水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

風景シリーズ  特別編 その後[11] 「大きなお世話」

2012年09月08日 00時00分00秒 | #小説

 風景シリーズ   水本爽涼

  特別編 その後[11] 「大きなお世話」


 妹の愛奈(まな)は母さんによって世話をされている。それは誰も疑う余地がない事実だ。僕はある人から正也君は頭がよいと言われた。いい意味で素直に聞けば、お利口さんという意味になるのだろうが、日本語とは妙な含みがあり、別の意味に取れるという悪い点がある。だからこの場合、お利口さんの裏には、君は頭がいいからやりにくいとか、私は君のように頭はよくないよ、という意味に取れなくもない。もっと深く考えれば、逆の意味で、そんな賢ぶるな! と、言われているような意味にも取れる。こうした例は結構ある。あらっ! あの方、お綺麗だこと、フフッ…と奥様方二人が少し離れた奥様を見て話したとしよう。その言葉の綺麗は本当の意味の綺麗なのか…ということになるが、実は逆接や皮肉めいた大したことがない・・という意味を含む場合が多いのだ。だから、僕はお利口さんと言われて、あなたはどういう意味で言っていっているのか? 言われる人の気持を考えたことがあるのか? と訊(たず)ねたいのだ。もし、その人が君は賢いが、あまり賢ぶらない方がいいぞ、という意味合いで言ったとすれば、大きなお世話だ! と言い返したい。あなたにそんなことを言われる筋合いはないのだし、父さんや母さん、それにじいちゃんならまだしも、あなたは赤の他人なんですよ・・ということだ。そんな方にとやかく言われる筋合いはない。世話とは簡単に使えるが、なかなかどうして、意味が深い言葉なのである。世話をしていると思っていても、相手は大きなお世話と思っている場合もあるということだ。先だっても、こんなことがあった。
「オギャ~、オギャ~」
 うっかり、僕が、あやし棒を振ったのが悪かった。愛奈がむずかっていたからだが、その微妙な音に彼女は驚いたのか、泣き始めた。僕が世話をしようという、健気な兄心を抱いたのが返って裏目に出てしまったのだ。
「正也!」
 母さんが駆け寄って愛奈を抱き上げ、上手く振りながら泣きやませた。結果、事なきを得たのだが、僕は世話を焼いて怒られるということになったのだ。このケースは父さんにもあった。要は愛奈に限って言えば、母さん専属なのだ。ばあちゃん子、じいちゃん子・・とかの言葉があるが、彼女は完璧な母さん子と言えるだろう。なにも、やっかみで言ってる訳ではなく、これが正論だと思う。
「何か、ありましたかな?」
 愛奈の泣き声に、じいちゃんが顔を出した。母さんは、慌てて振り返って言った。
「いえ、別に何もありませんわ…」
 僕はフォローされた形だ。いい母親を持つと子供は助かる。父さんに関しては…敢(あ)えて、言及を避けたい。


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