もう去年の話になりますが、2016年12月28日に、新潟演劇人トーーク!にて、「年末特別公開放送」を行いました。
この放送の中では、ちひろともみぢが2016年に観た映画と演劇を振り返って、それぞれランキングを決めるという企画を行いました。
こちらからご覧ください。
「新潟演劇人トーーク!年末特別公開放送を行いました!ちひろともみぢの映画&演劇ランキングを発表!」
一体誰がこんな放送見てるんだ!?っていう放送にもかかわらず、ちひろともみぢが無駄に映画と演劇のランキングを悩んで発表しています。
USTRAMのアーカイブはやがて消えてしまうわけですが、せっかくこんなに頑張って考えたランキングなのだから、ブログにもちゃんと記録を残しておこうと思います!
ちなみに、ちひろが2016年に観た映画と舞台の一覧はこちらです!
「2016年にちひろが観た舞台&映画一覧を公開します。」
そして、2016年に観た映画のランキングはこちらです。
「ちひろの2016年映画ベスト10まとめました。」
という訳で、いよいよちひろの2016年演劇ベスト10を発表していこうと思います!
演劇だけでなく、コント・ダンスなどを合わせた舞台作品を、2016年は合計72作品も観ていました!
おそらく過去最多かと思われるのですが、あまりに多いので、ベスト10しか発表しないのは勿体ない!
という訳で、2016年の演劇ベスト10とは、「新潟県外編」「新潟県内編」に分けて発表することにしました。
新潟県外/県内の境界線はどうするか、ということはもみぢと協議した結果こうなりました。
新潟県内の定義を「新潟の団体または個人が中心となって、新潟の出演者が舞台作りにちゃんと関わってて、新潟県内で上演された作品」とし、それ以外のものを新潟県外の作品とすることにしました。
例えば、ダンス公演「光の部屋」は県外の平原慎太郎さんが演出しているけれど新潟のゆっぺさんが主体となって企画していて新潟の出演者もちゃんと活躍しているので新潟県内編に入れます。
また、例えばDULL-COLORED POPの「演劇」は新潟で公演していて新潟から大井南さんも出演してちゃんと活躍しているけど、主体はあくまで東京のDULL-COLORED POPという劇団および谷賢一さんである、となります。
まあ、そこらへんの判断基準はややこしいしツッコミどころもあるかも知れませんが、ちひろともみぢの中ではそういうことになったので、よろしくお願いします!
いう訳で、ここまでが長い前置きなので、いよいよ本編に入っていきましょう!
はい、ここからいよいよ、ちひろの2016年演劇ベスト10(新潟県外編)を始めていこうと思います!
写真はチラシを持ってるものだけ並べてみたのですが、観たものはこれ以外にもあります。
ちなみに、ちひろが2016年に観た新潟県外の舞台は、全部で28作品でした!
その中で何がランクインするのか、それでは発表していきます!
第7位(同率4作品)
Ammo「僕たちは他人の祈りについてどれだけ誠実でいられるか(仮)」より、
男たちの戦い編『殉教者』『ウサマ・ビンラディン・フットボールクラブ』、
女たちの祈り編『六月の長い夜』『兄はイスラム原理主義者になった』
はい、いきなり10位から7位まで4作品が同率でランクインというややこしいことになっておりますが、説明しておきます。
これはですね、Ammo「僕たちは他人の祈りについてどれだけ誠実でいられるか(仮)」という公演は、見る回によって「男たちの戦い編」と「女たちの祈り編」に分かれていて、それぞれ異なる作品を2作品ずつ上演していたので、両方観ると全部で4作品を観られることになっていたのです。
で、僕はこの4作品をすべて観劇し、この「僕たちは他人の祈りについてどれだけ誠実でいられるか(仮)」」という公演は、4作品すべて観劇することで完成するものだと思えたので、どれか一つを特別に評価するというよりは、すべて同率で評価したい、と思ったから、このようなランキングになりました。
この「僕たちは他人の祈りについてどれだけ誠実でいられるか(仮)」は、イスラム文化圏で生きる人間たちを描いた演劇なのですが、この4作品が「異文化とは」「思想とは」と言ったテーマをそれぞれ異なる角度から描いていて、それらのテーマを補完し合って表現していると思えたのです。
男たちの戦い編の『殉教者』は、どう見ても危険思想なんて持つとは思えない真面目で敬虔なイスラム教徒が異なる文化に触れた時に最初は感動していたもののその裏の面を知って失望し、やがてその思想が少しずつ危険な方向へと変化してしまうという様子を、のちに起こるであろうとんでもない悲劇をにおわせながら進行していく恐ろしい物語で、観ながらどうしてだよ!と悲しい気持ちになりながらも、しかしこれはこの世界で起こっている現実でもあるんだなあと、僕は心に深い傷を負ってしまったのですが、こうして現実に存在する痛みをしっかりと伝えることは、演劇、もっと言えば芸術は、世の中に対して何かを訴えかける力をちゃんと持っているんだと再認識しました。
そして、この『殉教者』は、言ってみれば4作品の発端となる位置づけにもなっていて、次に続く『ウサマ・ビンラディン・フットボールクラブ』ではその数年後が描かれるのですが、本当に真面目な、そして本来平和なものであるはずの「スポーツ」に打ち込んでいた若者たちが、やがてその思想がテロの思想へと変化していく悲劇を描き、やがてそれが我々もよく知るニューヨーク同時多発テロの惨劇へと繋がっていってしまうという、本当にショックの大きい物語でした。
しかし、この「男たちの戦い編」の2作品は、徹底して、もしかしたら我々日本人にとっては報道で知るだけの、海の向こうに存在するただの危険な存在でしかなかったテロというものを、徹底してその加害者側からを描いていて、そこを考えることなく、真に平和を考えることはできないのではないかと思い知らされました。
そして、次に見た「女たちの祈り編」では、また少し視点が変わり、最初の『六月の長い夜』では、ある夫婦の会話劇で、頑なにイスラム原理主義を信じる夫に対して、妻はそれ以外にも人間はもっと広い考えを持つことは出来ると言葉をかけるのですが、その夫の思想の揺らぎを表現していて、シーンによって夫の心境が変化するのに合わせて、観ている自分の気持ちも大きく揺さぶられました。
妻は夫に対して、人間の持つ想像力の力を説くのですが、これは人間の想像力から生まれる演劇の力を、この演劇を作った人達が信じている証拠でもあるなと僕は思いまし
そして最後の『兄はイスラム原理主義者になった』は、言わばこの4作品の集大成とも言える作品だと思いました、と言うのも、一つの演劇の中に、ある思想を信仰する者、信仰し始めている者、それに賛同する者や戸惑う者、戸惑いながらもすべてを見守る者と、これまでで最も多くの立場の人間が描かれ、この4作品が描いてきた「異文化に対して視点を増やすこと」の重要さが、この作品に詰まっているように思えたのです。
しかも、この作品だけが他の作品と異なるのは、この作品だけは舞台がイギリスという非イスラム文化圏が舞台になっていて、しかも、もともとイスラム教徒ではなかった人間がイスラム教徒になっていくという様子を描いていたので、これまでの作品に比べて非イスラム文化に生きる自分にとっては最も身近な作品に思えました。
このように、4作品を順番に見ていくことによって、それまで知らなかった異文化に対して徐々に考え方の視点が増え、そして徐々に自分にとってそれが地続きになっていく、という素晴らしい公演だったので、やっぱりこの4作品はどれ一つ欠けることなく評価していと思ったので、このようにすべて同率でランクインさせることにしました。(そして、「男たちの戦い編」から「女たちの祈り編」という順番で観られて正解だったなあと思いました)
この公演は、イスラム教徒を中心に描いていますが、この公演をすべて見ると、この演劇が伝えようとしているのは、それだけにとどまらず、もっと広く、異なる思想、文化を持った人間たちが互いに理解を深めて生きていくためにはどうすればいいのか、という普遍的なテーマを扱っているように思えました。
