4/1(土)、シネ・ウインドで、小澤雅人監督「月光」を観て来ました!
ちなみに、予告編はこんな感じです。
予告編を見てもらうと一番最初にこのような注意書きが登場します。
「本作品は制作過程において検討を重ねました結果、この問題に迫るために誤解を恐れずあえて過酷な描写をしたシーンがございます。」
「また15歳以下のご鑑賞につきましては、保護者の皆様のご指導、ご配慮を謹んでお願い申し上げます。」
これを読めば分かる通り、誰でも楽しめるような娯楽映画ではまったくありません。
寧ろ人によってはショックが強すぎて観ない方が良いかも知れない、そのくらい人を選ぶ映画です。
だからこそ、観る人は自己責任で観てください、と言うか、この予告編の時点でショックが強すぎる人は、無理に観る必要はありません、そのことを、映画側がはっきり最初に明言しているのです。
そこまで前もって宣言しているのは、映画の予告としては、かなり珍しいのではないかと思います。
では、そうまでして、それでもこの映画を上映するのはどうしてなのか?
公式サイトの紹介文には、こう書いてあります。
「日本のみならず世界的に人権問題として取り組まれている「性暴力被害」(中略)この問題に真っ向から向き合い、人間の尊厳と希望を描くことに挑む。」
つまり、この映画は、性暴力被害という、誰もが目を背けたくなるような、しかし現在も確実に存在する問題を、世の中に提示することを目的としていることが、はっきり明言されているのです。
デリケートな問題である以上、誰でも観てください、とは言えないけれど、でも同時に一人でも多くの人にこの問題を考えて欲しい、そういう問題意識と配慮の複雑なバランスの上で、上映されている映画だと思います。
こんな映画を作って、しかもそんな宣伝の仕方をしたら、もしかしたら興行的には失敗する可能性だってあるのに、それでも、やっぱり届けたい気持ちがあるから、この映画を上映するんだという、そういう非常に強い覚悟で作られた映画なのではないでしょうか。
ですので、僕もこの映画を観る前に、それだけの重い映画を受け止めるぞ!という覚悟で観に行ったのですが…では、実際に観てどうだったのか?
という訳で、ここから感想を書いていきます。
(映画の性質上、映画の目的には賛同するけれど観ることが出来ない、という方も多いかと思いますので、そういう人には僕の感想を読んでもらえば、という気持ちで書いていきます。)
結論から言いますが、この「月光」という映画、超絶大傑作だと思います。
先ほど書いたような、この映画が作られた目的が、こんなにもダイレクトに伝わってきて、観終わったあとはその問題について考えさせられる、同時に人間が持てる希望さえも描く、そしてそれを支える役者さんたちの迫真の演技も本当に素晴らしく、非常に見応えのある映画だったと思います。
前の記事で、1月~3月までに僕が観た映画のランキングを発表しましたが…
「2017年、1月~3月の時点で早くも暫定映画ベスト10は…?」
いや、ここにきて、そのランキングに間違いなく新たにランクインしてくるだけの一本だったと思います。
と言うか寧ろ、2017年の最後に一年を振り返ったランキングを決める際も、まず上位にランクインしてくるような映画になるのではないでしょうか。
もうちょっと詳しく書いていきますが、この映画が全面に押し出している、虐待や性暴力が、こんなにも人を傷付け、苦しめる恐ろしいものであるということが、本当にダイレクトに伝わってくる映画でした。
ただ、予告編の時点で覚悟はしていたとは言え、想像していたより何倍も悲しい映画でした。
この映画には様々な親子や夫婦、複雑な男女関係などがたくさん登場するのですが、登場人物たちが誰一人分かり合えず、生きる居場所を見付けられずにどんどん不幸になっていくのです。
そんな人間たちの間に、本当なら絶対あってはならない暴力と悲しみばかりが描かれる。
映画だと分かっていながら「嘘でしょ…」と言いたくなってしまうほど、信じられないくらい悲しい展開ばかりが登場し、正直観ているのがしんどかったですね…
本当に苦しんでいる人を全力で演じられた役者さんの迫真の演技は「もう、やめて…」と思いたくなるくらい凄まじかったですし、不気味なほど美しい音楽と映像も、人間の無力さ怖ろしさをより一層際立たせる演出も、観ていて常に落ち着かない気持ちにさせられました。
そして、この映画は、「映画」という形態だからこそ、性暴力の恐ろしさがダイレクトに伝わってくる映画になっていて、まさに映画という形で世の中に出して大正解だったんじゃないかと思いました。
と言うのも、例えば性暴力被害などの事件を見聞きする時、どうしても当事者ではない以上、「情報」としてしか受け取れない部分があると思うのです。
しかし、この「月光」のように「作品」にすることで、被害者、加害者それぞれの内面を観客に伝えることで、このような事件の当事者の心境を追体験できると思うのです。
現に、この映画の中でレイプされた主人公がフラッシュバックやノイローゼ、男性恐怖症に陥るシーンでは、自分は男性であるにもかかわらず男性が恐ろしいという主人公に感情移入して悪夢を見ているような気持ちになることが出来ました。(出来ました、っていうのも変な言い方ですが。)
