3/12(月)、イオンシネマ新潟西で『ナチュラルウーマン』を観て来ました。
予告編はこんな感じです。
最初に言っておきますが、僕はこの映画、予告編を見たかどうかさえも思い出せないくらい、あらゆる前情報を頭に入れずに観に行きました。
なので、まったく予想しなかった出来事ばかりが起こってかなり驚きっぱなしの映画だったのですが、この映画に関しては寧ろそれが正解だったような気がします。
…という前提で、感想を書いていきますね。
この物語の主人公はマリーナという「女性」。(何故かっこつきなのかは、後程説明します)歌手として働きながら、一生懸命生きています。
そんな彼女には、オルランドというかなり年上の男性の恋人がいるのですが、二人は深く愛し合っているようで、非常にお洒落なデートの様子が映画の冒頭に登場します。
この時点で僕は、こういう年の差カップルの恋愛を描いた人間ドラマが始まるんだろうなあ、と想像していたのですが…なんと、映画が開始早々、物語の主要キャラクターだと思っていたオルランドの突然亡くなるという、非常にショッキングな展開を迎えてしまうのです!
ここが、まず一つ目の驚き。
以降、残されたマリーナを主人公として物語は展開していくのですが、その中で「彼女」のある大きな秘密が徐々に明らかになっていきます。
と言うのも、実はマリーナは、いわゆるトランスジェンダーであり、体は男性、心は女性だったのです。
これは映画を観た後で知ったのですが、マリーナを演じた、女優であり歌手でもあるダニエラ・ベガさん、この方自身がトランスジェンダーなんだそうですね!
つまり、実際にトランスジェンダーの方がトランスジェンダーの役を演じるという。
昨今、世界的に議論が進み、人の生き方として理解が広まりつつも、未だに理解が進んでいない部分も多いと思わせられるLGBTの問題。
時代の変化にともない、LGBTの物語内での描き方にも変化が見られるというか、そもそも描かれること自体が増えているのではないかと感じることも多いですが、そんな中でもこの「ナチュラルウーマン」、かなり最先端の攻めた映画なのではないでしょうか!?
先程書いたように、前情報を一切頭に入れずにこの映画を観ていた僕は、主人公がトランスジェンダーであるということすらまったく知らなかったのですが、結果的にそれが良かったのではないかと思いました。
と言うのも、もしそれを知っていたら、よし「トランスジェンダーの映画を観るぞ!」と身構えてしまったと思うのですが、それがなかったために、まるで自分が実際にトランスジェンダーの方に出会った時のような疑似体験ができたと思うのです。
例えば、彼女が映画の中でトランスジェンダーであるってことが分かるまで、僕は完全にいわゆる普通の女性だと思っていたし、分かった時はとても驚いたのです。
「世の中に実際にトランスジェンダーの方がいても意外と気付かないこともあるのかも知れないなあ」とか「でも本当はトランスジェンダーだって知った時は多分自分は驚くんだろうなあ」などと、自分がトランスジェンダーの方に対してするであろう(頭で考えたわけではなく心の動きとして)自然な反応を、映画を観ることで擬似体験できたなあと思うんですよね。
まあ、何はともあれ、主人公がトランスジェンダーだって分かった時の衝撃。
ここが、二つ目の驚き。
で、この時点でかなり驚きが多い映画なのですが、さらにこのあと衝撃的な展開が次々と起こります。
と言うのも、トランスジェンダーである主人公のマリーナを、数々の差別や偏見が襲うのです。
恋人を失って悲しみに暮れているマリーナのもとを訪れた警察は、彼女がトランスジェンダーであるというだけの理由で、犯罪者扱いするかのように疑ってきます。
警察が取り調べの中にマリーナを裸にして調べるシーンがあるのですが、そこで男性の肉体を露わにさせられてしまう彼女を見て、どういう言葉で表現すればいいのか分からないような、複雑でつらい気持ちになってしまいました。
さらに、マリーナは亡くなった恋人、オルランドの葬儀に出ようとするのですが、オルランドの昔の妻や子供たちなどは、徹底的にマリーナを差別し、拒絶するのです。
いやー、ここまでトランスジェンダーに対する偏見や差別を強烈に描くとは…正直かなりショッキングでした。ここが三つ目の驚き。
もうこの時点で相当驚かされる映画なんですけど、さらにこの映画のすごいところは、主人公のマリーナが最初から最後まで差別や偏見に負けずに、徹底的に戦い続けるのです。
あくまで自分らしく真っ当に生きようとし続ける彼女の姿は、非常に勇敢に見えるし感動させられてしまうのですが、よく考えたらそれって当たり前の権利なんですよね。
だから、「当たり前に生きること」が勇敢に見えたり感動させられたりするのって、もしかしたらそれ自体がおかしいのかも知れないなあ…だって本当は「当たり前のこと」のはずなんだからなあ…などと、色々考えさせられてしまいました。
とは言え、現実問題として今の世の中には未だにマイノリティな人間が自分らしく生きることの難しさはあるわけで、その現実を痛切に描きながらも、希望を失わない主人公は、もしかしたらこの映画自体が希望を失っていないということなのかも知れないなあ…などと思いました。
まあそんな訳で、未だに一言では結論を出せない様々な問題を体当たりで描くことで、世の中に一石を投じようとしている、かなり挑戦的な映画だと思うんですよね。
いやー、まさかこんなにも観ながら色々考えさせられてしまうとは…ここが4つ目の驚きです。
と言う訳で、この映画は驚きの連続だったんですけど、あまりにも驚きが多かったので、正直ストーリーがそこまで頭に入っていなかったりするのです。
なので、いずれもう一度じっくり落ち着いて見返してみたいですね。さらに物語に対する理解が深まりそうだし、新しい発見がたくさんありそうな気がします。