舞い上がる。

日々を笑い、日々を愛す。
ちひろBLUESこと熊谷千尋のブログです。

書き下ろし特別短編「続・彼女 NEVER SAY GOODBYE」最終話!

2012-02-17 00:38:12 | 小説
熊谷千尋・書き下ろし特別短編


続・彼女 NEVER SAY GOODBYE」

今夜ついに最終回!!



(この物語は、先日再会した、僕の友人Nの体験談に着想を得て僕が書き下ろしたものです。)




前編である「彼女」はこちらから。
あの時こうしていれば。あの日に戻れれば。あの頃の僕にはもう戻れないよ。


その続編(つまり本作品)の第一話はこちら。
書き下ろし特別短編「彼女」、続編開始。連載小説にはいままでのあらすじが欠かせない。

第二話はこちらから。
書き下ろし特別短編「続・彼女 NEVER SAY GOODBYE」第二話!

第三話はこちらから。
書き下ろし特別短編「続・彼女 NEVER SAY GOODBYE」第三話!

第四話はこちらから。
書き下ろし特別短編「続・彼女 NEVER SAY GOODBYE」第四話!

第五話はこちらから。
書き下ろし特別短編「続・彼女 NEVER SAY GOODBYE」第五話!

第六話はこちらから。
書き下ろし特別短編「続・彼女 NEVER SAY GOODBYE」第六話!



最後までお楽しみ下さい……





廊下もロビーも、結婚式への出席者で溢れている。
その人ごみの中を、彼女を探しながら僕は走った。

けれど、どこにも彼女の姿は見えない。
まさか、もう帰ってしまったんだろうか。

そう思いながら走っていると、ついに式場の玄関から外に出てしまった。
道路を挟んだ向かい側に駐車場がある。

その道路の手前に、彼女はいた。
子供を抱いたまま、道路を見ている。

何を話せばいいのだろう、という不安は未だにあった。
けれど、今は自分の心が正しいと思ったことをするまでだ。



僕「待って!」



彼女が振り向く。



彼女「Nくん!」



三年振りの会話だった。



彼女「司会、お疲れ様。すごく上手くてびっくりしたよ」



彼女は、三年前のあの気まずい会話が嘘だったかのように、さわやかに話しかけてくる。



彼女「アメリカ行ったんだって?すごいね。元気そうで安心したよ。向こうは楽しい?」

僕「ああ、そうだね。楽しいよ。どう、日本での生活は」

彼女「まあ、この子が生まれてからは毎日大変だけど、でも楽しくやってるよ」

僕「そっか、良かった。今日はもう帰るの?」

彼女「うん。さすがにこの子連れては行けないからね。夫は、行って来いって言ってくれたんだけどね、でもやっぱり心配だから」

僕「そっか」



大事なことを、僕は言わなきゃいけない。



僕「あのさ、三年前のこと、覚えてる?」

彼女「え?」

僕「あの時は、ゴメン。結婚するって電話くれたのに、何か色々突き放すようなこと言って」

彼女「ああ、いいのに、そんなこともう」

僕「いや、あれからずっと悪いことしちゃったなって、ずっと気がかりで。だから、」

彼女「あっ!」



ふと彼女が声を上げる。
見ると、駐車場から、彼女の夫が運転した車が出てきた。



彼女「ゴメン!私もう行かないと!」



走り出す彼女。



僕「え?あ、ちょっと!」



彼女が走り出したことで、腕の中で寝ていた子供が泣き出す。
彼女は子供をあやしながら、車の横まで走っていき、ドアを開ける。



彼女「それじゃ、今日はありがとう」

僕「あのさ!」



僕は、ありったけの声で言った。
車に乗りかけていた彼女が振り返る。



僕「結婚おめでとう!」

彼女「え?」

僕「結婚!おめでとう!」

彼女「あ、ありがとう。どうしたの?」

僕「おめでとう!本当これからも幸せになれよ!」

彼女「……ありがと。Nくんも元気でね」



そう言い残すと、彼女の乗った車は走り去って行った。
一人立ち尽くしながら、僕は車が小さくなるまで見送った。

ジョン、ちゃんと言えたよ。
僕は心の中でつぶやいた。



その後、僕は二次会・三次会に出席してそのまま京都駅前のホテルに一泊した。
その翌日に実家に一泊すると、僕は再びロサンゼルス行きの飛行機に乗った。

今日はラジオの収録日だ。
マイクに向かい、いつものように僕はトークをする。



僕「みんな聞いてるかい?突然だけど、僕はこの前、故郷である日本に行ってきた。僕の大切な親友が結婚式を挙げることになったんだ。僕は彼と会ったことで多くのものを得たし、どれも大切な思い出だ。友人の結婚式に行ったこと、気付かされたことがある。それは、人の出会いの大切さだ。今まで僕は多くの人に出会ってきたし、これからも多くの出会いがあるだろう。もちろん、その分つらい別れもあるだろうが、それでも僕は、人との出会いを大切にしたい」



