もう去年の話になりますが、2016年12月28日に、新潟演劇人トーーク!にて、「年末特別公開放送」を行いました。
この放送の中では、ちひろともみぢが2016年に観た映画と演劇を振り返って、それぞれランキングを決めるという企画を行いました。
こちらからご覧ください。
「新潟演劇人トーーク!年末特別公開放送を行いました!ちひろともみぢの映画&演劇ランキングを発表!」
一体誰がこんな放送見てるんだ!?っていう放送にもかかわらず、ちひろともみぢが無駄に映画と演劇のランキングを悩んで発表しています。
USTRAMのアーカイブはやがて消えてしまうわけですが、せっかくこんなに頑張って考えたランキングなのだから、ブログにもちゃんと記録を残しておこうと思います!
ちなみに、ちひろが2016年に観た映画と舞台の一覧はこちらです!
「2016年にちひろが観た舞台&映画一覧を公開します。」
そして、2016年に観た映画のランキングはこちらです。
「ちひろの2016年映画ベスト10まとめました。」
という訳で、いよいよちひろの2016年演劇ベスト10を発表していこうと思います!
演劇だけでなく、コント・ダンスなどを合わせた舞台作品を、2016年は合計72作品も観ていました!
おそらく過去最多かと思われるのですが、あまりに多いので、ベスト10しか発表しないのは勿体ない!
という訳で、2016年の演劇ベスト10とは、「新潟県外編」「新潟県内編」に分けて発表することにしました。
新潟県外/県内の境界線はどうするか、ということはもみぢと協議した結果こうなりました。
新潟県内の定義を「新潟の団体または個人が中心となって、新潟の出演者が舞台作りにちゃんと関わってて、新潟県内で上演された作品」とし、それ以外のものを新潟県外の作品とすることにしました。
例えば、ダンス公演「光の部屋」は県外の平原慎太郎さんが演出しているけれど新潟のゆっぺさんが主体となって企画していて新潟の出演者もちゃんと活躍しているので新潟県内編に入れます。
また、例えばDULL-COLORED POPの「演劇」は新潟で公演していて新潟から大井南さんも出演してちゃんと活躍しているけど、主体はあくまで東京のDULL-COLORED POPという劇団および谷賢一さんである、となります。
まあ、そこらへんの判断基準はややこしいしツッコミどころもあるかも知れませんが、ちひろともみぢの中ではそういうことになったので、よろしくお願いします!
はい、という訳で、ここまでが長い前置きなので、いよいよ本編に入っていきましょう!(ここまで一つ前の「新潟県外編」の記事と同じ)
はい、ここからいよいよ、ちひろの2016年演劇ベスト10(新潟県内編)を始めていこうと思います!
写真はチラシを持ってるものだけ並べてみたのですが、観たものはこれ以外にもあります。
ちなみに、ちひろが2016年に観た新潟県内の舞台は、全部で44作品でした!
その中で何がランクインするのか、それでは発表していきます!
第10位
Noism1、Noism2 劇的舞踊『CARMEN』再演
えー、僕はもともとNoismが好きで、2015年の新潟演劇ベスト10ではNoism1『箱入り娘』が1位だったくらいなんですけど、今年はNoism1、Nism2の劇的舞踊が10位にランクインです。
Noismの作品の好きなところは、やっぱりその圧倒的な舞踊、体の動きによって、言葉が無くても登場人物の気持ちやストーリーが強く伝わってくるところで、いかに普段の我々が言葉に頼っているかが分かると同時に、言葉がなくてもこんなに人間はこんなに色んなことを伝えることが出来るのか!という、人間の可能性の限界みたいなものに気付かされます。
特に今回の『CARMEN』は劇的舞踊と銘打っているように、物語を舞踊によって表現するという試みなので、こんなん絶対面白いに決まってるやつだろ!と見る前から期待して観に行ったら、やっぱりめちゃくちゃ面白かったという。
オープニングはダンスかと思いきや、普通に台詞のある静かな演劇っぽく始まるんですよね。それで、あれ、いつもと違うのかな・・・と思わせつつ、一人の人物の独白の回想という形をとって、少しずつ物語が始まっていく。
物語が始まると、いよいよダンスか・・・!?と思わせておいて、今度は幕の前に置かれた小さなスクリーンに投影された人間の影のダンスと、その前後で実際に踊る人間のダンスがユニゾンするという、ちょっと技巧的な演出によって、物語が進んでいく。
ここまでの時点で、素直に「すごいなー」と感心すると同時に、「とは言え、やっぱりNoismなんだからみんなで踊る派手なやつが観たいよなー!Noismさんそろそろお願いしますよ!」という気持ち徐々に高まって高まっていったところで・・・ついに物語のメインである、ヒロインのカルメンとドン・ホセとの出会いへと進行していく・・・!!
