荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『誰でもかまわない』 ジャック・ドワイヨン

2008-09-06 03:27:00 | 映画
 東京・有楽町の朝日ホールで今、《フランス映画の秘宝 シネマテーク・フランセーズのコレクションを中心に》という映画祭が開催されている。シネマテークの現・館長セルジュ・トゥビアナと蓮實重彦のセレクションによる13本の新旧作品が上映される運びだが、開会日のきのう5日、ジャック・ドワイヨンの新作『誰でもかまわない』(2007)で劇的に幕を開けた。ドワイヨン久々の日本カムバックがこのような劇的な傑作によって実現しようとは、正直なところ予想外なほどであった。

 実はその前夜、東京日仏学院ですでに始まっている《ジャック・ドワイヨン特集》にて、代表作のうちの1つ『ラ・ピラート』(1984)を、ロードショー時の六本木俳優座シネマテン以来20余年ぶりに再見することが叶い、骨太にして繊細な、暴力的にして傷つきやすいドワイヨン映画の濃厚なる生気を再確認したばかりであった。それだけに、いやが上にも過剰になりがちな期待を抱いて、朝日ホールに駆けつけたのである。

 『誰でもかまわない』は、3という登場人物の数が形成するサスペンスを徹底的に追究し、研ぎ澄ますことに成功しており、これは、『ラ・ピラート』で拘泥した5という数(フィリップ・レオタールの役名が「ナンバー5」と名付けられたことで強調された)よりさらに少ない奇数となっている。したがって、いささか混み合った画面で塗りつぶされた感のある『ラ・ピラート』よりも、23年後の新作では、ぽっかりとした屋外の空間が空いている。そして3人の若者は、つねにこの3者という状態に拘泥し続ける。男女を描写するには永遠に不均衡であるこの数字が、たとえば4に変態したとき、物語が終焉を迎えるというおそれを、登場人物たちは全員察知している。そして実際、この充実した3が彼ら自身の手によって3でなくなるとき、素晴らしい2時間という上映時間は、惜しくも終わりの時を告げてしまうのである。


《フランス映画の秘宝》は朝日ホールにて9月15日(月・祝)まで開催
http://www.asahi.com/event/fr/

《ジャック・ドワイヨン特集》は市谷船河原町の東京日仏学院にて9月25日(木)まで開催
http://www.institut.jp/


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