また、僕が恐ろしかったのは、もう一人の主人公、父親から虐待されている少女がいるのですが、彼女にとって暴力の被害者であるという毎日が、異常なものではなく、日常的なものとして描かれていたことです。
虐待の問題を考える際に、どうしてもその体験のない人間は「暴力は恐ろしい」という当たり前の「常識」の上でしか考えられないという問題があるように思うのですが、本当の当事者にとってはその「常識」さえも揺らいでしまっているんだという、なかなか見えづらい問題を、「映画」という形態にすることで形にすることに成功していたと思います。
とは言え、実際に被害を受けた方と、映画を観ただけの自分とでは、心に受けた傷の大きさ、暴力に対する恐怖の度合いはまったく違うに決まっていますが、それでも、少しでもその人の立場に立って考えることは、このような問題に向き合う上でとても大切なことだと思います。
また、先ほども書いたように、当事者の気持ちになって考えることが大切と言われても、まったく知らない人間にとってはただの情報でしかないこともあるし、寧ろその情報でさえ知らずに生きている人も多い中で、このような映画が作られたことはとても大きな意義があるのではないかと。
と言うかもっと言えば、暴力や戦争や死のような、人間が恐れているもの、目を背けたいもの、であると同時に、この世の中に現在進行形で起こっていて、目を背けるべきではないものに対し、人々に目を向けさせ、考えさせる、そのような役割を、映画のような芸術は大昔から担ってきたのではないでしょうか
そう考えると、この「月光」のような世の中に訴えかけるような強い力を持った映画こそ、僕は世の中に必要だと思いますし、この映画を作った方々の願いや志のようなものが、これからも伝わっていくような世の中であってほしいと思います。
だから、「月光」は暴力の生む耐え難い悲しみを痛切に描いてるんだけど、でもそうすることで暴力の被害者たちをこの映画がなんとか救おうともがいているようにさえ、僕は思えました。
出口の見えない絶望ばかりの映画ですが、その中に希望と呼んで言いのか分からないくらいのギリギリの人間の持てる何かが、この映画には確かに存在していたと思いますし、こういう映画が作られたこと自体が、一つの希望なのではないかと思いました。
という訳で、この「月光」という映画、あまりにしんどい内容なので、精神的に弱ってる人や、暴力や虐待をどうしても見ることができない人は、決して無理して観なくてもいい映画だと僕は思いますが、ただ、この世界中で実際に毎日起きてる悲しい出来事にまったく気付こうともせずに生きてるような人達には、一度この映画を見てもらいたいものだとも、僕は思いました。
物凄くショッキングな映画であることは間違いありませんが、でもそのショックの分、「これからのことを自分の頭で考える」という希望に繋がるような映画でもありますので、ちょっとでも観てみようと思った方は、ある程度の覚悟は必要かとは思いますが、観てもらえたらと思います。(そしてその気持ちを発信することも大切な映画なのかと思います。)
以上、映画「月光」の僕なりの感想を書いてきましたが、ここからはそのあとの舞台挨拶の感想を書いていきます!
「月光」の主演女優、新潟出身の佐藤乃莉さんの舞台挨拶がありました!
内容が内容だけに、この映画の主演するのは、佐藤さんも自分の女優人生を賭けてこの映画の撮影に臨んだという、並々ならぬ覚悟があったとのことです。
佐藤さんの女優人生にとっても一番重要な作品になったかも知れないとのことでしたが、そんな作品に出会い、またお話も聞くことが出来て、本当に幸せだなあと思いました。
パンフにサインと、記念撮影までしていただきました!本当にすごい女優さんでした!ありがとうございました!
ちなみに、佐藤乃莉さんのサインの行列に並んでいたら、我が目を疑うほどのイケメンがスタッフをしていたので、思わず話しかけてしまったのですが、佐藤さんの弟さんだった!
モデルをされてるそうです。なんと美しい姉と弟だろうか…
また、「月光」の映画のプロデューサーさんである木滝和幸も来ていて、記念撮影させていただきました!
話してみたら、なんと2年前に観た「ローリング」のプロデューサーでもあった!
と言う訳で、「ローリング」主演で「月光」にも出演している大好きな俳優さんである川瀬陽太さんのエピソード聞けたのが、映画好きとして幸せすぎる体験した!
「ローリング」の打ち上げに、「シン・ゴジラ」の特技監督の樋口監督がやってきたことがきっかけで、「ローリング」の川瀬陽太さんと三浦貴大が「シン・ゴジラ」の記者の役で出演が決定した話が、一番面白かったです。
そして、後日確認してみたところ、佐藤乃莉さんのインスタグラムにシネ・ウインド「月光」舞台挨拶の写真が!
https://www.instagram.com/p/BSXUQ__hxi5/?taken-by=nori_sato_
さらに、佐藤乃莉さんのインスタグラムに、一緒に「月光」を観ていた劇団カタコンベ熊倉さんの写真まで載っているではないか!
https://www.instagram.com/p/BSe4Aa2BJ7M/?taken-by=nori_sato_
熊倉さんおめでとう!
(映画を観た後、あまりに衝撃的な内容すぎて気持ちがまとまらない…というわけで熊倉さんとラーメンを食べに行ったのでした)