するとその時、後ろにずっと張ってあった大きい幕が開く!それと同時に、カルメンのあの有名な主題歌が流れ出す!そして物語の舞台となる町の人々を演じる大勢にダンサー達が音楽に合わせて踊り出す!というこのシーンの「キタァァァァァァァァ!!!!」って」いう圧倒的な高揚感!これぞ劇的舞踊!って感じで最高にテンションがアガりました!
それから先は台詞による表現がほとんどなくなり、カルメンとドン・ホセ、そして町の人々を巡る様々な物語がドタバタと続いていくのですが、ダンサーさんたちの様々な身体表現によって言葉はなくてもストーリーはものすごく分かりやすく伝わってくるし、寧ろ言葉以上のあらゆる「面白さ」を次から次へと見せ付けられるという情報量の多さでまるでジェットコースターのように最後まで突き進む、本当に「ああ!舞台って楽しいー!」っていう高揚感に溢れた幸せな時間でした。
初演が観られていなかったので、再演でようやく観られて良かったなあっていう舞台でした。
という訳で、2015年では1位だったNoismが2016年は10位という始まり方をした今回のランキング、この先一体どんな作品が入ってくるのか・・・?
第9位
島村哲平『再放送 島村てっぺい物語』
島村てっぺい物語とは、島村哲平さんの人生を演劇にしようという試みで、このシリーズは、もともと2014年に完全に関係者だけに限定した「島村てっぺい物語」という作品を上演していたのですが、今回は普通にお金を取ってお客さんを招き入れる一つの演劇として披露されました。
前回の「島村てっぺい物語」が島村哲平さんが新潟で演劇を始まるまでの物語だったに続き、今回は島村哲平さんのその後の人生が描かれ、今となっては知る人ぞ知る過去に一度だけ行っていた束の間の結婚生活が描かれます。
まず、僕がこの演劇の好きなところは、何と言っても島村哲平さんという方の人生を一つの演劇、一つのエンターテインメントにしてしまおうという試みがすごく面白いなあっていうことです。
ちょっと真面目な話をすると、僕は脚本家にせよ役者にせよ、演劇を作る人達が、その演劇と、そして自分自身と真っ直ぐに向き合い、自分たちが面白いと思ったこと、やりたいことを素直に舞台にさらけ出す、そういう演劇こそが魅力的だと思うのです。
必要以上に格好付けたり、自分をよく見せたりするのではなく、自分たちの中にある格好いい部分も格好悪い部分も、そのまま舞台にさらけ出してしまう、そういう演劇に出会うと、今自分は演劇を見ながらその演劇を作っている人達と出会っている!そして、もっとこの演劇と友達となりたい!という気持ちに僕はなって、それこそが演劇の喜びだと思うのです。
そう考えると、島村哲平さんという一人の人間が、自分の人生で体験してきた格好悪い過去をそのまま脚本にしてしまい、それを一つのエンターテインメントに仕上げてしまう、それってまさしく自分が好きな演劇の一つなのではないかなと思うのです。
本当に、えっ、そんな普通の人なら出来れば人には言わないで秘密にしておきたいような恥ずかしい過去を、よくもまあ演劇なんてものにしてしまったよ!っていう島村哲平さんはすごく面白い演劇人だと思うし、そして同時に変態だなあ、ある意味での露出狂だなあと思うのですが、まあそれもそれで島村哲平さんの魅力になっていると思います。
また、僕は普段から、どんなに面白い演劇も一人の人間の人生の面白さにはかなわないと思っているのですが、この島村てっぺうい物語を見ていると、本当にえっ、これが本当に実話なの!?ってくらい波乱に満ちていて、まさしくどんな演劇よりも面白い人生を、あくまで演劇というフィルターを通して見ているんだなあと思えて、それがすごく面白かったです。
それに加えて、そんな波乱に満ちた人生を描いた演劇の中に、次から次へと畳みかけるように登場するハイテンションなギャグの数々にも本当に笑いましたし、そんな演劇に出演している役者さんの一人一人が、本当に全力で全開で舞台上で演技をしたりボケたりしているのが、本当に爽快でした。