話しながら、まるで僕はあの日の映像の中のジョンみたいだな、と思った。
かけたのは、もちろんあの曲だ。



僕「今日はそんな気持ちにぴったりの曲を聴いてもらおうと思う。僕も好きな曲だ。ジョン・ボン・ジョヴィで、『NEVER SAY GOODBYE』」



遠く離れた日本で、Tは新しい人生を歩み出している。
そして彼女は、僕の手の届かない場所で、家族という幸せを築き上げている。

この電波が彼らに届くことはない。
けれども僕は、どこかでラジオを聴いている知らない誰かに向けて、そして自分自身のために、これからもマイクに向かってしゃべり続ける。



Never say goodbye Never say goodbye
(さよならを言わないで さよならを言わないで)

You and me and my old friends
(お前と俺 そして俺の良き友に)

Hoping it would never end
(決して終わりの無いことを祈って)

Never say goodbye Never say goodbye
(さよならを言わないで さよならを言わないで)

Holdin' on we got to try
(頑張っていこう 頑張らなければ)

Holdin' on to never say goodbye
(さよならを言わないために)





コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 書き下ろし特別短編「続・彼... | トップ | 夢のENDは鳴りやまないっ! »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
堂々完結! (批評家気取りの七色仮面)
2012-02-19 13:55:53
いやぁ、おつかれさま!
全編を貫く読後の爽快感は素晴らしいの一言だな。
さて、なぜ俺が頑なに最後までコメントするのを拒んだのかというと、

それについてある俳優の話をしよう。

彼は極貧生活の中、俳優の仕事もなく、仕方なしにポルノに出演したことすらあった。
しかし彼はそんな自分をモデルに脚本を手掛け、映画化された際には主演をつとめた。
出来上がった映画は彼の全てだった。賭けだった。

満を持して批評家達向けの試写会に臨んだが、得られたのは喝采ではなかった。

一人として感想をのべることなく黙々と帰る客がはけた後、彼は一人落胆した。
「あぁ、これでもダメだったのか。」
帰ろうと劇場の扉を彼が開けた途端、

万雷の拍手だった。
すべての観客が彼を迎えた。
批評家達の小粋なイタズラにやっと彼は笑うことができた。

その後、公開された彼の主演作「ロッキー」は、今もシルベスター・スタローンの代表作として人々に知られている
返信する
アメリカンドリーム (ローメン)
2012-02-20 00:34:14
>七色仮面

そうか、シルベスター・スタローンにも長い苦労の歴史があったんだな……

それにしても、最後までご愛読いただきまして誠にありがとうございます。
いやー、書き始めるとなんとか書けちゃうもんだなー。

最後にどうしてもいいたいんだけど、このタイトルにも使われているしエンディングにもなっている、BON JOVIの「NEVER SAY GOODBYE」
この曲のサビの歌詞が、この物語の内容と完全にリンクしている!
元々Nがこの曲好きで使って欲しいって言われたんだけど、後で歌詞カード見て、本気でびっくりした。
返信する
連載お疲れ様でした。 (自由)
2012-02-20 03:50:18
物語を最後まで読み終えると、なにかがほどけるような感覚になりました。
不思議な体験でした。多分カタルシスです。

Nさんと彼女の人生が交錯することはもうないかもしれません。
けれど、お互いがいた時間をどこかに抱えてそれぞれに歩いていく。それはきっと、さよならではないのですね。

さらっとNさんの背中を押したTさん、なにげにかっこよすぎると思いました。いいやつだなあ。

そして、約1週間、毎日連載し続けた文章力と気力を尊敬します。連載お疲れ様でした。
コメント欄を汚してごめんなさい。尿漏れにも効果があるんですよ。ごきげんよう。
返信する
私がしずかちゃんのパパだ! (ローメン)
2012-02-22 23:17:08
>自由さん

感想ありがとうございます!
カタルシスを感じてもらえるとは思ってなかったんで嬉しいです。
実際はそこまで考えて書いたわけではありませんが、個人的にもすごく気に入ってる話です。

書き終わってから気付いたんですけど、さらっと背中を押したTくんの他にも、Tくんと結婚した奥さん、ラジオ局のスティーブ、バーのマスター、ジョン・ボン・ジョヴィ、彼女とその夫、誰ひとり欠けても、Nくんの物語は成立しないんです。
そういう人達との出会いが、Nくんを作っている、だからさよならじゃないんですよ。
返信する

小説」カテゴリの最新記事