そのために、視点を増やすこと、想像力を働かせること、そして他人事ではなく自分と地続きの問題として考えることがいかに大切か、そして、そのために演劇が出来ることとは何なのか、ということは、「新潟演劇人トーーク!」の相方のもんちゃんと僕がいつも話していることです。
もともと大原研二さんが新潟で上演した一人芝居だけは一年前に新潟で上演されていたのですが、僕は観に行くことが出来ずに残念だったところ、もんちゃんが作・演出の南慎介さんと知り合いになっていたことから、大原さんが新潟に来た際に新潟演劇人トーーク!に出演していただき、その縁もあってもんちゃんと二人で東京まで観劇に行ったという思い出深い公演でもあります。
はい、しょっぱなから4作品の感想をまとめて書いたので、随分長くなってしまいましたが、これからはもっとコンパクトに書いていこうと思います・・・
第6位
レティクル東京座『昴のテルミニロ-ド』
続きまして、第6位は僕が愛してやまないレティクル東京座です。何しろ、去年の一位はレティクル東京座の『幕末緞帳イコノクラッシュ!』だったくらいですから。
僕がレティクル東京座が好きなのは、脚本演出役者音楽衣装大道具小道具から関係者の皆さんの日々のツイート一つ一つに至るまで、本当にどれを取っても「自分たちが心の底から好きなこと、やりたいことを、全力で楽しんでやりきっている!」ことに尽きます。
そのため、観劇時に伝わってくる多幸感が尋常ではなく、僕は本当にいい演劇を観ると「ああこの人たちと友達になりたいなあ」という気持ちになるのですが、それどころかレティクル東京座は観た瞬間友達になっているというか、大好きな友達が一生懸命輝いている姿を見て、ああ、幸せだなあ…と思っているような気持ちになるのです。
そして、あまりにもやりたい放題やり過ぎるので、正直ちょっと「それやり過ぎだろ!」と心の中でツッコミを入れたくなるシーンが、一分に一回くらい訪れる劇団でもあるのですが、レティクル東京座に関して言えば、寧ろそれが許せるというか、それどころか大歓迎!という、「細かいことはいいんだよ!」「いいぞ!もっとやれ!」と思ってしまう、とても魅力的な劇団です。
そんなレティクル東京座なのですが、この『昴のテルミニロード』のすごいころは、それまでのレティクル東京座が得意としていた「やり過ぎネタ・ギャグ演出」を必要最小限にまで封印し、「誰が観ても感動しうる超ドストレートに正統派の演劇」を作ってしまったことで、正直これには度肝を抜かれました。
北欧神話をベースにしていたことが勝因なのかもしれませんが、それでも、「心から信頼していた人と戦わなければいけなくなる」という、もう超普遍的な悲劇の代名詞みたいな物語を、よくもまああのレティクル東京座がここまで見事に描き切ったなと思い、そしてそれは同時に「俺たち、今まではネタに走ってバカみたいな盛り上げ方してたけど、そんなんなくたって超面白い演劇だって全然作れるし!」という挑戦のようにも思えました。
さらに素晴らしいのは、そこまで今までより何倍も正統派に完成度が高い演劇を作っておきながら、それでも今までのレティクル東京座にあった「やりたいことをやりたい放題やりまくる!」という魅力はちっとも衰えておらず、それどころかパワーアップしていたと思うのです。
まあ、今までファンだった劇団が急にこんなすごい作品を作ってきたから評価が上がった、っていうのも、正直ありますけどね、ほら、ずっとふざけていた友達から本当にいいこと言われると、なんかこう必要以上にぐっときてしまう、みたいなこと、あるじゃないですか・・・
とは言え、もしも自分が初見だったとしても、しっかり圧倒されたと思うし、今後も多くの人に見てもらいたいなあと、ずっと応援していきたい劇団です。
第5位
テアトル・ド・アナール『従軍中のウィトゲンシュタインが(略)』
正式なタイトルは、『従軍中の若き哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインがブルシーロフ攻勢の夜に弾丸の雨降り注ぐ哨戒塔の上で辿り着いた最後の一行“──およそ語り得るものについては明晰に語られ得る/しかし語り得ぬことについて人は沈黙せねばならない”という言葉により何を殺し何を生きようと祈ったのか? という語り得ずただ示されるのみの事実にまつわる物語』という超長いものです。
まずこの演劇は最初から最後まで、「演劇を観ること」の魅力、即ち、「今、目の前で生きている人が、すごいことをやっている、ことのすごさ」そして「それを自分が観ることで頭の中に演劇以上の想像力が広がっていく素晴らしさ」にあふれていたと思います。
例えば、オープニングであの長いタイトルを一言一言丁寧に読み上げられることによって、よく意味が分からなかったタイトルの内容が少しずつ僕の頭に入ってきたり、かと思えば突然シリアスな雰囲気になった中で静かにマッチをすってランプに火を点けて素直にその演技に「すげえ!」って思うことで演劇に引き込まれたり、実際にオルゴールを舞台上で鳴らしてそれに耳をそばだててしまったりと、今、目の前で起こっていることによって、視覚・聴覚だけではなく、例えばマッチの燃えるにおいのような嗅覚にまでも訴えかけてくることで、どんどん引き込まれていくような演劇でした。
それだけでも十分にすごいことなのですが、それ以上に僕が感動したのが、すごいところ二つ目の「想像力を掻き立てる」力です。
この物語は、戦争中に塹壕の中で兵士たちが作戦会議をするシーンがあるのですが、その中で体調が食料のパンやソーセージや灰皿を並べて、今自分たちがいる戦況を再現するというシーンがあり、正直ここは笑えるシーンなのですが、これを見た主人公の哲学者ウィトゲンシュタインは、あるとんでもない発見をします。
それは、実際にはそこに山や川や戦場があるわけではないテーブルの上の食料や灰皿を、地図に見立てることで頭の中に自分が実際に見ているわけではない風景が広がるように、人間の想像力は自分が実際に体験できないことまでも無限に頭の中に作り出すことが出来るのではないか、という衝撃的な発見です。
そして、そのウィトゲンシュタインの発見は、そのまま観ている自分の感動とそのシーンで完璧にリンクし、「そうかだから人間の想像力はすごいのか!」という衝撃が、まるで初めて人間に想像力というものがあることを知ったかのように伝わってくるのです。
そして、その後に、そんな人間の想像力の素晴らしさを更に激しく見せつけられるシーンがあり、そこでは戦場から遠く離れていて会えないはずの親友に、ウィトゲンシュタインが想像力の中でなら出会える、というシーンが、実際に本当に二人が出会っているかのように感動的に表現されるのです。
そのシーンでは、それまでは暗く重苦しい戦場のように表現されていた照明が突然明るくなり、まるで舞台が広い宇宙のように光り輝き、戦場という死と隣り合わせのつらく重苦しい現実でも、人間の想像力は無限の宇宙を思い描けることの幸せを感じることが出来るんだなあ、ということを、強烈に思い知らされ、正直泣きました。
しかも、よく考えたらこれは演劇で戦場も宇宙も作りもので、もっと言えば親友の役をやっているのは一人二役でさっきまで嫌な兵隊を演じていた役者さんのはずなのに、僕は今この瞬間に僕の頭の中にすごい感動的な想像力の世界を思い描けているのか…という、自分の実体験を伴って伝わってくるので、なおのこと感動が大きくなりました。
さらに言うと、想像力はプラスの側面だけではなくマイナスの側面もあることも描いていて、実際に戦闘が始まるシーンでは照明が全て落ちた完全暗転になり、音と台詞だけのシーンになるのですが、そこではまさに自分の想像力によって恐怖が膨れ上がってしまうんだなあと実感もしました。
という訳で、これこそ映像や文章ではなく、演劇で実際にそこにいる人を見るという、そして実際に見てもなおそれ以上に我々の想像力は広がってしまうという、演劇で伝えられることの、ある意味限界を見せ付けられたかのような、衝撃的な作品でした。
第4位
BLUES『GROOVIN'!GROOVIN'!GROOVI'!』
ここでまさかのBLUES!まさかの自分の所属団体!しかも自分も出演している!というのに、4位にランクインです。
断言しますが、この演劇は間違いなく、ここにランクインしているどの作品よりも下らなく、テーマもメッセージも何一つ存在しません!
