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武蔵野物語 51

2008-08-08 19:02:29 | 武蔵野物語
「あら、どうしたの、此処よく分かったわね」
「総務で聞いて、お見舞いにきました」
田口はそう言って、メロンをゆりこに差し出した。
「そんな、たいしたことないのよ」
ゆりこは仕方なく、田口を中に入れ、父に紹介した。
「恐れいります、丁度よかった、これから夕飯なのでぜひご一緒に、ゆりこ、ビールと肴用意して」
父はとても機嫌よさそうで、いつになく饒舌だった。
「娘もこの通りですから大変でしょうが、よろしくお願いします」
「お父さん、この通りって何よ」
「ゆりこさんは才能がありますよ、僕と違って」
「ほら、みなさい」
「仕事は分かりませんが、ちょっとわがままで、良い相手が来てくれるのか心配です」
「またその話なの、良太さん、父は飲むといつもこうだから、聞き流しておいてね」
「ゆりこさんは今のままで充分素敵です、僕は好きです」
「そうですか、そう言って頂けるなんて、今日はゆっくり飲みましょう、明日は休みですから、泊まっていって下さい、部屋は空いていますから、おい、ゆりこ、お客さん用の布団用意してな」
男達が勝手に盛り上がっている。まさか田口を泊める事になるとは。
その夜は何年振りかで盛り上がった。
父は先に酔いつぶれ、田口もすっかりでき上がって、ゆり子さん、一緒にやすみましょう、とくだまいているのを漸く寝かせた。

翌朝7時近くに起きると、散歩に行く、と父のメモが置いてあった。
田口を起こし、軽い朝食を済ませると、二人で表に出た。
マンションの4階を降り、停留所の方に歩き出すと、覆われた木々で建物はすぐに見えなくなった。
「この辺りの木も成長してますね、武蔵野と違う、やはり新しい環境の魅力ってところかな」
「私、ここも、武蔵野も同じ位好きですよ」
「僕もそうです、気が合いますね」
ゆりこは誠二と会った桜ヶ丘公園を避けていた。

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