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東風(コチ)の再会  2

2024-12-29 21:24:51 | ヒューマン
「田沢さん、何でこんな所に?」
「美沙子さん、一人なんですか」
「そうよ、田沢さんこそ何しに?」
「父が長野に戻っているので出張の帰りに会ってきたのです」
母親は二年前に亡くなっているとの事。 
「美沙子さん、ご両親は?」
「父は二年前に亡くなりました」
「そうですか••お互い寂しくなりましたね」
「でも奇遇ですね、何年も会っていないのにこういう所で会うなんて」
田沢靖夫と倉本美沙子は幼なじみの様なものだった。
特別親しくしていた訳ではないが、同じ建て売り住宅が数件並んでいて、その通りの人達は自然と長屋感覚で付きあっていた。
町内の祭りや集まりでは殆ど一緒になっていたが、妹の様でそれ以上進む気にならなかった。現在の彼女は別人みたいに大人の美しさが滲みでている。
体が冷えていたのですぐホテルのカフェに入った。
「もう美沙子ちゃんじゃないね、大人になって」
「変わりませんよ、田沢さんこそ立派な社会人だわ」
美沙子からみた田沢はおとなしく、他の男友達が彼女に話しかけても黙っているだけで、人気の彼女に積極的ではなかった。
それでも家が近く最後は一緒に帰る為、親しい気持ちが強くなる。
美沙子は誘ってほしい時もあったが、田沢は相手にしていなかった。
「社会人になってみると、やはり学生時代が懐かしいな」
「アルバイトとか?」
「そうだよ、あのデパートのバイトだって一緒になったじゃないか」
「ほんと偶然てあるのよね」 
田沢は毎年夏と冬に同じ店で働いていた為、決まった売り場から募集のはがきがきていた。
一方、美沙子は高校のアルバイト研修で大勢の仲間と来ていた。
その日の仕事が終わり田沢が従業員出口に近づくと、美沙子が友達と二人で待っていた。
「靖夫さん、今日は奢ってくれるのよね」
田沢は仲間と飲みにいくつもりでいたが、美沙子の隣で、微笑みながら見つめてくる視線をかわせなかった。





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