16.
ウトナピシュティムは、遠くからマギル舟を眺め、思いめぐらした。
「舟が死の水につかっている。なぜ、舟の<石物>は壊されているのだ。その舟主でない者が乗り、櫂を取っている。
やって来る者は、わが従者ではない。右側にわが従者ウルシャナビがいるようだ。
わたしが眺めるところ、彼は神ではない。
わたしが眺めるところ、彼は人間でもない。
わたしが眺めるところ、彼は3分の2が神、3分の1が人間のようだ」
<石物>とは、想像するに反重力装置みたいなものかも知れない。死の川に達するまではひこばえで作った櫂で棹さし、死の川に達したら反重力装置を使うのだ。死の川の水は、その川の水に触れるものを腐らせる。だから舟は石で出来ている。死の川に達すると、<石物>を稼働させる。すると重い石の舟は軽くなり、櫂が腐らないように水面から浮いて前方への推進力をも持っているはずだ。
だから死の川の水面から浮いていないマギル舟を見て、ウトナピシュティムは<石物>が壊されていると察することが出来たに違いない。
【ギルガメシュ叙事詩は、詩人リルケやヘルマン・ヘッセを魅了しました。
リルケは「ギルガメシュは凄い」と感嘆し、当時出版された彼よりもわたしの方がもっとすぐれた物語にできると、詩人リルケによって語りなおされたギルガメシュ叙事詩が出来るはずでしたが、ついに書き残されることはありませんでした。
ヘルマン・ヘッセも、次のような書き出しで「ギルガメシュ」という短文を残しているそうです。
「わたしが以前から読んできたなかで、最も力強い文学作品は「ギルガメシュ」と呼ばれる古代オリエントの物語である。・・」
わたしのギルガメシュは、月本昭男訳が好きで多く引用していますが、粘土板が欠損していて意味不明であったり、言葉そのものが意味不明であることが多々出てきます。
例えば<石物>であるとか、このあと出てくる<何>とかです。<何>って何?って感じです。
でも、この<何>にある言葉を当てはめてみると、すんなりお話が展開してくるのです。
では、どんな展開が始まるのか楽しみにしていてくださいね。】