こういう、何が何でもやりたいことを全力でやりまくる、そして全力でボケまくる、みたいな演劇こそが僕は本当に大好きなんですが、(BLUESがそうですね)実はそういう演劇って新潟ではなかなか出会ったことがあまりなかったので、そういうタイプの演劇に新潟で出会えた喜びというのが本当に嬉しかったです。
どんなに技術があっても格好悪いと思われるのを恐れて変にかしこまったりしてしまう演劇よりも、こういう上手いとか下手とかなんて関係ない!俺はやりたいこいとをやるんだ!っていう演劇の方がずっと魅力的だなあと僕は思います。
さらに、会場が鳥の歌だったんですが、開演中に島村哲平さんが手作りの料理を観客に振る舞ったり、上演中の写真撮影がOKだったりと、そういう過剰なサービス精神も、この作品の魅力になっていたなあと思います。
第8位
江南区演劇公演実行委員会『親の顔が見たい』
青森で高校教師をやりながら渡辺源四郎商店という劇団を主宰している畑澤聖悟さんの戯曲を、港南区演劇公演実行委員会さんが上演したものです。
結構有名な戯曲らしいのですが、僕は初めて知りまして、いやー、よくこんないい演劇を見つけてきたなあ!って思いました。
物語は、ある高校に5人の子供の保護者が集められ、何やら教員から神妙な話を始める、実はこの日にこの学校で一人の生徒が自殺をしていて、その遺書には自殺した生徒をいじめていたらしい5人の生徒の名前が書かれていた、そして、その5人の生徒の保護者がこの日学校に集められていた、というものです。
物語が進行するに従って、自殺した生徒よりも自分の生徒を守ろうとする保護者の思惑が暴走を始め、それに困惑する学校の教員たちとの会話劇が長く続くのですが、徐々に自殺した生徒の生前を知る人物や、自殺した生徒の母親なども訪れ、少しずつ、真相とおぼしきものが浮かび上がっていく、という運びになっており、まずこの会話劇だけで進行していくストーリー展開に、いやー、本当によくできた戯曲だなあ!って関心しました。
それと同時に、物語の進行に従って、いじめをはじめとした、おそらく悲しいことに現在も日本中で行われいるであろう、子供たちの生きる世界に存在する様々な問題、人間の抱える負の部分、世の中の闇みたいなものが次々と浮彫になっていき、おそらくこの演劇は高校教師である作者が、すべての子供(特に思春期の)と大人に向けて、自分たちが生きているこの現実について、そして人が生きること、死ぬことを考えてもらうために書いた戯曲なのではないかなあと思いました。
このタイプの戯曲は、場所や団体を超えて多くの人が演じ、多くの人が見ることにこそ意味があると僕は思うので、そういう意味で、この戯曲を新潟で上演した港南区演劇公演実行委員会の皆さんは、よくぞこの決断をしたなあと思いました。
また、出演している役者さんたちも、それだけの演劇をやっているのだ、人が一人亡くなっている演劇を自分たちはやっているんだ!という気迫を感じたというか、とても真摯にこの演劇に向き合っている感じがして、それにはとても好感を持ちました。
そして、それら今まで書いてきたようなこの演劇の魅力以上に、僕は決定的にこの演劇を評価したい理由というのは、実はものすごく個人的なところにあるんですけれど、いじめが一つのテーマである演劇を見ていたら、ふと演劇の内容とは全然関係のない自分自身に対する疑問が浮かんだのです。
それは、「自分は今、いじめ問題とは無関係な顔をして演劇を見ている。しかし、本当はどうだろう?自分もいじめの被害者だったこと、そして加害者だったことがあるのではないか?」ということです。
そして、演劇を見ながら、色々思い出してしまったのです、小中学生の時にいじめられていたこと、さらに、それより前、保育園の時に、おそらく自分もいじめに加担していたということ・・・
いじめられていたことを思い出すことは今まで度々ありましたが、自分がいじめに加担していたことを思い出してしまったのは、こういう言い方は都合がよすぎるかもしれませんが、正直ショックでした。
