風景シリーズ 水本爽涼
特別編 その後[8] 「おかず」
皆さんのお家ではどのようにされているだろう。日々のおかずである。うちでは母さんが日々、苦にするそぶりも見せず、作ってくれている。その日々の努力に対して、総理大臣になりかわり僕から感謝状を・・と思える。それほど、大変なのが、日々のおかずだろう。母さんのミルクだけをチュバチュバと好きなだけ吸い込んで、好きなだけ垂れ流してりゃいい妹の愛奈(まな)とは違い、じいちゃんを筆頭に、うちの男ども三匹は結構、面倒な存在に違いない。その中の一匹の僕が言うのだから、間違いはないはずだ。幸い、母さんは料理が得意で、作ることが好きだから、そう気にしなくていいのかも知れないのだが…。
「おう、松茸づくしですな…」
「美味しいかどうか…」
じいちゃんの言葉に母さんが謙遜して返した。
「いやいや、これはこれは…」
するとまた、じいちゃんが返す。僕は、じいちゃんのとなりで死ぬまでやってりゃいいさ…と、悪ぶって思った。
「おお、美味そうだな…」
「うるさい! 部外者が…」
じいちゃんが毎年の同じ返しで父さんに雷撃した。父さんは押し黙って我が身を電磁バリアで防ぎ、テーブル席へ神妙に着いた。そのテーブル上には、昨日、じいちゃんと山で採ってきたきのこ料理が所狭しと幾品も並べられていた。この日の夕食は、久しぶりの種々の珍味に舌鼓を打てた。松茸ご飯の味も程よく、土瓶蒸し、焼き松茸に至っては都会なら一流料亭並みで、他にも幾品か出て、山の幸のオンパレードだった。しかも母さんのいい腕の調理だから、不味かろうはずがない。愛奈には悪いが、美味い美味いと家族四人、皆で味あわせてもらった。
「明日は久しぶりにスキ焼にします…」
「ははは…、そりゃいいですなぁ」
毎年のことだが、きのこ採りのあとは、数日、こういうラッキーな日が続く。肉体労働の醍醐味だが、身体を使った味は、またひと味違う。ほぼ食べ終えたとき、それまで遠慮していた訳ではないのだろうが、愛奈がオギャ~オギャ~と赤ん坊ベッドで泣き始めた。母さんは慌てて席を立ち、愛奈の方へと向かった。好きなだけ垂れ流したんだろう…と僕は思った。僕も同じ過程を経て成長したんだろうから、このことに関しては深い言及は避けたい。
「だいぶ、大きくなったようですな…」
しばらくして、席に戻った母さんにじいちゃんが言った。
「はい…。手のかからない子で助かりますわ」
僕が見たところ、かなり手がかかっていると思うのだが、そこはそれ、母性本能で母さんは上手くフォローした。
「ははは…、なにより、なにより…」
ほとんど離れにいて何も知らないじいちゃんは、素直に聞いている。悪い真実は軽く暈(ぼか)す。まあこれが、世間を上手く渡る処世術なんだろうな…と僕には思えた。