青春タイムトラベル ~ 昭和の街角

昭和・平成 ~良き時代の「街の景色」がここにあります。

「明日に架ける橋」~題名は大人の事情で付けられる

2017-07-03 | 青春の音盤

サイモンとガーファンクルの、映画「卒業」で使われていた曲が聴きたい。そのサントラを手に持ちながら、あの面白くなかった映画の、主人公だけが印刷されたジャケットのLPなんて買いたくない・・・動揺している僕に、後ろから声をかけてくれたのは、友人Oのお父さんでした。友人Oは、僕の映画の師匠。Oの師匠が、芸大出身でデザインを仕事にしており、映画と洋楽の知識の宝庫である彼のお父さんでした。

「それは買わない方がいい。サイモンとガーファンクルと関係ない、映画で使われている音楽が半分だから。ここに入っているS&Gの曲は家にレコードがあるから、カセットに録音してあげよう。だから買うならこっちを買うといい」と、1枚のレコードを薦めてくれました。それは「明日に架ける橋」(Bridge Over Troubled Water)というタイトルのS&GのLPでした。

勿論、後に知ることになるのですが、これがサイモンとガーファンクルの最後のスタジオ・オリジナルアルバムです。「明日に架ける橋」「ボクサー」「コンドルは飛んで行く」という、名曲が収録されていました。しかし、まだ1度も聴いたことの無い曲ばかりが入っている、というか1曲も知らないレコードを買うことが、当時どれだけの冒険だったか?月に二千円程度の小遣いの時代に、二千五百円を使うのは博打だったのです。


でも、買って良かった!


「明日に架ける橋」(Bridge Over Troubled Water)・・・辞書を引いて調べてみると、「困難な水の上にかかる橋」・・・どこにも「明日」は出て来ません。これがなぜ、訳すると「明日に架ける橋」になるのか?歌詞と対訳を見ても、どこにも「明日」という日本語と“tomorrow”という単語は出て来ません。

学校の先生に聞いても、「それは間違っている」というだけで、明日という言葉が入る理由は分からないと言うだけ。今考えれば、英語の教師でありながら、S&Gの明日に架ける橋を知らないと言うのも問題です。現在でも、海外に行ったことも無ければ、外国人の友人もいないし、海外文化に興味がないという英語の先生はいます。ただ、受験英語の成績が良いだけで、それすら教えるのが上手いかどうかは??という先生が大勢います。

そこで当時僕も周囲に倣って行き始めた塾のY先生に、同じ質問をぶつけました。先生の答えは驚きの答えでした。「これは英語を訳したのではなく、レコードを売るために日本で名付けた邦題だから。」というもの。

もしラジオから流れて来た曲が気に入って、買いに行こうと思った時、アナウンサーが「ブリッジ・オーバー・トラブルド・ウォーターでした」と曲を紹介していたら、一体何人の人がレコード屋さんに行って、そのレコードを買うことが出来るでしょう。若い人でもその題名を聴き取れない人はいるし、レコード屋のおじさんやおばさんは英語の題名を覚えているでしょうか?「困難な水の上にかかる橋」という題名と、「明日に架ける橋」という題名なら、どちらが購買心を掻き立てるでしょうか?

家にあったお気に入りの「悲しき雨音」のレコードの題名も、英語題名は“Rhythm of the Rain”で、どこにも「悲しい」という意味はありません。ラジオリスナーがすぐに覚えることが出来、購買心を掻き立てる題名を、レコード会社の宣伝マンが考えてつけているということを先生は教えてくれました。

映画もそうです。原題は主人公のアウトローの名前である“Bonnie and Clyde”が「俺たちに明日はない」に、“Butch Cassidy and the Sundance Kid”が「明日に向って撃て!」に、“Love Story”が「ある愛の詩」に替わるのも、映画をヒットさせるための宣伝マンの知恵なのです。その仕組みを中学1年でハッキリと知っている友達は、まだ僕の周りにはいませんでした。

宣伝のために、覚えやすく美しい題名を勝手に、「大人の都合」で付けてしまう。(笑) 日本語のタイトルには原題には無い何かがあること、その何かが何であるかを教えてくれたのが、この名作アルバムでした。英語だけではなく、その周辺の英語にまつわることも一緒に、1つでも子供たちには伝えたいと今も英語教育について僕が考えるのは、この時の経験が僕の原点だからなのかも知れません。このことを教えてくれたY先生との出会いが無かったら、僕は間違いなく今のように英語を話すことは出来ませんでした。