだ、アリエナ」
リチャードは、信じられないといった表情で、アリエナを見た。
「本当なんです。その話を聞いた次の日、ダイアナがいなくなったんです。狼男に襲われたって――本当なんです」
「アリエナ、すまんが、おれを喜ばせようと思って、作り話をするのはよしてくれ。せっかく落ち着いてきたっていうのに、人騒がせもいい加減にしてくれ」と、リチャードはアリエナを睨み据えながら立ちあがった。
「そんなことは信じられんよ!」
と、リチャードは「本当です」と、しつこく言い張るアリエナを、頭ごなしに怒鳴りつけた。
「だいたい、バードがダイアナを襲っていたって証言したのは、おまえの兄さんなんだからな」
――おまえらの顔なんか、二度と見たくない。と、リチャードはアリエナを店から外へ追い出した。
「二度と来るんじゃねぇ」
と、勢いよくドアを閉められ、アリエナは永久に機会を失ったことを悟った。
(もう、誰もわたしのことなんて、信じてくれないんだわ)
以前にも増して、アリエナは自分の目の前が真っ暗になっていくのを感じた。これから一生、本当のことを言えなかったと後悔し続けて、生きていかなければならないのね。と、絶望にも似た現実を思い知っていた。