さらに思い出したのは、保育園の時に、一人の女の子をみんながいじめていると知ったときに、僕の母がその子の家族に謝りに行ったことがあって、それから母が幼かった自分に、こういうことは絶対にやってはいけないんだと話してきたのです。
おそらく、当時の自分はまだ母の言葉を理解していなかったと思いますが、それから現在に至るまでの人生で、自分は絶対にいじめには加担しないと心に決めているのは、もしかしたらその母の言葉があったからなのではないかと思うのです。
そういう、自分の人生でとても大切な絶対に忘れてはいけないことを、この演劇がきっかけで思い出すまで僕はすっかり忘れていて、そのことが恥ずかしくなったり、思い出したことで二十数年分の申し訳なさに襲われたりして、ただでさえショッキングな演劇を見ながら、もう自分の頭の中はグチャグチャになってしまったのですが、それもこれも、この演劇に出会わなければもしかしたら一生忘れていたことかも知れないのです。
そう考えたら、自分はこの演劇に出会えたことに本当に感謝しなければいけないなあと思いました。
この演劇に携わった皆さん、本当にお疲れさまでした、そして、ありがとうございました。
第7位
みっくすじゅ~す倶楽部『カベの向こうに忘れもの』
みっくすじゅ~す倶楽部さんは新潟のアマチュア劇団で、結構好きな劇団なんですが、これは僕がみっくすじゅ~す倶楽部と出会う前の作品の再演らしいです。
率直に言って、僕が今まで見てきたみっくすじゅ~す倶楽部の作品の中でも群を抜いて面白かったと思います!
脚本、そして演出、演技、あらゆる部分に、演劇というものの面白さが詰まったとても魅力的な作品だったと思います。
物語は、老人ホームの一人の老人の一人が老人ホームを抜け出そうと突然言い出して、老人たちが集まってみんなで抜け出す話と、それを阻止しようとする職員たちの物語が、ドタバタコメディタッチで描かれます。
まず、すべての老人と職員(一人は親族)が一人二役で演じられるのですが、さっきまで職員だった人達が今度は老人で登場するという、この遊び心にあふれた演出が、ああ、演劇だからできる面白さ!って思って、とても引き込まれました。
役者さんたちの演劇もとても生き生きとしていて、特に老人役を演じている時の皆さんが本当に老人になりきることを楽しんで演じているんだなあー!ってのが伝わってきて、それが劇中で子供みたいに施設を抜け出すことを企てる老人たちのワクワク感とリンクして、見ていてとても楽しかったです。
さらにストーリーもとてもよく出来ていて、実は一人のずっとボケていた山ちゃん演じるおじいさんは実は子供の時に初恋の幼馴染との約束を果たすために施設を抜け出そうとしていたという切ない物語が徐々に明らかになってきて、しかもその相手のことをずっと忘れていたんだけれど、実はそれは同じ施設の花野さん演じるおばあさんだった、と、ドラマティックに物語は展開していきます。
最後に、おじいさんはずっと忘れていた気持ちを思い出すんですけど、でもおばあさんにその気持ちを伝えることは出来ずに、代わりに孫を若いときのおばあさんだと勘違いしてずっと忘れていた数十年前の気持ちを打ち明ける、という、クライマックスがあり、何でしょうね、大切な気持ちを思い出した喜び、だけど本人には伝わらない切なさ、だけどやっぱりそれを言葉にできたおじいさんは幸せなのかな・・・という、一言では言い表せない深い感動がありました。
ちなみに、おじいさんが若いときのおばあさんと間違って気持ちを伝えてしまう孫を演じた花野さんは、そのおばあさんと一人二役だったことも、この、伝わってるようで伝わっていない切なさを非常に際立てていたと思います。
そしてそのさらに最後の最後、気持ちを言葉にしたおじいさんは再びボケた状態に戻ってしまい、その横にそっとおばあさんが座る、そこでしばらく二人の無言のシーンが続き、ゆっくりとそのまま暗転していって、物語が終わるんですけど、この終わり方、本当に最高だと思います!
