荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『家族の肖像』 ルキーノ・ヴィスコンティ

2017-01-09 03:27:06 | 映画
 私事で恐縮だが、私が初めて見たヴィスコンティ映画は、『家族の肖像』(1974)である。日本公開は何年も経ってからやっと実現し、これをきっかけに70年代末から80年代初頭に一大ヴィスコンティ・ブームが起きる。私は同作の日本公開時、中学1年生で、ヨーロッパへのあこがれを最も体現してくれたのが、ヴィスコンティとタルコフスキーだった。ゴダールとトリュフォーへの耽溺はその少し後のことになる。劇中かかる挿入歌(朗々たるカンツォーネ風歌謡)は、当時NHK-FMで毎週土曜の夕方に放送していた『関光夫の夜のスクリーンミュージック』という映画音楽専門番組で録音して、愛聴した。中学時代も今もそういう意味ではあまり変わらないし、成長も正直言って、ない。
 当時見た印象としては、貴族的かつ孤独な暮らしを満喫するバート・ランカスターが、騒々しい間借り人一派によって平和を乱され、追いつめられるストーリーとしてのみ認識した(心理的パニック映画としてのみ見ようとした)。しかし、先日試写で再公開用のニュープリントを拝見して、あらためて感じ入ったのは、ランカスターの暮らしを攪乱する側にも、彼らなりの思いや鬱屈があり、彼らの首領である傍若無人な貴婦人のシルヴァーナ・マンガーノにも、彼女なりの考えがあることである。これは当時の自分には分からなかった。ヴィスコンティの中にあって必ずしも評価が高くない作品だが、なかなかどうして滋味溢れる、そして絢爛たる作品である。
 バート・ランカスターの白日夢の中に登場する美しき母親を、ドミニク・サンダが演じている。ここでは、息を飲むほどの美貌絶頂期のドミニク・サンダが見られる。ヴィスコンティは彼女の美を一滴もこぼすことなく、写し取る。さすがは美の耽溺については追随者のいないヴィスコンティだ。
 1年ほど前に公開された、ベルトラン・ボネロの『サンローラン』では、イヴ・サンローランの老後をヘルムート・バーガーが演じ、サンローランの母親をドミニク・サンダが演じている。以前に拙ブログでこれについて間違いを犯した。『家族の肖像』『サンローラン』共にバーガーとサンダが母子を演じた、と書いてしまったことがあったが、『家族の肖像』においては実際にはサンダはランカスターの母親である。ヘルムート・バーガーは騒々しい間借り人一派のひとりである。ただし、そうした異同はともかく、『サンローラン』にはヴィスコンティの影が色濃く揺らめいているのはまちがいない。


2/11(土・祝)より岩波ホール(東京・神田神保町)ほか全国順次公開予定
http://www.zaziefilms.com/kazokunoshozo/


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