狐の日記帳

倉敷美観地区内の陶芸店の店員が店内の生け花の写真をUpしたりしなかったりするブログ

普通の触れ方を知らないから戸惑っていたら 触れてくれた手にどれだけ夜をくぐり抜けてもずっと冷めないままの熱が脈を打つ

2018年02月18日 22時32分35秒 | VSの日記





 本日2月18日は、イタリアでメディチ家に対する陰謀が発覚してニッコロ・マキャヴェッリが連座して捕らえられた日で、元スコットランド女王のメアリーがイングランド女王エリザベス1世の暗殺計画であるバビントン事件に加担したことにより処刑された日で、江藤新平ら反乱軍が佐賀城の佐賀県庁に籠もる佐賀県権令の岩村高俊の部隊と戦闘して政府軍が敗走した日で、日本からの移民を制限する日米紳士協定が締結された日で、東北行政委員会が満洲の中国国民政府からの独立を宣言した日で、貴族院本会議で菊池武夫議員が美濃部達吉議員の天皇機関説を非難した日で、日大闘争で機動隊導入により日本大学の全学封鎖が解除された日で、リチャード・ニクソン米大統領が条約遵守・自主防衛努力の強化と援助・「核の傘」提供の「平和三原則」を強調する外交教書を発表した日で、ロナルド・レーガン米大統領が経済再建計画・レーガノミックスを発表した日です。

 本日の倉敷は曇りでありましたよ。
 最高気温は八度。最低気温はマイナス三度でありました。
 明日は予報では倉敷は曇りとなっております。






 お鍋はぐつぐつ煮える。
 牛肉の紅は御師匠様の素早い箸で反される。白くなつた方が上になる。
 斜に薄く切られた葱は白い処が段々に黄色くなって褐色の汁の中へ沈む。
 箸の素早い御師匠様は晴着らしい付下げを着ている。
 傍に和柄鞄が置いてある。
 御酒を飲んでは肉を反す。
 肉を反しては御酒を飲む。

 狐は御師匠様に御酒を注いで遣る
 狐の目は断えず御師匠様の顔に注がれている。
 永遠に渇しているような眼である。
 眼の渇きは口の渇きを忘れさせる。
 箸の素早い御師匠様は二三度反した肉の一切れを口に入れる。
 白い歯で旨そうに噬む。
 永遠に渇している眼は動く顎に注がれている。
 白い手拭いを畳んで膝の上に置いて割箸を割つて手に持つて待つている。

 御師匠様が肉を三切れ四切れ食べた頃に、狐は箸を持つた手を伸べて一切れの肉を挟もうとした。
 御師匠様に遠慮がないのではない。
 其れならと云つて御師匠様を憚るとも見えない。
 「待ちなさい。其れは未だ煮えていません」
 狐はおとなしく箸を持つた手を引つ込めて待つ。

 暫くすると、御師匠様の箸は一切れの肉を自分の口に運んだ。
 其れはさつき狐の箸の挟もうとした肉であつた。
 狐の眼は又、御師匠様の顔に注がれた。
 其の眼の中には怨も怒もない。
 ただ驚がある。

 狐は驚きの眼を御師匠様の顔に注いでいる。
 食べてよいとは云つて貰われない。
 もう好い頃だと思つて箸を出すと、其の度毎に「其れは煮えていません」を繰り返される。

 驚の眼には怨も怒もない。
 しかし卵から出たばかりの雛に穀物を啄ばませ胎を離れたばかりの赤ん坊を何にでも吸い附かせる生活の本能は、驚の眼の主にも動く。
 狐は箸を鍋から引かなくなつた。

 御師匠様の素早い箸が肉の一切れを口に運ぶ隙に、狐の箸は突然手近い肉の一切れを挟んで口に入れた。
 もうどの肉も好く煮えているのである。
 少し煮え過ぎている位である。

 御師匠様は切れ長の眼で狐の顔をちよいと見た。
 叱りはしないのである。
 只これからは御師匠様の素早い箸が一層素早くなつた。
 代りの生を鍋に運ぶ。
 運んでは返す。
 返しては食べる。
 しかし狐も黙つて箸を動かす。
 驚の眼は或る目的に向つて動く活動の眼になって其れが暫らくも鍋を離れない。
 大きな肉の切れは得られないでも小さい切れは得られる。
 好く煮えたのは得られないでも生煮えなのは得られる。
 肉は得られないでも葱は得られる。






 美味しいものは実力で得るべし。
 鍋を食するは知力と速さと胆力の限りを発揮し死力を尽くす闘いである。

 其の夜。狐と御師匠様は死力を尽くし闘い抜いた。
 凄惨なり。相争う者共よ。見事な闘いである。
 狐と御師匠様は激闘の末、ふらふらになつて御店を出た。
 そして御互いの健闘を讃えあい、家路についたのだつた。


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欲望を無くそうとする欲こそ最も大きい欲である。

2018年02月18日 21時54分27秒 | その他の日記





 文化は、一人の天才が出現しても周囲がその人物のことを理解できなければ発展することはありません。
 周囲に理解がなければ天才であっても能力を発揮することはできません。
 社会全体に素地があって初めて天才は光り輝くことができるのです。

 余裕がない社会では文化は栄えません。
 もっと端的に述べると貧乏な社会では文化は衰退します。
 飲まず食わずの社会では文化に回す余力は著しく低下します。
 その意味でも経済は大事なのです。

 文化人で「経済成長よりも大事なものがある」と述べる人がいますが、私には理解できません。
 文化人は経済成長による余禄でお金を得てきた人達です。経済成長が止まれば真っ先に切られるのはあなた達ですよ?
 かつての経済成長の鈍化でどれだけのものが消えていったか、文化人ならば知っているはずです。
 「大事なものがある」という主張と「経済成長の否定」はイコールではありません。
 「大事なものがある」という主張をしながら「みんなで豊かになろう」と主張すればよいではないですか?
 その方法論を探せばよいではないですか?

 経済成長が止まった時に優位な立場に立つ人は、もう既に富を持っている人達である可能性が高いです。
 もう既に大金持ちである人達が清貧という言葉を使って道を説いたとしても、それはただ単に更に優位な立場に立とうとしていると見做される可能性がありますよ?
 
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『李陵・山月記』/中島 敦

2018年02月18日 16時54分42秒 | 小説・本に関する日記




 昨日の夜は、中島敦の短編・中編小説集『李陵・山月記』を読み返していました。
 収録されているのは、「山月記」と「名人伝」と「弟子」と「李陵」の4編です。


 圧倒的に美しい文章です。うっとりしてしまう美しい文章なのであります。
 滑らかに流れるように文章が組み立てられていてしかも格調高いです。
 語彙の豊富さを誇るわけでなく嫌味無く自然な美しい文章で驚きです。
 真似してみたいけれども絶対に出来ない。美しい。うっとりであります。
 基礎教養が物凄く高いのだろうなあ。磨きこまれているのに自然です。

 私、「山月記」を読んでいると泣きそうになってしまいますよ。
 幼い頃は、何にでもなれるような気がしたものです。
 ま、後悔はしていませんけれどもね。



 昨夜は夢中になって読んでおりましたよ。
 とても面白いですよ。
 超お勧めなのであります。


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