あ、ちゃんと伝わったのかな・・・二人は幸せなのかな・・・伝わっているといいな・・・幸せだといいな・・・っていう、二人の気持ちやその後の展開を思わず想像してしまうような、深い余韻があり、何かと台詞で何でもかんでも説明してしまいがちな演劇の多い中、言葉を使わないからこそ伝わる感動、観客の創造力を働かせる余地、を大切にした、本当に名シーンだったと思います。
最後に、アマチュア演劇って友達が出てるからみたいな軽い気持ちで見に行くことが僕は多いのですが、そういう演劇でこういういい作品に出会うと、プロの演劇などでは味わえないような嬉しさというか、感動がありますよね。
何ていうか、新潟のアマチュア演劇だって全然いけるじゃん!っていう可能性さえも感じる、本当に素晴らしい演劇だったと思います!いやー、いい演劇だったなー!
第6位
ダンス公演『光の部屋』
えーと、この作品がこの新潟演劇ベスト10にランクインしているのは意外かもしれません。
まず、演劇じゃなくてダンス公演じゃないか!っていう問題ですけど、もみぢと話し合った結果、このベスト10はダンス公演も演劇と同様に対象作品とすることにしました。
そしてもう一つ、これは平原慎太郎さんという東京で活躍されているダンサーさんが演出を手掛けられた作品なので、新潟の作品に加えてよいのかという問題ですが、これももみぢと話し合った結果、新潟の人間が中心となって上演されたものであること、そして新潟の人間がクリエーションに参加しているならば、対象作品としてよい、ということになりました。
というわけで、この作品は、新潟の創るつながるプロジェクトのメンバーでダンスユニットnamaの代表であるゆっぺさんが中心となってこの企画を進めてきたこと、そして新潟の安藤美和さん、坂田恭平さんが重要な出演者としてこの作品を担っていることから、6位にランクインさせました。
で、感想ですが、この公演を見たときに、こんなに面白いダンス公演を見たのは初めてだったんじゃないか!?ってくらい感動しました。
まず、舞台が始まったときに最初に登場するのが坂田くんで、坂田くんとは普通に友達なんですが、そんな坂田くんが舞台に登場し、照明を切り替え、独白から始まるのですが、その佇まい、言葉の一つ一つに、カ、カッコイイイイイイイ!!!!!!!!と一気に引き込まれてしまいました。
それから、どうやらこの作品は、ある目的で被験者と観察者が会場に集められ、その動向を観察する、というストーリーが存在しているようです。
そして会場がとても暗かったのですが、そんな会場を取り囲むように並べられた客席に実は最初から座っていた出演者たちが、一人また一人と立ち上がり、徐々にストーリーが進行していくのです。
客席の中から出演者がまさしく突然舞台に踊り出ていくのですが、それを見たとき、何だかもしかしたら自分も何かの間違いで立ち上がってしまったらどうしよう・・・みたいな謎の緊張感に包まれました。
そのあとも、出演者が観客一人一人の目を見ながら何かを訴えかけるような動きをするシーンもあり、その度に会場に緊張が走り、そしてその緊張が最後まで続きます。
ところで僕は2016年に平原慎太郎さんの「端堺」という作品も1月に見ており、それもすごく面白かったのですが、そこで感じたのは、平原慎太郎さんの作品は、人間と他人の境界とは何なのかを探っている作品のように思えたのです。
自分と他人の境界線がはっきり見えたり、時に曖昧になり、時に自分と他人の関係が入れ替わったりする、その不思議な世界にとても引き込まれたのですが、今回の「光の部屋」はそれのさらに先を見せ付けられたように思いました。
この作品は、観察者と被験者が存在する物語なんですが、見ていると観客である自分も観察者の一人に組み込まれているように感じ、さらに先ほど書いたように出演者が観客に訴えかける演出によって、まるで途中から本当は自分も被験者の一人になっているかのように思えてくるのです。
もちろん、出演者さんたちのダンスにもその構造は存在し、最初はおそらく観察者として設定されていたであろう坂田くんが順番に色んな出演者を文字通り「踊らせている」ように見えて、途中から坂田くんも「踊らされている」ように変化していくのです。
そしてこの公演を見ていると様々な短いシーンの積み重ねになっていることに気付き、その一つ一つのシーンもよく見ていると、「一人が踊ることで何かのアクションを起こす→他の誰かがそれに反応して踊りだすというリアクションを示す」というとてもシンプルな構造の積み重ねであることに気付かされるのです。