世の中には芸術の存在価値の限界を追い求めているような、最先端の素晴らしい演劇もたくさん存在しますが、この演劇はまず間違いなく、ただの悪ふざけの極みでしかない作品であることは間違いないでしょう!
集客、知名度、評価、どこをとっても最底辺です!
しかし、それが何だと言うのでしょうか!俺はBLUESが好きだ!心から愛している!そしてこれは俺のランキングだ!『GROOVIN'!GROOVIN'!GROOVI'!』という演劇が俺は本当に大好きなんだ!
という訳で熱い気持ちで感想を書いていきますが、まずこの『GROOVIN'!GROOVIN'!GROOVI'!』という作品、一つの舞台にかけた大道具、小道具、そしてギャグなどの規模やクオリティから言ったら、まず間違いなく、過去最高の出来だと思います。
また、会場がここ数年ずっと使ってきた「上土ふれあいホール」や「信濃ギャラリー」ではなく、さらに大きな「ピカデリーホール」という会場になっていて、その時点で今まで以上に気合いの入った公演であることが分かります。
BLUESがピカデリーホールで公演を行うことは、5年以上前に3回、自分が出演したのは2回あるのですが、当時は正直、自分たちの活動の規模よりも大きな会場を少し持て余してしまったというか、会場の広さにちょっと負けてしまったというか、自分たちの身の丈に合わない大きな夢を見過ぎたのかも知れないなあ・・・と正直思う部分があったのですが・・・今回はやってくれた!こんなに大きい会場でこれだけBLUESの面白さ、魅力、完成度、勢いを発揮できた公演は、本当に初めてだと思います!よくぞBLUESここまで来たよ!
さらに、大道具では二階建てのセットを組んだり、セットの壁から巨大なエイリアンが出現したり、排気口にエイリアンが吸い込まれていくというダイナミックな展開もあり、最後にはなんと波動砲まで発射されるという、本当に過去数年間の経験のすべてを注ぎ込んだかのよう大規模で完成度の高い仕上がりです。
そしてですね、ここが本当に僕がこの公演の大好きなところなんですが、そんな過去最大級の会場とセットと手間と時間を使って作り上げたのが、今までのBLUESのどんな作品よりも下らない、メッセージも何もない、2時間弱の上演時間をひたすらふざけまくるだけの超絶バカの極みみたいな演劇だったんですよ。本当にさあ・・・バカじゃねえの!って、褒めてる!褒めてるよ!最高だよ!
なんでここに本当にこんなに感動しているかというと、そもそも自分が演劇を始めた理由、そして続けてきた理由というのは、ただ単純に「楽しかったから」であり、そしてBLUESは常にそれを貫き続けているからなんです。
演劇ってたくさんあるけど、要するに演劇の一番の根本ってそこにあると思うし、どこまで言っても演劇は「遊び」に過ぎない、だったらいつまでも全力で遊び続けようという気持ちは、僕がずっと思っていることだし、確かにBLUESは規模も知名度も評価も大したことない地方の小劇団かも知れないけど、でもBLUESにいるとその演劇的な幸せはいつも強く感じるし、この全身全霊をかけて遊ぶことっていうのは、本当に演劇の最も純粋で原初的な体験なのではないでしょうか!
という、自分が演劇が好きで、BLUESがこれからもずっと好きだというとても大切な気持ちを再確認できたという時点で、本当に自分にとっては大切な作品なのです。
あとやっぱり、ダンシエンゲキ集団であるところのBLUESの魅力、すなわち「男の子の夢」を全力でやっていることが素晴らしいですよね。悪いエイリアンをやっつけて宇宙を大冒険するなんて本当に最高です。
しかも、登場人物がいつもふざけてるバカばっかりなんですが、あれ本当に、普段の俺たちが遊んでるところと全然変わりないです。そんなボンクラどもが、男の子の夢をかなえていくなんて、最高すぎませんか?
例えばラストで波動砲を発射するシーンがあるのですが、あれは戦争で人を殺すための兵器ではなく、あくまでの「男の子の夢」なんですよね。それが本当に素晴らしい!「波動砲、発射!」って最高に恰好いいじゃん?ってだけの理由でぶっぱなしちゃうんですよね。バカだなあーって。もう、最高です。
ちなみに補足しておきまと、いくらなんでも波動砲はやり過ぎなんじゃ・・・と正直思ってしまった部分もなくはないのですが、それに対して代表おもケンの見解は「大丈夫、ギャグ漫画の世界では人は死なない」だそうです。なるほど!
第3位
劇団石(トル) 一人芝居『在日バイタルチェック』
この作品は、在日韓国人である女性が、老人ホームでバイタルチェックを受けながら、自分の身の上を語りだす、それに合わせて、その女性の幼少期から現在に至るまでが演劇として次々と表現されていく、というものです。
そして、この作品は、きむ・きがんさんという、実際に在日韓国人である女優さんの一人芝居で、全てのシーン、全ての登場人物を、きむさんが演じます。
感想は色々ありますが、まずこのきむさんという方が、本当に素晴らしい!圧倒的に素晴らしい!2016年で印象的だった役者を一人挙げろと言われたら、僕は間違いなくこのきむさんを挙げます。
主人公の女性が過ごしてきた様々な出来事を演じながら、もう面白いシーンでは心から大爆笑、悲しいシーンでは大号泣と、きむさんの演技に感動揺さぶられまくりでした。
また、演技だけではなく、この演劇はきむさんが観客に直接絡んでくるという仕掛けが随所に散りばめられ、例えば一緒に舞台上に引きずり出して踊ったり、観客にマッコリを振る舞ったり、果ては観客の着ている服や財布の中の1000円札を要求して舞台の小道具として使いだす始末です!(大丈夫、ちゃんと最後に返していました。)
そんな芸人顔負けの強烈な面白オバちゃんきむさんなのですが、笑って泣いて最後に演劇から伝わってくるものは、在日韓国人として日本で生きてきた人の決して簡単には片付けることの出来ない現実であり、そしてそんな現実を生き抜いてきた一人の女性の生きる強さという、とんでもなく深く大きなテーマがそこに広がっているのです。
そういう、どこから考えていけばいいのか分からないような難しいテーマを、こうして喜怒哀楽が揺さぶられる演劇で伝えていることが、本当に素晴らしいと思うし、実際きむさんは、そういう現実を伝えるために、自らの体験を使って、この演劇を全国で上演しているらしいのです。
そして、その試みは、少なくともあの演劇を観た人にとっては、大成功しているのではないでしょうか。何故なら、あの演劇を観た人なら、まず間違いなく、みんなきむさんが好きになってしまうと思うからです。
演劇によって世の中に何か現実の問題を伝えるときに、その問題が「地続きであること」を伝えることは本当に大切だと思いますが、「好きになること」は、更にその先にあるものなのではないでしょうか。
言い換えればそれは希望とも言えると思います。実際に存在している過酷な現実があり、そんな現実と地続きな世界で生きていくために、それでも人は人を「好きになること」が出来るというのは、素晴らしい希望だと思います。
全国を回って公演している作品らしいですが、是非多くの方に見ていただきたい、そしてあの演劇を、きむさんを、好きになっていただきたい!と強く思います。
第2位
劇団どくんご『愛より速く』
えっと、このベスト10の中で、最も説明に困る作品・・・というのも、他の作品と違って、この演劇には分かりやすいストーリーもテーマもおそらく存在しないからです。
どくんごという劇団はテント芝居で全国を回っている劇団で、以前から気になっていたのですが、初めて観に行くことが出来ました。
実際に会場に行くと、なんだか面白そうな恰好をしている出演者さんたちが温かく迎え入れてくれて、その時点で、あ、この演劇面白そう!って思いました。
そして、いざ公演が始まってみると・・・あれは、一体何なのでしょう!? よく分からない短編集、というか、面白い何かのワンシーンっぽいもの、人形劇っぽいもの、シュールなコント、一発ネタ、ダンス、歌、突然始まるゲームにまさかのお料理など、ありとあらゆる謎のシーンが、脈絡もなく次から次へと襲ってくるのです!こうして書くと、まったく面白さが伝わらないですね・・・
でですね、確かに、一つ一つのシーンにはストーリーはあってないようなものではあるのですが、登場する役者さんは、明らかにすべてのシーンを全力で楽しんで演じており、そしてこれは後で分かったことなんですが、どくんごという劇団は、このように「面白いもの」のアイディアをみんなで出し合い、それを次々と具現化していく、という演劇の作り方をずっと続けている劇団だそうです。
さらに素晴らしいのは、そんなよく分からない謎のシーンではありますが、一つ一つのシーンで、衣装や小道具、セット、背景に掲げられる大きな絵などが、どれもこれも手作りでこだわり抜いて作られているのが感じられるのです。
しかも、それらのセットや小道具から感じられる手作り感が、本当に楽しさに溢れていて、まるでそのセットや小道具を作っている人が作りながら感じていた楽しさまでも、舞台上から伝わってくるようなのです。
全力で面白いと思ったものを、全力で舞台化していくこと、もっと言えば、創作の楽しさにひたすら溢れていた公演で、しかもテント芝居だから、自分がまるでそんな幸せの中に生きていると感じられるという、本当に多幸感に溢れた時間で、2時間という上演時間があっという間でした。
最初に、ストーリーが存在しないと言いましたが、この公演に関しては、寧ろそのストーリーの無さがプラスに働いていたと思います。何故なら、分かりやすいストーリーがなくたって、人間が全力で楽しんで作り上げたものは、人を感動させる力を持っている、ということが、この公演によってはっきり分かったからです。
BLUESの感想の時に、僕は全力で楽しむものこそが演劇の醍醐味だって書きましたが、それを究極までやり続けていけば、一つの芸術にさえも到達できるということを教えてくれたような、自分の人生にとって本当に大切な作品です。
この作品に出会えたことが嬉し過ぎて、長岡での上演だったのですが、そこからの帰り道は車の中で思わず歌ってしまいました。
第1位
アート企画陽だまり『空の村号』
栄えある第一位は、アート企画陽だまりさんの、『空の村号』でした!おめでとうございます!
