二年ぶりに小説を書いてみようって気持ちになったので。
はりきって、どうぞ。
「彼の洗濯機」
年上の彼氏が出来た。
仕事をしていて車を持っていて一人暮らしをしている彼は、私の周りにいた同世代の男たちとは明らかに違う、大人の男性だった。
彼の仕事が休みの日には、私は朝から彼のアパートに遊びに行って、時間の許す限りそこで過ごした。
一人暮らしの年上男性の部屋に上がるなど初めてだった私は、それだけで気持ちが高揚した。
特別何をするというわけでもなかったが、彼と二人で同じ空間にいるということが、たまらなく幸せだった。
それはまるで束の間の同棲生活のようで、いつか自分にも結婚をする時が来るなら、彼とこんな毎日を送りたいと思った。
夜になると彼は必ず、もう遅いから送って行くよ、と声をかけた。
それはいつも突然で、どんなに私がもっと一緒にいたいと主張しても、結局私は彼に促されるままにアパートを出るのだった。
彼の運転する車の中で私は別れを嘆きながらも、家まで送ってくれる彼の優しさを思った。
彼に会えない時間は長く感じ、彼からの連絡が待ち遠しかった。
そして彼から休みの連絡が来ると、私ははやる気持ちを抑えきれずにまた彼のアパートに向かうのだった。
次第に私は、彼の部屋で家事をすすんで手伝うようになった。
彼は決して家事をなおざりにするような人間ではなく、部屋はいつも片付いていたのだけれど、私は彼のために出来る家事を探した。
部屋に掃除機をかけ、料理を覚えては披露し、二人で食べた後の食器を洗った。
中でも私が一番好きだったのは洗濯だった。
生まれてからずっと実家暮らしの私は洗濯機など使ったこともなく、そう話すと彼は笑った。
彼から教えられて洗濯機を操作し、洗い終わった洗濯物をベランダに干した。
私は人生で初めて洗濯した衣類が彼のものであることが嬉しく、それからというもの彼の部屋に来るたびに馬鹿の一つ覚えのように洗濯をした。
彼が仕事で忙しかった時などは洗濯物も多くたまっていて、私ははりきって洗濯機を回した。
彼の皮脂で汚れた衣類を私がきれいに洗い、清潔になったそれを再び彼が身に着けていると思うと、彼の生活の一部を私が支えているようで気持ちが満たされるのを感じた。
このままずっと、私が彼の洗濯をしてあげたい、そう願わずにはいられなかった。
気が付いたら私は彼の洗濯機になっていた。
汚い衣類は洗剤ともに私の中に入れられ、ぐるぐる回ってはきれいになっていく。
それにしても、私に汚れた下着を投げ込むこの女は誰だろう。
もう自分の言葉さえ持つことのない私は、今日も彼と、名も知らぬ女の衣類を洗濯している。
以上です。
僕の小説は、このブログのカテゴリ「小説」から読めますので、よかったらどうぞ。
はりきって、どうぞ。
「彼の洗濯機」
年上の彼氏が出来た。
仕事をしていて車を持っていて一人暮らしをしている彼は、私の周りにいた同世代の男たちとは明らかに違う、大人の男性だった。
彼の仕事が休みの日には、私は朝から彼のアパートに遊びに行って、時間の許す限りそこで過ごした。
一人暮らしの年上男性の部屋に上がるなど初めてだった私は、それだけで気持ちが高揚した。
特別何をするというわけでもなかったが、彼と二人で同じ空間にいるということが、たまらなく幸せだった。
それはまるで束の間の同棲生活のようで、いつか自分にも結婚をする時が来るなら、彼とこんな毎日を送りたいと思った。
夜になると彼は必ず、もう遅いから送って行くよ、と声をかけた。
それはいつも突然で、どんなに私がもっと一緒にいたいと主張しても、結局私は彼に促されるままにアパートを出るのだった。
彼の運転する車の中で私は別れを嘆きながらも、家まで送ってくれる彼の優しさを思った。
彼に会えない時間は長く感じ、彼からの連絡が待ち遠しかった。
そして彼から休みの連絡が来ると、私ははやる気持ちを抑えきれずにまた彼のアパートに向かうのだった。
次第に私は、彼の部屋で家事をすすんで手伝うようになった。
彼は決して家事をなおざりにするような人間ではなく、部屋はいつも片付いていたのだけれど、私は彼のために出来る家事を探した。
部屋に掃除機をかけ、料理を覚えては披露し、二人で食べた後の食器を洗った。
中でも私が一番好きだったのは洗濯だった。
生まれてからずっと実家暮らしの私は洗濯機など使ったこともなく、そう話すと彼は笑った。
彼から教えられて洗濯機を操作し、洗い終わった洗濯物をベランダに干した。
私は人生で初めて洗濯した衣類が彼のものであることが嬉しく、それからというもの彼の部屋に来るたびに馬鹿の一つ覚えのように洗濯をした。
彼が仕事で忙しかった時などは洗濯物も多くたまっていて、私ははりきって洗濯機を回した。
彼の皮脂で汚れた衣類を私がきれいに洗い、清潔になったそれを再び彼が身に着けていると思うと、彼の生活の一部を私が支えているようで気持ちが満たされるのを感じた。
このままずっと、私が彼の洗濯をしてあげたい、そう願わずにはいられなかった。
気が付いたら私は彼の洗濯機になっていた。
汚い衣類は洗剤ともに私の中に入れられ、ぐるぐる回ってはきれいになっていく。
それにしても、私に汚れた下着を投げ込むこの女は誰だろう。
もう自分の言葉さえ持つことのない私は、今日も彼と、名も知らぬ女の衣類を洗濯している。
以上です。
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