この「アクション→リアクション」を見ていると、それはまさしく我々が「ストーリー」と呼んでいるものの究極の形態だなあと思え、ダンス公演であえると同時に、一つの演劇としても楽しめたなあと思いました。
その、「人と人が反応しあうこと」そのこと自体が、実はとても感動的なことに思え、ああ、だからこそ人は演劇やダンスに感動するのか、もっと言えば、人間が生きることの本質をとらえた、一つの人間賛歌のように思えたのです。
それが究極的に感じられるラストシーンでは、美和さんを坂田くんが支えながら二人が歩き出す、という場面が描かれるのですが、それが徐々にダンスのようになっていって、ああ、ダンスってのは人と人が支えあって生きることの美しさを表現した本当に素晴らしいものなんだなあ、って心の底から感動してしまいました。
最後に、この作品は物語の設定上、会場のえんとつシアターというコンクリートや機材がむき出しの地下室であることや、時折外の騒音が聞こえてしまうことさえも、物語に効果的に機能していて、えんとつシアターをここまで有効活用した作品は初めてみたなあと思いました。
第5位
プロジェクトB@ZANTO『溶解ロケンロール』
はい、ここからいよいよベスト5!5位にはプロジェクトB@ZANTO『溶解ロケンロール』がランクインだぜヒャッハー!!!!
プロジェクトB@ZANTOさんは名前だけずっと知ってて、何でも昔からとんでもないハイテンションな演劇ばっかりやっているという噂だったのですが、予想のはるか斜め上を行くハチャメチャっぷりでした!
そして『溶解ロケンロール』という作品は大人計画の松尾スズキさんの戯曲で、僕はまったく知らなかったのですが、この公演を見て、よくもまあこんなにめちゃくちゃな話をやろうと思ったよ!そしてやりきったよ!って思いました。
ストーリーはめちゃくちゃ過ぎて説明しにくいのですが・・・とある国では離婚をするためにはとある町を訪れる必要があり色々な夫婦が訪れている、その夫婦を案内するホテルマンはかつてアンダーグラウンドで活動家をしていて悲しい恋をしていた、一方その町では一人の女の子を巡って二人の男がカヌーのデスレースが繰り広げられ一人が命を落とす、その町では年に一人だけ死者を蘇らせることが出来る儀式があった、女の子は死んだ男の子を蘇らせようとするが失敗して男の子がゾンビに、町の人々との逃走劇の果てに女の子の復讐劇が始まる、そんな町が突然溶け出すという大災害が発生し、最後には誰もかれもが溶けてなくなる、最期の時を迎えた人々はとにかく踊り狂うのであった・・・
・・・って、こんなどっから突っ込みを入れればいいのだ!?っていうストーリーなんですが、今思えばこれは様々な深刻な問題を抱えた人々が共存する世の中や、いつ発生するかわからない大災害を描いている、意外にも社会派な物語に思えなくもない・・・
・・・しかし、そんな難しい解釈をする前に、この演劇ではあらゆるシーン、あらゆる役者さんが全力でこのめちゃくちゃなストーリーを体現し、次から次へと登場するボケの数々を全力でボケ倒し続け、最終的には何もかもをぶっ飛ばすかの勢いで全力で踊り狂うという、その熱量、勢いに圧倒され続けるのです。
そして、僕が演劇を見ていて一番嬉しくなる展開である「何がやりたいんだよ!!!!」と思わず心の中で叫びたくなる展開ばかりが登場するという、とんでもなく多幸感に溢れまくった演劇だったのでした。
ちなみにこの演劇、松本から新潟に遊びに来た4人の友人たちと一緒に最前列で見たんですけど、いやー、仲間たちとキャッキャキャッキャ大爆笑しながらプロジェクトB@ZANTO『溶解ロケンロール』を見られたという体験は、もう最高に楽し過ぎました。
そして、先ほどの『再放送 島村てっぺい物語』でも書いたような、どう思われるかなんて知るか!俺はとにかくこれを全力でやるんだ!全力でボケまくるんだ!っていう演劇って、新潟ではなかなか出会えないので、そんな演劇をこんなベストな環境で見られたのは最高の思い出になりました。
松本のみんなにも、新潟のいい演劇を見てもらえて嬉しかったです。
第4位
劇団第二黎明期『Detective rhapsody 探偵の狂詩曲 ~もう一つのMay be blue~』
もともと僕は劇団第二黎明期のシダさんが大好きなんですが、今回はそんな黎明期の作品の中でも屈指の名作だったのではないでしょうか?