これ、2016年の最初に観た演劇なんですけど、今まで演劇にこんなに感動しのは初めてだ!ってくらい感動してしまいまして、そしてそのまま2016年の1位になってしまいました。
どういう演劇かと言うと、まず空くんという小学生の男の子が主人公なのですが、彼は映画監督を夢見ています。
彼は福島の田舎で乳牛を飼育している家族と暮らしているのですが、ある日震災が発生し、何が何だか分からないうちに、空くんの家族は震災に巻き込まれていきます。
そんなある日、空くんの村に映画監督がやってきて、空くんは憧れの映画監督に出会える!と言って会いに行って仲良くなるのですが、その人は震災の現実を伝えるためにやってきたドキュメンタリー監督でした。
そして、なんでこんな悲しい映画を撮らなきゃいけないんだ!と言って、もっと夢に溢れたSFの冒険の映画を作るんだ!と言い出し、仲間たちと撮りはじめた映画の内容が、そのまま演劇になっていきます。
まず、前半では、震災とそれによって起こってしまう悲しい現実の理不尽さが、子供の目を通すことで、まるで自分のことであるかのように、ダイレクトに伝わってきます。何故なら、震災について自分だって本当は真実は何も分かっていないし、子供と変わりないじゃないか、と思ってしまうからです。
そして、後半の空くんの映画パートは、本当に超面白くて、ゲラゲラ笑ってしまうんですけど、同時に、空くんがこの映画を作った理由を考えると、同時に本当に切ないシーンなのです。
映画では、放射能除去装置を宇宙の果てに取りに行くぞ!っていう、まんま宇宙戦艦ヤマトのパロディの展開が登場し、最後には震災や原発事故を起こした悪の親玉が登場し、空くんたちがそれをやっつけるという展開はガンダムっぽかったりして、そのたびに笑っちゃうんですけど、同時に、こうして映画の世界で空くんがこんなご都合主義の空想の楽しい物語を作ったのは、その反対側に、どうすることも出来ない現実があるからなんだよなあ・・・ということが伝わってきて、空くんの映画が楽しければ楽しいほど、それに比例して重い現実の切なさものしかかってくるという見事な作りになっていて、僕はこのシーン、爆笑しながら号泣するという初めての体験をしました。
もっと言うと、この「現実ではどうしようもないことを空想の世界で叶える」というのは、演劇という、もっと言えば、すべてのフィクション、物語が持っている力でもあり、そして、現実逃避に過ぎないけれど、でもフィクションの世界くらい夢があったっていいじゃないか、とか、それでもどんな作品であっても現実を生きる作り手の気持ちは伝わってしまう、とか、そんな作品によって演劇は世の中に訴えかける力を持っているんじゃないか、とか、そんな自分が演劇に対して感じていたあらゆる気持ちが、この「空の村号」という作品には詰まっています。
そして、そんなあらゆる読み取り方が出来る深い作品でもありながら、ちゃんと娯楽作品として心の底から楽しめる作品でもあり、見終わったら、本当に大好きになってしまった作品です・
最後に、僕がこの演劇を観た後でロビーでこの演劇を新潟で上演したおやこ劇場の方に挨拶をしたときに教えてもらった裏話があるのですが、それがまた演劇と同じくらい感動的だったので、その話をしたいと思います。
そもそもこの演劇は震災をテーマに扱っているものなんですが、震災が起こった直後に、どうしてもこの現実を演劇にして子供たちに伝えていかなければならない!という気持ちで、かなり突貫工事で作られたのが、この「空の村号」だったそうです。
そして、いち早くこの演劇を子供たちに届けなければいけない!という気持ちから、稽古時間さえも短縮するために、朗読劇という形になったそうです。
こうして生まれた作品が、日本の子供向けの演劇を上演する大会に出場したものの、賞を取ることは出来なかったらしいのですが、それを観ていたおやこ劇場の方が、これは是非とも多くの方に見てもらうべき作品だ!と感動し、それで普段はおやこ劇場会員限定で上演していたところを、この作品だけは特別に誰でも観劇できるシステムに変更して、新潟で上演してくれたらしいです。
そんな数々の人の努力と熱い想いによって、あの演劇が多くの人に伝わり、自分もありがたくあの素晴らしい作品に出会うことが出来た、という、何から何まで演劇が人と人を繋いでいく可能性に溢れた、素晴らしい作品でした!オールタイムベストです!
以上、ちひろの2016年演劇ベスト10(新潟県外編)でした!
2016年は素晴らしい舞台をたくさん観たので、ここにランクイン出来なかったけど感想を語りたいものもたくさんあるのですが、なんとかベスト10を決めたらこうなったという、なかなか熱いランキングになりました。
ちなみに、もみぢは作品数の関係から、ベスト5を発表してくれました!
もみぢの2016年演劇ベスト5(新潟県外編)は以下の通り・・・
1位 劇団石(トル) 一人芝居『在日バイタルチェック』
2位 【第23回 BeSeTo演劇祭】より、陝西人民藝術劇院[中国・陝西 省]『かごの鳥の青春-當青春不再懷念蝴蝶的傷』
3位 Ammo【僕たちは他人の祈りについてどれだけ誠実でいられるか(仮)】より、女たちの祈り編『兄はイスラム原理主義者になった』
4位 オペラシアターこんにゃく座『ロはロボットのロ』
5位 テアトル・ド・アナール『従軍中のウィトゲンシュタインが(仮)』
もみぢが2016年に観た舞台一覧は、こちらからご覧ください。
「もみぢが今年観て来た作品一覧」
という訳で、ちひろの2016年演劇ランキングは、(新潟県内編)に続きます。
こちらには、果たしてどんな作品がランクインするのか・・・?お楽しみに!
