9.
ギルガメシュは酌婦シドゥリに向かって言う。
「わたしは香柏の森でフンババを打ち倒し、山でライオンどもを殺したものだ」
酌婦はギルガメシュに言う。
「おまえはあの名に聞こえたギルガメシュか。ならばギルガメシュよ、もしおまえが香柏の森に住むフンババを滅ぼし、山の麓でライオンどもを殺し、天から下った天牛を捕らえてこれを打ち倒したのなら、なぜ、おまえの頬はやせこけ、顔は落ち込んでいるのです。なぜ、おまえの心は憔悴し、消沈しているのです。悲嘆がおまえの胸に押し寄せ、おまえは遠い道のりを行く者のようです。おまえの顔は暑さと寒さで焼けついている。なぜ、おまえはライオンの毛皮をまとって荒野をさまようのか。」
ギルガメシュは酌婦シドゥリに語った。
「わたしの頬がやせこけ、顔が落ち込まずにいれようか。わたしの心が憔悴し、悲嘆がわたしの胸に押し寄せずにいれようか。わたしの顔が遠い道を行く者のようでなくいられようか。わたしの顔が暑さ寒さで焼けつかずにおられようか。ライオンの毛皮をまとって荒野を彷徨わずにいられようか。わたしの友エンキドゥは狩られた野生騾馬、山の驢馬、荒野の豹、わたしたちは力を合わせて山に登った。天牛を捕らえて、これを撃ちたおした。香柏の森に住むフンババを滅ぼし、山の麓でライオンどもを殺した。わたしが愛し、労苦を共にした友、わたしが愛し、労苦を共にしたエンキドゥ、彼を人間の運命が襲ったのだ。六日、七晩と、わたしは彼のために泣いた。蛆虫が彼の鼻からぽろぽろ落ちこぼれた。
エンキドゥの言葉は、わたしに重くのしかかり、わたしは遠い道を旅した。わたしはライオンの毛皮をまとって荒野をさまよった。わたしはどうして黙し、沈黙を保てようか。わたしが愛した友は粘土になってしまった。わたしも彼のように死の床に横たわるのであろうか。わたしも永遠に起きあがらないのだろうか」
ギルガメシュはいまも、心の闇をさまよう旅人のようだった。