というか、最初に言っておきますが、革命的に面白い作品だと思っているので、テンション高めに感想を書いていきますよ!
まずですね、シダさんの共演者に名前が挙がっていた、Aiちゃんという女優なのですが、誰かと思ったらそれはなんとロボットのキャラクターであったという!
顔のついた炊飯器のような形態をしていたAiちゃんがお掃除ロボットのルンバのように動き回り、シダさんとなんと会話劇を繰り広げるのですが、それが非常に可愛く魅力的で、あとから知ったのですが自作したロボットで、ラジコンが仕込まれていて、声は海外にいる高橋景子さんに録音してもらったものをシーンに合わせて流していたそうです。
そんなAiちゃんの動きなんですが、実にコミカルでそれだけで面白い!舞台にAiちゃんが登場するだけでもう超面白い!そしてそこに人間であるシダさんの会話が加わることで、ロボットと人間という謎の違和感が完全にプラスに働いて、もう、超絶的に面白い!
もちろんシダさんの落着きながらも心の中にある葛藤や哀愁を時に見せる演劇ももう最高に素晴らしく、ロボットと人間がどっちがメインというわけでもなく、両方が主役級の活躍をしながら、ロボットと人間の会話劇というものを完全に成立させてしまった、これはもう、革命だと思います!
僕は見ていないのですが過去に平田オリザさんがロボットと人間の演劇を世界で初めて行ったという話を聞いたことがあるのですが、少なくとも新潟でそれをやった演劇はこれが初めてだと思いますし、文字通り新潟演劇の一つの革命となった演劇だと思います!
そして、タイトルにも名前が入っている過去作『May be blue』も本当に大好きな作品なんですが、今回はその魅力をまた違った方法で描き出してくれたなあと思いました。
『May be blue』は一人の妻を失った男性が女性のアンドロイドと暮らしながら、徐々にアンドロイドと人間の認識の違いから、「人間は大切な人の死をどう受け入れていくのか」という普遍的なテーマが浮かび上がる作品で、架空の設定の中から人間の本質を描き出すのはまさしく王道のSFのあるべき姿だなあと感動しました。
そして、今回の『Detective rhapsody 探偵の狂詩曲 ~もう一つのMay be blue~』も、妻を失った男がAiを雇うという設定も共通してるし、まさしく同じようなテーマが浮き彫りになっていくのです。
AIと人間、物事の考え方の構造がまったく異なった存在がコミュニケーションを取ることで、他社同士がコミュニケーションを取ることの大切さが浮かび上がり、徐々に相手の情報を記憶していくことで名コンビになっていくシダさんとAIちゃんの姿に、人間関係というものはお互いの膨大な記憶の蓄積の上にやっと成立しているのだということに気付かされます。
もうこの時点で一つのSFとして、そして新しい時代のバディものとして、最高に面白いのですが、さらにそこに加えて一つの演劇としてストーリーの面白さも用意されていて、最後にAiちゃんとの出会いによって気持ちが変化したシダさん演じる主人公が、妻の死と向き合い、そして死の真相に辿り着いたときに、しっかり感動できるような作りになっていたのです。
もう、あらゆる意味で抜かりないというか、設定と脚本、それをロボットで表現しようというアイディアと演出、演技、どこを取っても最高に素晴らしい演劇だったと思います!