この放送の中では、ちひろともみぢが2016年に観た映画と演劇を振り返って、それぞれランキングを決めるという企画を行いました。
こちらからご覧ください。
「新潟演劇人トーーク!年末特別公開放送を行いました!ちひろともみぢの映画&演劇ランキングを発表!」
一体誰がこんな放送見てるんだ!?っていう放送にもかかわらず、ちひろともみぢが無駄に映画と演劇のランキングを悩んで発表しています。
USTRAMのアーカイブはやがて消えてしまうわけですが、せっかくこんなに頑張って考えたランキングなのだから、ブログにもちゃんと記録を残しておこうと思います!
ちなみに、ちひろが2016年に観た映画と舞台の一覧はこちらです!
「2016年にちひろが観た舞台&映画一覧を公開します。」
そして、2016年に観た映画のランキングはこちらです。
「ちひろの2016年映画ベスト10まとめました。」
という訳で、いよいよちひろの2016年演劇ベスト10を発表していこうと思います!
演劇だけでなく、コント・ダンスなどを合わせた舞台作品を、2016年は合計72作品も観ていました!
おそらく過去最多かと思われるのですが、あまりに多いので、ベスト10しか発表しないのは勿体ない!
という訳で、2016年の演劇ベスト10とは、「新潟県外編」「新潟県内編」に分けて発表することにしました。
新潟県外/県内の境界線はどうするか、ということはもみぢと協議した結果こうなりました。
新潟県内の定義を「新潟の団体または個人が中心となって、新潟の出演者が舞台作りにちゃんと関わってて、新潟県内で上演された作品」とし、それ以外のものを新潟県外の作品とすることにしました。
例えば、ダンス公演「光の部屋」は県外の平原慎太郎さんが演出しているけれど新潟のゆっぺさんが主体となって企画していて新潟の出演者もちゃんと活躍しているので新潟県内編に入れます。
また、例えばDULL-COLORED POPの「演劇」は新潟で公演していて新潟から大井南さんも出演してちゃんと活躍しているけど、主体はあくまで東京のDULL-COLORED POPという劇団および谷賢一さんである、となります。
まあ、そこらへんの判断基準はややこしいしツッコミどころもあるかも知れませんが、ちひろともみぢの中ではそういうことになったので、よろしくお願いします!
いう訳で、ここまでが長い前置きなので、いよいよ本編に入っていきましょう!
はい、ここからいよいよ、ちひろの2016年演劇ベスト10(新潟県外編)を始めていこうと思います!
写真はチラシを持ってるものだけ並べてみたのですが、観たものはこれ以外にもあります。
ちなみに、ちひろが2016年に観た新潟県外の舞台は、全部で28作品でした!
その中で何がランクインするのか、それでは発表していきます!
第7位(同率4作品)
Ammo「僕たちは他人の祈りについてどれだけ誠実でいられるか(仮)」より、
男たちの戦い編『殉教者』『ウサマ・ビンラディン・フットボールクラブ』、
女たちの祈り編『六月の長い夜』『兄はイスラム原理主義者になった』
はい、いきなり10位から7位まで4作品が同率でランクインというややこしいことになっておりますが、説明しておきます。
これはですね、Ammo「僕たちは他人の祈りについてどれだけ誠実でいられるか(仮)」という公演は、見る回によって「男たちの戦い編」と「女たちの祈り編」に分かれていて、それぞれ異なる作品を2作品ずつ上演していたので、両方観ると全部で4作品を観られることになっていたのです。
で、僕はこの4作品をすべて観劇し、この「僕たちは他人の祈りについてどれだけ誠実でいられるか(仮)」」という公演は、4作品すべて観劇することで完成するものだと思えたので、どれか一つを特別に評価するというよりは、すべて同率で評価したい、と思ったから、このようなランキングになりました。
この「僕たちは他人の祈りについてどれだけ誠実でいられるか(仮)」は、イスラム文化圏で生きる人間たちを描いた演劇なのですが、この4作品が「異文化とは」「思想とは」と言ったテーマをそれぞれ異なる角度から描いていて、それらのテーマを補完し合って表現していると思えたのです。
男たちの戦い編の『殉教者』は、どう見ても危険思想なんて持つとは思えない真面目で敬虔なイスラム教徒が異なる文化に触れた時に最初は感動していたもののその裏の面を知って失望し、やがてその思想が少しずつ危険な方向へと変化してしまうという様子を、のちに起こるであろうとんでもない悲劇をにおわせながら進行していく恐ろしい物語で、観ながらどうしてだよ!と悲しい気持ちになりながらも、しかしこれはこの世界で起こっている現実でもあるんだなあと、僕は心に深い傷を負ってしまったのですが、こうして現実に存在する痛みをしっかりと伝えることは、演劇、もっと言えば芸術は、世の中に対して何かを訴えかける力をちゃんと持っているんだと再認識しました。
そして、この『殉教者』は、言ってみれば4作品の発端となる位置づけにもなっていて、次に続く『ウサマ・ビンラディン・フットボールクラブ』ではその数年後が描かれるのですが、本当に真面目な、そして本来平和なものであるはずの「スポーツ」に打ち込んでいた若者たちが、やがてその思想がテロの思想へと変化していく悲劇を描き、やがてそれが我々もよく知るニューヨーク同時多発テロの惨劇へと繋がっていってしまうという、本当にショックの大きい物語でした。
しかし、この「男たちの戦い編」の2作品は、徹底して、もしかしたら我々日本人にとっては報道で知るだけの、海の向こうに存在するただの危険な存在でしかなかったテロというものを、徹底してその加害者側からを描いていて、そこを考えることなく、真に平和を考えることはできないのではないかと思い知らされました。
そして、次に見た「女たちの祈り編」では、また少し視点が変わり、最初の『六月の長い夜』では、ある夫婦の会話劇で、頑なにイスラム原理主義を信じる夫に対して、妻はそれ以外にも人間はもっと広い考えを持つことは出来ると言葉をかけるのですが、その夫の思想の揺らぎを表現していて、シーンによって夫の心境が変化するのに合わせて、観ている自分の気持ちも大きく揺さぶられました。
妻は夫に対して、人間の持つ想像力の力を説くのですが、これは人間の想像力から生まれる演劇の力を、この演劇を作った人達が信じている証拠でもあるなと僕は思いまし
そして最後の『兄はイスラム原理主義者になった』は、言わばこの4作品の集大成とも言える作品だと思いました、と言うのも、一つの演劇の中に、ある思想を信仰する者、信仰し始めている者、それに賛同する者や戸惑う者、戸惑いながらもすべてを見守る者と、これまでで最も多くの立場の人間が描かれ、この4作品が描いてきた「異文化に対して視点を増やすこと」の重要さが、この作品に詰まっているように思えたのです。
しかも、この作品だけが他の作品と異なるのは、この作品だけは舞台がイギリスという非イスラム文化圏が舞台になっていて、しかも、もともとイスラム教徒ではなかった人間がイスラム教徒になっていくという様子を描いていたので、これまでの作品に比べて非イスラム文化に生きる自分にとっては最も身近な作品に思えました。
このように、4作品を順番に見ていくことによって、それまで知らなかった異文化に対して徐々に考え方の視点が増え、そして徐々に自分にとってそれが地続きになっていく、という素晴らしい公演だったので、やっぱりこの4作品はどれ一つ欠けることなく評価していと思ったので、このようにすべて同率でランクインさせることにしました。(そして、「男たちの戦い編」から「女たちの祈り編」という順番で観られて正解だったなあと思いました)
この公演は、イスラム教徒を中心に描いていますが、この公演をすべて見ると、この演劇が伝えようとしているのは、それだけにとどまらず、もっと広く、異なる思想、文化を持った人間たちが互いに理解を深めて生きていくためにはどうすればいいのか、という普遍的なテーマを扱っているように思えました。
そのために、視点を増やすこと、想像力を働かせること、そして他人事ではなく自分と地続きの問題として考えることがいかに大切か、そして、そのために演劇が出来ることとは何なのか、ということは、「新潟演劇人トーーク!」の相方のもんちゃんと僕がいつも話していることです。
