青春タイムトラベル ~ 昭和の街角

昭和・平成 ~良き時代の「街の景色」がここにあります。

渋谷 ~リキ・スポーツパレス

2015-12-15 | ぶらり散歩

今日12月15日は力道山(1924年11月14日-1963年12月15日)の命日です。第2次世界大戦終了後に日本のプロレス界の礎を築いたプロレスラー。日本プロレス界の父。享年40(満39歳没)。

かつては渋谷に、巨大なスポーツ娯楽施設「リキ・スポーツパレス」がありました。昭和の戦後の高度成長を支えた方ならご存知の、力道山が築いた「プロレスの殿堂」です。

ここには、プロレスの常設会場も勿論備わっていました。

渋谷駅南口を西側に出て、東急プラザ右の飲食街を抜ける。急な坂を上りながら突きあたりを尚も進むと、やがて右手に鮮やかな黒一色のビルが見えてくる。東急プラザの奥、渋谷マークシティの南側にある「ヒュ-マックス渋谷」。IT関連の企業などが入ったビジネスビルです。

往時を偲ぶものは何も残っていませんが、かつてこの場所には地上9階、地下1階、建坪2,000坪の巨大なスポーツ娯楽施設が存在しました。「リキ・スポーツパレス」略称「リキパレス」と呼ばれたこの建物は、天皇の次に有名な男と呼ばれた、プロレスの父・力道山が築いた「プロレスの殿堂」でした。

昭和36年に当時の金額で約15億円(現在の貨幣価値に換算すると約55億)をかけて建てられたこのビルは、1階がボウリング場とスナックバー、2階はスチームバス、レストラン、喫茶店、ボクシングとレスリングのジム。そして3階から5階は収容人員3,000人の円形プロレス常設会場。同じ3階にはプロレスのオフィス、4階には社長室とボディービル・ジム。6階、7階は女性向けのチャーム・スクール(花嫁学校)、8階は女性向けのボディービル・ジム。ドーム型の屋根の上には、燦然と輝く王冠のモニュメント。現在から見ても相当大きな規模であり、当時は渋谷の名物として、その威容を誇っていました。

7月30日に行われたお披露目会には、美空ひばり、江利チエミ、雪村いづみの「三人娘」を始めとする、テレビ界の大スターが多数来場。夢の殿堂とも呼ばれました。(現在この建物の資料がなかなか見つかりませんが、CSでも放送された有名な「チャンピオン太」はなかなか興味深い。第一話に猪木が「死神酋長」役で出演しているのは有名ですが、「リキスポーツパレス」の様子もよく分かります。(下の写真がそのTVからの写真。リキスポーツパレスのプロレスの常設会場や背景が分かります。また、ドラマであっても若きアントニオ猪木(死神酋長)対力道山の黄金カードです!)

死神酋長(猪木) 対 力道山の夢の師弟対決?は、昭和37年8月18日にリキスポーツパレスで撮影された!

駅からリキパレスに至る道のりには立ち飲み屋が軒を連ね、そこで一杯やってから会場入りするファンも多かった。その界隈は現在でも立ち飲み屋こそ無いものの、相変わらず飲食店で賑わっている。下の写真を見て欲しい。後方にうっすらと見える大きなビルがヒューマックスビル。かつてはちょうど同じ位置にリキパレスが建っていた。

そんなリキパレスでしたが、所有していた日本プロレスが力道山の死後に権利を売却。新たなオーナーのもと、かつてのプロレス会場はダンスホールとして使われるなど、第二の人生を歩んだが、建物も次第に老朽化し、平成4年には解体される。そしてその跡地に建ったのが、冒頭にあげたヒューマックス渋谷である。最早その界隈から、かつての熱狂を想像するのは難しい。今は渋谷の街の喧騒を離れた、静かなビジネス街の一角です。

しかし、ほんわずかでも昭和のリキパレスの香りと名残りを味わえる場所がありました。このオフィスビル「ヒューマックス渋谷」のB1に店鋪を構える「たけや」という蕎麦屋が、その場所です。蕎麦店「たけや」はリキパレスのすぐ近くで当時営業をしており、力道山の弟子のアントニオ猪木やジャイアント馬場ら、若いレスラーのたまり場になっていました。

その店が今はリキパレスの跡地に入っている!たけやの本間誠さんは、「うちの母親は面倒見が良かったから、若いレスラーが居つくようになったようですね。当時私は子どもでしたが、プロレスの技を教わったり、野球を観に連れて行ってもらったりした記憶があります。猪木さんや馬場さんのほか、吉村道明さんや大木金太郎さんもよく来てくれましたし、ある時、カール・ゴッチと宿敵のロビンソンが2人で来店した時には、本当にたまげました」と、当時を振り返る。

力道山はこの「たけや」の天ぷらそばが大好物で、昼時になると直接お店に電話をかけ、海老は食べないのに決まって天ぷらそばを注文していたそうだ。若手時代のアントニオ猪木や大木金太郎も大変お世話になり、「出世払い」でそばや丼物を御馳走になっていた。リキパレスの完成記念の式典で、当時の日本を代表する政財界の大物や芸能人・文化人の錚々たる顔ぶれに交ざり、一般人で唯一招待された「たけや」御主人夫妻の姿があったことは、プロレス雑誌にも掲載されていない。常日頃、自分の弟子達が「たけや」に世話になっているのを、力道山は決して見過ごしていなかったのです。

このカツ定食たった900円です!

時は流れ2008年。その「たけや」で僕はそばをたぐった。ここは美味く、そして価格も庶民的である。僕は御主人に思い切ってリキパレスの話しを切り出してみたが、御主人は特別驚く様子もなく笑顔で、星野勘太郎が来店した時の話しなどを聞かせてくれた。昭和のファンにとって、そしてレスラーにとっても、今もリキパレスと「たけや」は特別な場所なのです。

「たけや」
住所:渋谷区道玄坂1-10-2 渋谷THビルB1 
ただし、ここも現在では閉店となりました。