舞い上がる。

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ちひろBLUESこと熊谷千尋のブログです。

深夜のノリで書きおろし小説「嘘とウサギ」後編。

2011-06-02 00:17:23 | 小説
勢いだけで書き始めた小説がまさか三部構成になろうとは、一体誰が予想しただろう。

いよいよ最終回です。
はりきって、どうぞ。




見渡す限り、空と砂漠しかない。
照りつける太陽の下、ヒデオは一人アメリカ大陸の大地を歩いていた。
高校を中退してから、3年の月日が流れていた。

中退したばかりのヒデオは特に何をするでもなく毎日を過ごし、本来なら自分が卒業するはずの時期まで、部屋からはほとんど出ない生活をしていた。
卒業式の日、家に一通の手紙が届いていた。
タカイチからだった。
封筒を開いて手紙を読むことは、その時はどうしても出来なかった。
それから何もしないまま更に一か月が経過した時、思い切って手紙を読んでみた。
そこには、こう書いてあった。

「ヒデオへ。あの時は傷つけるような事を言ってごめんなさい。中退したと聞いた時、すごく後悔しました。俺は大学に行く事がきまりました。ヒデオが何をするか分からないけど、これからも頑張って下さい」

タカイチとは思えない、かしこまった文章だった。
次の日から、ヒデオはアルバイトを始めた。
自宅で暮らしていたので、少しずつではあるが貯金も増えた。
バイトを始めて2年が経過した時、ヒデオはバイトをやめた。
反対する両親を押し切って、ヒデオは旅に出た。
全国各地を気ままに旅して回った。
贅沢な旅が出来るほどの貯金は無かったので、時には野宿をすることもあった。
ある時、ふとヒデオは思いついた。
この旅の様子を、ブログに書いてみようと。
2年前には嘘の旅行記ばかりを書いていたブログに、自分の本当の旅を書くのだ。
そう思って、ブログを2年振りに更新しようと思い、携帯電話から自分のブログを見た。
すると、削除されずに残っていた2年前の記事に、1件のコメントが残されていた。

「元気してる?連絡先知らないから、もしかしてこのブログまだ残ってるのかな~?って見てみたら、奇跡的に残ってたんで、コメント書いちゃったよ!」

コメントが書かれたのはつい最近。
名前には、タカイチと書いてあった。
ヒデオにとって、高校を中退するきっかけとなった男。
そして、部屋を出るきっかけとなった男だ。
あの時は、タカイチにきついことを言われたショックで中退したと思い込み、自己嫌悪に陥っていた。
けれど今なら分かる。
ヒデオは、こうして旅がしたかったのだ。
ヒデオにそのきっかけを作ってくれたタカイチは元気にしているだろうか?

ヒデオはタカイチの言葉を思い出した。

「アメリカ行くって聞いた時、俺おめーのことマジすげーカッコいーって一瞬ちょっと尊敬しちまったじゃねーかよ!何だよ、全部ウソなのかよ!」

次の日、ヒデオは実家に帰った。
引き籠りをやめて真面目に働き始めたと思った途端に家を飛び出し、半年間も家を開けていた息子が帰宅した時、両親は驚きと同時に安堵の表情を浮かべた。
しかし、ヒデオの口から出た言葉は、両親の安堵を数倍も裏切る結果となった。

そのまま、二度目の家出をしたヒデオは、その数日後にはアメリカ行きの飛行機に乗っていた。
そしてヒデオは一人、アメリカの大地に立った。
英語もほとんど話すことが出来ない、ガイドもいないヒデオだったが、それでもアメリカの大地を一歩ずつ歩き始めた。
行くあてもないまま歩いていると、人の良いトラックの運転手に乗せてもらえることもあった。
カタコトの日本語が話せるという現地男性と仲良くなり、ヒデオもカタコトの日本語で何とかコミュニケーションをはかった。
その翌日、その男はヒデオの財布と共に消えていた。
それでも、ヒデオは歩き続けた。
いつしかヒデオは、アリゾナの大地を一人で歩いていた。
行けども行けども砂漠が広がるばかりで、誰一人見当たらない。
今日中に誰かに出会うことが出来なければ、このまま砂漠で野垂れ死ぬかもしれない。
そう思った時だった。
ヒデオの視界の先に、何か動くものが見えた。
近付いた時、ヒデオはようやくそれが何なのかを認識した。

「どうして、アレがこんなところに?」




「ねえ、また更新されてるの?」

私はPCに向かうタカイチに話しかける。

「ああ、アイツとうとうマジでやりやがったなー!」

ここ一ヶ月以上、タカイチは高校時代の友人のブログを見ることを楽しみに生きている。
私も一緒に見ているが、ブログの中で楽しそうに旅を続ける彼は、いつか見たタカイチの記憶の中の彼とは思えないくらい、興奮に満ちているようだった。

「彼、ついにアメリカ行ったんでしょ?」

私がそう言うと、タカイチは嬉しそうに言った。

「ああ、あいつとうとうやりやがった。三年前にブログに書いたことを、今さら本当にしやがったよ。普通ブログってあったこと書くもんだろ?アイツの場合は嘘で書いたことを、あとから現実にしてんだよな。普通逆だよなあ」

「そうだね。ねえ、私にも見せてよ」

私は彼のPCの画面を覗き込む。
そこには一番新しく更新された記事が載っていた。

「アリゾナで、誰にも会えないと思ってたら、意外なものに出会いました」

そこに載っていたのは、一匹のウサギの写真だった。





コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Kawaちゃん)
2011-06-02 09:21:16
ステキだー!
ため息でた!
頭の中でシーンが浮かぶ!
返信する
涙のイエスタデー (ローメン)
2011-06-02 13:36:14
>Kawaちゃん

最後まで読んでいただきありがとうございます。
そして今気付いた。今回のタイトルは「遥かなる時空の中で」みたいだ。
返信する

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