もともと大原研二さんが新潟で上演した一人芝居だけは一年前に新潟で上演されていたのですが、僕は観に行くことが出来ずに残念だったところ、もんちゃんが作・演出の南慎介さんと知り合いになっていたことから、大原さんが新潟に来た際に新潟演劇人トーーク!に出演していただき、その縁もあってもんちゃんと二人で東京まで観劇に行ったという思い出深い公演でもあります。
はい、しょっぱなから4作品の感想をまとめて書いたので、随分長くなってしまいましたが、これからはもっとコンパクトに書いていこうと思います・・・
第6位
レティクル東京座『昴のテルミニロ-ド』
続きまして、第6位は僕が愛してやまないレティクル東京座です。何しろ、去年の一位はレティクル東京座の『幕末緞帳イコノクラッシュ!』だったくらいですから。
僕がレティクル東京座が好きなのは、脚本演出役者音楽衣装大道具小道具から関係者の皆さんの日々のツイート一つ一つに至るまで、本当にどれを取っても「自分たちが心の底から好きなこと、やりたいことを、全力で楽しんでやりきっている!」ことに尽きます。
そのため、観劇時に伝わってくる多幸感が尋常ではなく、僕は本当にいい演劇を観ると「ああこの人たちと友達になりたいなあ」という気持ちになるのですが、それどころかレティクル東京座は観た瞬間友達になっているというか、大好きな友達が一生懸命輝いている姿を見て、ああ、幸せだなあ…と思っているような気持ちになるのです。
そして、あまりにもやりたい放題やり過ぎるので、正直ちょっと「それやり過ぎだろ!」と心の中でツッコミを入れたくなるシーンが、一分に一回くらい訪れる劇団でもあるのですが、レティクル東京座に関して言えば、寧ろそれが許せるというか、それどころか大歓迎!という、「細かいことはいいんだよ!」「いいぞ!もっとやれ!」と思ってしまう、とても魅力的な劇団です。
そんなレティクル東京座なのですが、この『昴のテルミニロード』のすごいころは、それまでのレティクル東京座が得意としていた「やり過ぎネタ・ギャグ演出」を必要最小限にまで封印し、「誰が観ても感動しうる超ドストレートに正統派の演劇」を作ってしまったことで、正直これには度肝を抜かれました。
北欧神話をベースにしていたことが勝因なのかもしれませんが、それでも、「心から信頼していた人と戦わなければいけなくなる」という、もう超普遍的な悲劇の代名詞みたいな物語を、よくもまああのレティクル東京座がここまで見事に描き切ったなと思い、そしてそれは同時に「俺たち、今まではネタに走ってバカみたいな盛り上げ方してたけど、そんなんなくたって超面白い演劇だって全然作れるし!」という挑戦のようにも思えました。
さらに素晴らしいのは、そこまで今までより何倍も正統派に完成度が高い演劇を作っておきながら、それでも今までのレティクル東京座にあった「やりたいことをやりたい放題やりまくる!」という魅力はちっとも衰えておらず、それどころかパワーアップしていたと思うのです。
まあ、今までファンだった劇団が急にこんなすごい作品を作ってきたから評価が上がった、っていうのも、正直ありますけどね、ほら、ずっとふざけていた友達から本当にいいこと言われると、なんかこう必要以上にぐっときてしまう、みたいなこと、あるじゃないですか・・・
とは言え、もしも自分が初見だったとしても、しっかり圧倒されたと思うし、今後も多くの人に見てもらいたいなあと、ずっと応援していきたい劇団です。
第5位
テアトル・ド・アナール『従軍中のウィトゲンシュタインが(略)』
正式なタイトルは、『従軍中の若き哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインがブルシーロフ攻勢の夜に弾丸の雨降り注ぐ哨戒塔の上で辿り着いた最後の一行“──およそ語り得るものについては明晰に語られ得る/しかし語り得ぬことについて人は沈黙せねばならない”という言葉により何を殺し何を生きようと祈ったのか? という語り得ずただ示されるのみの事実にまつわる物語』という超長いものです。
まずこの演劇は最初から最後まで、「演劇を観ること」の魅力、即ち、「今、目の前で生きている人が、すごいことをやっている、ことのすごさ」そして「それを自分が観ることで頭の中に演劇以上の想像力が広がっていく素晴らしさ」にあふれていたと思います。
例えば、オープニングであの長いタイトルを一言一言丁寧に読み上げられることによって、よく意味が分からなかったタイトルの内容が少しずつ僕の頭に入ってきたり、かと思えば突然シリアスな雰囲気になった中で静かにマッチをすってランプに火を点けて素直にその演技に「すげえ!」って思うことで演劇に引き込まれたり、実際にオルゴールを舞台上で鳴らしてそれに耳をそばだててしまったりと、今、目の前で起こっていることによって、視覚・聴覚だけではなく、例えばマッチの燃えるにおいのような嗅覚にまでも訴えかけてくることで、どんどん引き込まれていくような演劇でした。
それだけでも十分にすごいことなのですが、それ以上に僕が感動したのが、すごいところ二つ目の「想像力を掻き立てる」力です。
この物語は、戦争中に塹壕の中で兵士たちが作戦会議をするシーンがあるのですが、その中で体調が食料のパンやソーセージや灰皿を並べて、今自分たちがいる戦況を再現するというシーンがあり、正直ここは笑えるシーンなのですが、これを見た主人公の哲学者ウィトゲンシュタインは、あるとんでもない発見をします。
それは、実際にはそこに山や川や戦場があるわけではないテーブルの上の食料や灰皿を、地図に見立てることで頭の中に自分が実際に見ているわけではない風景が広がるように、人間の想像力は自分が実際に体験できないことまでも無限に頭の中に作り出すことが出来るのではないか、という衝撃的な発見です。
そして、そのウィトゲンシュタインの発見は、そのまま観ている自分の感動とそのシーンで完璧にリンクし、「そうかだから人間の想像力はすごいのか!」という衝撃が、まるで初めて人間に想像力というものがあることを知ったかのように伝わってくるのです。
そして、その後に、そんな人間の想像力の素晴らしさを更に激しく見せつけられるシーンがあり、そこでは戦場から遠く離れていて会えないはずの親友に、ウィトゲンシュタインが想像力の中でなら出会える、というシーンが、実際に本当に二人が出会っているかのように感動的に表現されるのです。
そのシーンでは、それまでは暗く重苦しい戦場のように表現されていた照明が突然明るくなり、まるで舞台が広い宇宙のように光り輝き、戦場という死と隣り合わせのつらく重苦しい現実でも、人間の想像力は無限の宇宙を思い描けることの幸せを感じることが出来るんだなあ、ということを、強烈に思い知らされ、正直泣きました。
しかも、よく考えたらこれは演劇で戦場も宇宙も作りもので、もっと言えば親友の役をやっているのは一人二役でさっきまで嫌な兵隊を演じていた役者さんのはずなのに、僕は今この瞬間に僕の頭の中にすごい感動的な想像力の世界を思い描けているのか…という、自分の実体験を伴って伝わってくるので、なおのこと感動が大きくなりました。
さらに言うと、想像力はプラスの側面だけではなくマイナスの側面もあることも描いていて、実際に戦闘が始まるシーンでは照明が全て落ちた完全暗転になり、音と台詞だけのシーンになるのですが、そこではまさに自分の想像力によって恐怖が膨れ上がってしまうんだなあと実感もしました。
という訳で、これこそ映像や文章ではなく、演劇で実際にそこにいる人を見るという、そして実際に見てもなおそれ以上に我々の想像力は広がってしまうという、演劇で伝えられることの、ある意味限界を見せ付けられたかのような、衝撃的な作品でした。
第4位
BLUES『GROOVIN'!GROOVIN'!GROOVI'!』
ここでまさかのBLUES!まさかの自分の所属団体!しかも自分も出演している!というのに、4位にランクインです。
断言しますが、この演劇は間違いなく、ここにランクインしているどの作品よりも下らなく、テーマもメッセージも何一つ存在しません!
