いつもはそうでないことでも、その日に限って辛(つら)いときがある。山吹はその日、無性に辛いな…と心が萎(な)えていた。朝から立て続けに起きた出来事により、次第に辛さが増幅されていったのである。 『どうも今日は三隣亡(さんりんぼう)だな…』 朝、髭を剃(そ)ろうと洗面台に立ったまではよかったが、シェービング・クリームが切れていたことを思い出した。「チェッ!」と舌打ちしたまではよかったのだが、興奮の余り、うっかり高温のお湯を水で冷まさず顔を洗ったのがいけなかった。顔が真っ赤になりヒリヒリしながら朝食を済ませる破目になったのである。幸いその日は日曜だったから、山吹は出勤する必要に迫られず、内心でホッ…としていた。だが、家族に笑われるは、ヒリヒリは治まらないは・・で三隣亡だと独り言ち言葉はたのだ。運悪く、その独り言を高二の娘が聞いていた。 「あらっ! 三輪宝(さんりんぼう)は江戸時代から出来た言葉で、最初の頃は吉日だったそうよ。日本史の先生がそう言ってたもん…」 「そうか…吉日だったのか。じゃあ、どうして大凶日になったんだ?」 「さあ? そこまでは…」 山吹の疑問は妙な方向へ膨らんでいったが、幸いなことに、この雑念で辛さは完全に消え去っていた。 辛いときは別の発想へイメージ・チェンジ[イメチェン]すれば、辛い雑念は消えるようです。^^
完