さらに「内乱罪の該当性を司法が判断するとしても、その前に憲法裁判所での弾劾審判が必要な現職大統領を、証拠隠滅や逃亡の恐れを理由に拘束するのは、どのような論理でも説明が難しい」と批判した。
ソク・ドンヒョン弁護士は、現状に対する懸念も表明し、「最近、野党と公捜処(高位公職者犯罪捜査処)が手を組み、内乱や弾劾を扇動していることに反対する多くの国民や海外同胞、特に左派勢力の策略を知るに至った20~30代の若者たちが、過剰な怒りを示すのではないか心配だ」と述べた。さらに「その怒りは理解できるが、暴力的な様相に発展すれば、左派勢力の攻撃や逆工作に巻き込まれる可能性がある」と警告した。
また「それはユン大統領が望むことではなく、内乱罪のフレーム克服や弾劾審判への対応に負担となる可能性がある。冷静さを保ち、より緻密な知恵と意志を結集して危機を乗り越えるべきだ」と強調した。
拘束令状発付の知らせを受けて、ソウル西部地裁周辺に集まっていたユン大統領の支持者約100人が裁判所内に突入し、ガラスを割り、外壁を破壊するなど暴動を起こした。警察は同日5時時点で16個中隊、1000人の警察力を動員して鎮圧を開始し、30人以上を逮捕した。
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ハンギョレ新聞 2025/1/20
内乱罪の被疑者である尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の拘束令状が発付された19日午前3時ごろ、ソウル西部地裁は無法地帯となった。尹大統領の支持者たちは拘束令状の発付に抗議し、ガラス窓や外壁を破壊して裁判所の建物内に乱入し器物を破損しただけでなく、令状を発付したチャ・ウンギョン部長判事を捜し回るなど暴力行為を行った。デモ隊が憲法機関である裁判所を攻撃したのは初めてのことだ。これまで尹大統領が法治を否定し、司法体系への信頼を崩し、支持者を扇動してきた結果だ。極右勢力の蠢動(しゅんどう)が民主主義自体を否定し、根本から揺るがす水準まで達したという懸念が出ている。
警察はこの日、集団で違法行為を行った尹大統領の支持者89人を逮捕し、取り調べている。同日早朝に西部地裁で暴力行為を行った46人、前日夕方に高位公職者犯罪捜査処(公捜処)の検事と捜査官が乗る車両破損し、捜査官を暴行した容疑の40人、この日午後に憲法裁判所の垣根を越えて無断侵入した3人だ。警察は違法行為者の全員を拘束捜査する方針を立てた。
支持者らのこのような動きは、「12・3内乱事態」後も捜査機関と裁判所の正当な権限に絶えず異議を唱え、事実上「内戦」を扇動してきた尹大統領が最大の原因だとする批判が出ている。建国大学法学専門大学院のハン・サンヒ教授は「尹大統領側と与党は内乱を『苦渋に満ちた決断』だと言い張り、尹大統領を無実の被害者とするメッセージを支持者に送り続けた」として、「いつでも集団暴力が発生しうる状況になっていた。尹大統領の弁護団と与党、(尹大統領の支持デモを主導する一人であるチョン・グァンフン牧師などの)一部のキリスト教勢力が『未必の故意による扇動』をしたも同然」だと指摘した。
実際に尹大統領は、新年初日からソウル市漢南洞(ハンナムドン)の大統領官邸前にいるデモ隊に「皆さんとともに最後まで戦う」と扇動するメッセージを出した。その後、自筆の手紙や動画、弁護団などを通して、「公捜処には内乱罪の捜査権限はない」 「西部地裁の逮捕状発付は無効」などの主張を繰り返し、司法体系の信頼を大統領自らが崩してきた。与党もこれに同調してきた。
尹大統領が逮捕された後には、暴力を辞さないと露骨に煽ったりもした。尹大統領の弁護団であるソク・トンヒョン弁護士は17日、ソウル拘置所の前で尹大統領の支持者たちに「韓国の右派の長所であり弱点であるのは、暴力を使えないことだ。民主労総やあの悪い人たちのように、警察を暴行してパトカーをひっくり返すようなことができなかったが、本当に到底我慢できない状況になったら、われわれも抵抗権を行使しなければならないと考えている」と述べた。国民の力のユン・サンヒョン議員は前日、西部地裁の前で一部のデモ隊が裁判所の塀を乗り越えて警察に逮捕されると、「(警察)関係者と話したので、多分まもなく訓戒放免されるだろう」と支持者に説明した。野党から「暴力事態を煽った」という批判が上がると、ユン議員側は「18日夜に現場で警察に連行された学生たちに対する発言だ。暴力事態は起きてはならない」と釈明した。
しかし、不正選挙や「正当な非常戒厳、詐欺弾劾」といった陰謀説を流布するユーチューブチャンネルでごく少数がシェアするような主張が、「大統領」を筆頭に公の場で堂々と横行し、政権与党がこれを後押し、極右勢力が暴力的な行動にまで乗り出したのは、単発的な現象ではなく民主主義という憲政体制の根本的な危機とみる懸念が強い。中央大学社会学科のシン・ジヌク教授はこの日、フェイスブックに「韓国の極右がファシズムとテロリズムの性質を帯び始めた。今後の深刻な問題は、社会の底辺の極右大衆とその背後の組織的な実体」だとし、「すでに韓国の極右は(最後の段階である)暴力と反乱の水準に達した」と投稿した。仁川大学政治外交学科のイ・ジュンハン教授も「今後、尹大統領弾劾が棄却されれば棄却されたで、認容されれば認容されたで、その結果を受け入れられないという流れができるだろう。大統領選を行っても当選者を受け入れず、不正選挙という主張がなされ続けるだろう」とし、「そうして心理的内戦が日常化し、深刻な水準にまで加速しうる」と述べた。
尹大統領支持者による西部地裁の襲撃は、2021年1月、米国の「QAnon」と呼ばれるオンライン陰謀論集団がドナルド・トランプ氏の大統領選敗北を受け入れず国会議事堂を武力占領したことと同じだという指摘も出ている。政界が極右ユーチューブと密着すればするほど、過激な主張と暴力が乱舞することになる。BBC出身のジャーナリストのゲイブリエル・ゲートハウス記者は昨年、「米国人の4人に1人がQAnonの陰謀論を信じている。QAnonの議論の核心教理が、米国の主流政治に完全に入り込んだ」と主張した。韓国与党議員が「中国人が尹大統領弾劾に賛成している」と公の場で主張し、国家暴力を象徴する「白骨団」を自称する極右青年組織に国会で記者会見の場を設けたことは、韓国の民主主義の基盤が極右の陰謀論と暴力によってすでに危険なほどの打撃を受けているという傍証だ。
これについて、政府と政界がなんとしてもブレーキをかけなければならないという声が出ている。ソウル大学政治外交学部のパク・ウォンホ教授は「大統領が(司法府の決定に従わなくても構わないという主張を)始めたことであり、国民の力も手段を選ばず踏ん張るという考えで大統領に同調した結果が、暴力事態につながった」としたうえで、「公権力が暴力事態を決して座視しないことを、必ず示さなければならない」と述べた。
イ・スンジュン、コ・ハンソル、チョン・ヘミン、キ・ミンド、パク・カンス記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
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与党政治家や極右ユーチューバー、尹錫悦大統領とその周辺の擁護派が持続的に煽らなければ、韓国における今回の裁判所襲撃は無かったでしょう。行き場を無くした若者の反乱のように扱う視点には全く同意できません。