世の中には芸術の存在価値の限界を追い求めているような、最先端の素晴らしい演劇もたくさん存在しますが、この演劇はまず間違いなく、ただの悪ふざけの極みでしかない作品であることは間違いないでしょう!
集客、知名度、評価、どこをとっても最底辺です!
しかし、それが何だと言うのでしょうか!俺はBLUESが好きだ!心から愛している!そしてこれは俺のランキングだ!『GROOVIN'!GROOVIN'!GROOVI'!』という演劇が俺は本当に大好きなんだ!
という訳で熱い気持ちで感想を書いていきますが、まずこの『GROOVIN'!GROOVIN'!GROOVI'!』という作品、一つの舞台にかけた大道具、小道具、そしてギャグなどの規模やクオリティから言ったら、まず間違いなく、過去最高の出来だと思います。
また、会場がここ数年ずっと使ってきた「上土ふれあいホール」や「信濃ギャラリー」ではなく、さらに大きな「ピカデリーホール」という会場になっていて、その時点で今まで以上に気合いの入った公演であることが分かります。
BLUESがピカデリーホールで公演を行うことは、5年以上前に3回、自分が出演したのは2回あるのですが、当時は正直、自分たちの活動の規模よりも大きな会場を少し持て余してしまったというか、会場の広さにちょっと負けてしまったというか、自分たちの身の丈に合わない大きな夢を見過ぎたのかも知れないなあ・・・と正直思う部分があったのですが・・・今回はやってくれた!こんなに大きい会場でこれだけBLUESの面白さ、魅力、完成度、勢いを発揮できた公演は、本当に初めてだと思います!よくぞBLUESここまで来たよ!
さらに、大道具では二階建てのセットを組んだり、セットの壁から巨大なエイリアンが出現したり、排気口にエイリアンが吸い込まれていくというダイナミックな展開もあり、最後にはなんと波動砲まで発射されるという、本当に過去数年間の経験のすべてを注ぎ込んだかのよう大規模で完成度の高い仕上がりです。
そしてですね、ここが本当に僕がこの公演の大好きなところなんですが、そんな過去最大級の会場とセットと手間と時間を使って作り上げたのが、今までのBLUESのどんな作品よりも下らない、メッセージも何もない、2時間弱の上演時間をひたすらふざけまくるだけの超絶バカの極みみたいな演劇だったんですよ。本当にさあ・・・バカじゃねえの!って、褒めてる!褒めてるよ!最高だよ!
なんでここに本当にこんなに感動しているかというと、そもそも自分が演劇を始めた理由、そして続けてきた理由というのは、ただ単純に「楽しかったから」であり、そしてBLUESは常にそれを貫き続けているからなんです。
演劇ってたくさんあるけど、要するに演劇の一番の根本ってそこにあると思うし、どこまで言っても演劇は「遊び」に過ぎない、だったらいつまでも全力で遊び続けようという気持ちは、僕がずっと思っていることだし、確かにBLUESは規模も知名度も評価も大したことない地方の小劇団かも知れないけど、でもBLUESにいるとその演劇的な幸せはいつも強く感じるし、この全身全霊をかけて遊ぶことっていうのは、本当に演劇の最も純粋で原初的な体験なのではないでしょうか!
という、自分が演劇が好きで、BLUESがこれからもずっと好きだというとても大切な気持ちを再確認できたという時点で、本当に自分にとっては大切な作品なのです。
あとやっぱり、ダンシエンゲキ集団であるところのBLUESの魅力、すなわち「男の子の夢」を全力でやっていることが素晴らしいですよね。悪いエイリアンをやっつけて宇宙を大冒険するなんて本当に最高です。
しかも、登場人物がいつもふざけてるバカばっかりなんですが、あれ本当に、普段の俺たちが遊んでるところと全然変わりないです。そんなボンクラどもが、男の子の夢をかなえていくなんて、最高すぎませんか?
例えばラストで波動砲を発射するシーンがあるのですが、あれは戦争で人を殺すための兵器ではなく、あくまでの「男の子の夢」なんですよね。それが本当に素晴らしい!「波動砲、発射!」って最高に恰好いいじゃん?ってだけの理由でぶっぱなしちゃうんですよね。バカだなあーって。もう、最高です。
ちなみに補足しておきまと、いくらなんでも波動砲はやり過ぎなんじゃ・・・と正直思ってしまった部分もなくはないのですが、それに対して代表おもケンの見解は「大丈夫、ギャグ漫画の世界では人は死なない」だそうです。なるほど!
第3位
劇団石(トル) 一人芝居『在日バイタルチェック』
この作品は、在日韓国人である女性が、老人ホームでバイタルチェックを受けながら、自分の身の上を語りだす、それに合わせて、その女性の幼少期から現在に至るまでが演劇として次々と表現されていく、というものです。
そして、この作品は、きむ・きがんさんという、実際に在日韓国人である女優さんの一人芝居で、全てのシーン、全ての登場人物を、きむさんが演じます。
感想は色々ありますが、まずこのきむさんという方が、本当に素晴らしい!圧倒的に素晴らしい!2016年で印象的だった役者を一人挙げろと言われたら、僕は間違いなくこのきむさんを挙げます。
主人公の女性が過ごしてきた様々な出来事を演じながら、もう面白いシーンでは心から大爆笑、悲しいシーンでは大号泣と、きむさんの演技に感動揺さぶられまくりでした。
また、演技だけではなく、この演劇はきむさんが観客に直接絡んでくるという仕掛けが随所に散りばめられ、例えば一緒に舞台上に引きずり出して踊ったり、観客にマッコリを振る舞ったり、果ては観客の着ている服や財布の中の1000円札を要求して舞台の小道具として使いだす始末です!(大丈夫、ちゃんと最後に返していました。)
そんな芸人顔負けの強烈な面白オバちゃんきむさんなのですが、笑って泣いて最後に演劇から伝わってくるものは、在日韓国人として日本で生きてきた人の決して簡単には片付けることの出来ない現実であり、そしてそんな現実を生き抜いてきた一人の女性の生きる強さという、とんでもなく深く大きなテーマがそこに広がっているのです。
そういう、どこから考えていけばいいのか分からないような難しいテーマを、こうして喜怒哀楽が揺さぶられる演劇で伝えていることが、本当に素晴らしいと思うし、実際きむさんは、そういう現実を伝えるために、自らの体験を使って、この演劇を全国で上演しているらしいのです。
そして、その試みは、少なくともあの演劇を観た人にとっては、大成功しているのではないでしょうか。何故なら、あの演劇を観た人なら、まず間違いなく、みんなきむさんが好きになってしまうと思うからです。
演劇によって世の中に何か現実の問題を伝えるときに、その問題が「地続きであること」を伝えることは本当に大切だと思いますが、「好きになること」は、更にその先にあるものなのではないでしょうか。
言い換えればそれは希望とも言えると思います。実際に存在している過酷な現実があり、そんな現実と地続きな世界で生きていくために、それでも人は人を「好きになること」が出来るというのは、素晴らしい希望だと思います。
全国を回って公演している作品らしいですが、是非多くの方に見ていただきたい、そしてあの演劇を、きむさんを、好きになっていただきたい!と強く思います。
第2位
劇団どくんご『愛より速く』
えっと、このベスト10の中で、最も説明に困る作品・・・というのも、他の作品と違って、この演劇には分かりやすいストーリーもテーマもおそらく存在しないからです。
どくんごという劇団はテント芝居で全国を回っている劇団で、以前から気になっていたのですが、初めて観に行くことが出来ました。
実際に会場に行くと、なんだか面白そうな恰好をしている出演者さんたちが温かく迎え入れてくれて、その時点で、あ、この演劇面白そう!って思いました。
そして、いざ公演が始まってみると・・・あれは、一体何なのでしょう!? よく分からない短編集、というか、面白い何かのワンシーンっぽいもの、人形劇っぽいもの、シュールなコント、一発ネタ、ダンス、歌、突然始まるゲームにまさかのお料理など、ありとあらゆる謎のシーンが、脈絡もなく次から次へと襲ってくるのです!こうして書くと、まったく面白さが伝わらないですね・・・
でですね、確かに、一つ一つのシーンにはストーリーはあってないようなものではあるのですが、登場する役者さんは、明らかにすべてのシーンを全力で楽しんで演じており、そしてこれは後で分かったことなんですが、どくんごという劇団は、このように「面白いもの」のアイディアをみんなで出し合い、それを次々と具現化していく、という演劇の作り方をずっと続けている劇団だそうです。
さらに素晴らしいのは、そんなよく分からない謎のシーンではありますが、一つ一つのシーンで、衣装や小道具、セット、背景に掲げられる大きな絵などが、どれもこれも手作りでこだわり抜いて作られているのが感じられるのです。
しかも、それらのセットや小道具から感じられる手作り感が、本当に楽しさに溢れていて、まるでそのセットや小道具を作っている人が作りながら感じていた楽しさまでも、舞台上から伝わってくるようなのです。
全力で面白いと思ったものを、全力で舞台化していくこと、もっと言えば、創作の楽しさにひたすら溢れていた公演で、しかもテント芝居だから、自分がまるでそんな幸せの中に生きていると感じられるという、本当に多幸感に溢れた時間で、2時間という上演時間があっという間でした。
最初に、ストーリーが存在しないと言いましたが、この公演に関しては、寧ろそのストーリーの無さがプラスに働いていたと思います。何故なら、分かりやすいストーリーがなくたって、人間が全力で楽しんで作り上げたものは、人を感動させる力を持っている、ということが、この公演によってはっきり分かったからです。
BLUESの感想の時に、僕は全力で楽しむものこそが演劇の醍醐味だって書きましたが、それを究極までやり続けていけば、一つの芸術にさえも到達できるということを教えてくれたような、自分の人生にとって本当に大切な作品です。
この作品に出会えたことが嬉し過ぎて、長岡での上演だったのですが、そこからの帰り道は車の中で思わず歌ってしまいました。
第1位
アート企画陽だまり『空の村号』
栄えある第一位は、アート企画陽だまりさんの、『空の村号』でした!おめでとうございます!
これ、2016年の最初に観た演劇なんですけど、今まで演劇にこんなに感動しのは初めてだ!ってくらい感動してしまいまして、そしてそのまま2016年の1位になってしまいました。
どういう演劇かと言うと、まず空くんという小学生の男の子が主人公なのですが、彼は映画監督を夢見ています。
彼は福島の田舎で乳牛を飼育している家族と暮らしているのですが、ある日震災が発生し、何が何だか分からないうちに、空くんの家族は震災に巻き込まれていきます。
そんなある日、空くんの村に映画監督がやってきて、空くんは憧れの映画監督に出会える!と言って会いに行って仲良くなるのですが、その人は震災の現実を伝えるためにやってきたドキュメンタリー監督でした。
そして、なんでこんな悲しい映画を撮らなきゃいけないんだ!と言って、もっと夢に溢れたSFの冒険の映画を作るんだ!と言い出し、仲間たちと撮りはじめた映画の内容が、そのまま演劇になっていきます。
まず、前半では、震災とそれによって起こってしまう悲しい現実の理不尽さが、子供の目を通すことで、まるで自分のことであるかのように、ダイレクトに伝わってきます。何故なら、震災について自分だって本当は真実は何も分かっていないし、子供と変わりないじゃないか、と思ってしまうからです。
そして、後半の空くんの映画パートは、本当に超面白くて、ゲラゲラ笑ってしまうんですけど、同時に、空くんがこの映画を作った理由を考えると、同時に本当に切ないシーンなのです。
映画では、放射能除去装置を宇宙の果てに取りに行くぞ!っていう、まんま宇宙戦艦ヤマトのパロディの展開が登場し、最後には震災や原発事故を起こした悪の親玉が登場し、空くんたちがそれをやっつけるという展開はガンダムっぽかったりして、そのたびに笑っちゃうんですけど、同時に、こうして映画の世界で空くんがこんなご都合主義の空想の楽しい物語を作ったのは、その反対側に、どうすることも出来ない現実があるからなんだよなあ・・・ということが伝わってきて、空くんの映画が楽しければ楽しいほど、それに比例して重い現実の切なさものしかかってくるという見事な作りになっていて、僕はこのシーン、爆笑しながら号泣するという初めての体験をしました。
もっと言うと、この「現実ではどうしようもないことを空想の世界で叶える」というのは、演劇という、もっと言えば、すべてのフィクション、物語が持っている力でもあり、そして、現実逃避に過ぎないけれど、でもフィクションの世界くらい夢があったっていいじゃないか、とか、それでもどんな作品であっても現実を生きる作り手の気持ちは伝わってしまう、とか、そんな作品によって演劇は世の中に訴えかける力を持っているんじゃないか、とか、そんな自分が演劇に対して感じていたあらゆる気持ちが、この「空の村号」という作品には詰まっています。
そして、そんなあらゆる読み取り方が出来る深い作品でもありながら、ちゃんと娯楽作品として心の底から楽しめる作品でもあり、見終わったら、本当に大好きになってしまった作品です・
最後に、僕がこの演劇を観た後でロビーでこの演劇を新潟で上演したおやこ劇場の方に挨拶をしたときに教えてもらった裏話があるのですが、それがまた演劇と同じくらい感動的だったので、その話をしたいと思います。
そもそもこの演劇は震災をテーマに扱っているものなんですが、震災が起こった直後に、どうしてもこの現実を演劇にして子供たちに伝えていかなければならない!という気持ちで、かなり突貫工事で作られたのが、この「空の村号」だったそうです。
そして、いち早くこの演劇を子供たちに届けなければいけない!という気持ちから、稽古時間さえも短縮するために、朗読劇という形になったそうです。
こうして生まれた作品が、日本の子供向けの演劇を上演する大会に出場したものの、賞を取ることは出来なかったらしいのですが、それを観ていたおやこ劇場の方が、これは是非とも多くの方に見てもらうべき作品だ!と感動し、それで普段はおやこ劇場会員限定で上演していたところを、この作品だけは特別に誰でも観劇できるシステムに変更して、新潟で上演してくれたらしいです。
そんな数々の人の努力と熱い想いによって、あの演劇が多くの人に伝わり、自分もありがたくあの素晴らしい作品に出会うことが出来た、という、何から何まで演劇が人と人を繋いでいく可能性に溢れた、素晴らしい作品でした!オールタイムベストです!
以上、ちひろの2016年演劇ベスト10(新潟県外編)でした!
2016年は素晴らしい舞台をたくさん観たので、ここにランクイン出来なかったけど感想を語りたいものもたくさんあるのですが、なんとかベスト10を決めたらこうなったという、なかなか熱いランキングになりました。
ちなみに、もみぢは作品数の関係から、ベスト5を発表してくれました!
もみぢの2016年演劇ベスト5(新潟県外編)は以下の通り・・・
1位 劇団石(トル) 一人芝居『在日バイタルチェック』
2位 【第23回 BeSeTo演劇祭】より、陝西人民藝術劇院[中国・陝西 省]『かごの鳥の青春-當青春不再懷念蝴蝶的傷』
3位 Ammo【僕たちは他人の祈りについてどれだけ誠実でいられるか(仮)】より、女たちの祈り編『兄はイスラム原理主義者になった』
4位 オペラシアターこんにゃく座『ロはロボットのロ』
5位 テアトル・ド・アナール『従軍中のウィトゲンシュタインが(仮)』
もみぢが2016年に観た舞台一覧は、こちらからご覧ください。
「もみぢが今年観て来た作品一覧」
という訳で、ちひろの2016年演劇ランキングは、(新潟県内編)に続きます。
こちらには、果たしてどんな作品がランクインするのか・・・?お楽しみに!