最後に、この演劇の音響・照明オペをやりつつ、Aiちゃんというロボットの動き、声の操作を全て一人で裏から行っていた佐藤正志さんには、何か勝手に特別賞をプレゼントしたい気持ちがあります!
第3位
東区市民劇団座・未来『阿賀野の雪花 ~新版・王瀬の長者』(Bキャスト)
いよいよここからベスト3!第三位には大好きな東区市民劇団座・未来さんの『阿賀野の雪花 ~新版・王瀬の長者』がランクイン!
もともと僕は座・未来さんが大好きで、正直新潟の劇団の中で一番大好きなんですけど、何がそんなに好きかっていうと、どんな人でも演劇を楽しみたいっていう人なら参加できて、演劇を楽しむことが出来る、そしてその温かさが舞台からにじみ出ているところなんです。
それって、僕が演劇で一番大切だと思ってることなので、今までもこれからも座・未来さんのことは全力で応援していくし、そういう気持ちでずっと見ていくと思います。
だから正直、この劇団に関してはちょっとマイナスな点が作品にあったとしても評価が下がらなくて、寧ろよくぞここまで頑張った!って思ってしまうので、ぶっちゃけ、評価が甘くなってしまっている部分がある自覚はあるのですが・・・
・・・なんですけど、今回ついに「本当に素晴らしい!」と思える作品に出合ってしまった!しかも、今まで思っていた座・未来さんならではの魅力を100%発揮した上で、さらにそれを抜きにしてもこの時代の演劇、この新潟の演劇として、最高に素晴らしい大傑作に出会ってしまった!と思いました。
良かったところの一つ目、座・未来の演劇として素晴らしかった!
というのは、先ほども書いたように、座・未来の演劇をしたいという人の気持ちを最大限に尊重して、全員が一つの演劇を楽しみ、全員が一つの演劇の中で輝き、そして全員で一つの演劇を作り上げる!という魅力が、ここまで感じられたのは、この作品が一番だと思います!
色んな登場人物が登場するんですけど、それぞれにちゃんと見せ場があり、しかもそれが取って付けたような見せ場ではなく、ちゃんとストーリーに意味のある活躍の仕方をしている、そして主役脇役、出番の多さ少なさに関係なく、全員がちゃんと血の通ったキャラクターとして、物語の中で生きていた!
それは本当に、演劇を楽しみたくて集まったすべての人を大切にしてきた市民劇団だからできたことだと思うし、市民劇団の一つの理想だと思いました!
良かったところの二つ目、一つの演劇としてストーリーがよく出来ていた!
というわけで、先ほど書いたことと少しかぶるのですが、あらゆる登場人物が物語にとって無くてはならない存在で、無駄なシーンが一つもなく、そしてそんなシーンの全てが「次はどうなるんだろう?」と引き込まれる魅力に溢れていて、ド直球で王道の面白いエンターテインメントとして、ちゃんと成立していた!
そしてこの二つだけでももう最高なんですけど、さらに良かったこと三つ目、現代社会を生きる我々の問題をちゃんと描き出し、さらに勇気づける内容になっていたこと!
一応これは時代劇なんですが、物語には貧困や格差社会、家族の抱える問題と言った、現代を生きる我々にも完全に当てはまる社会問題がたくさん登場し、地続きの問題として我々に訴えかけてきていると感じました。
しかも、これは東区市民劇団として、新潟市の東区の歴史を踏まえて作られているので、歴史的にも地理的にも完全に地続きの問題となっているのです。
さらにクライマックスでは大水害が発生するのですが、これは完全に東日本大震災の津波を意識して書かれたということが伝わってきて、この現代を生きる我々のトラウマを刺激されてしまうのですが、決して目を背けてはいけない現実として描いているのです。
そして、そんな残酷すぎる現実を描きながらも最後にはちゃんと「それでも我々はここから生きていける」と希望を感じられるエンディングになっていて、演劇からものすごく勇気をもらいました。
さらに素晴らしいのは、そんな重いテーマをあくまでエンターテインメントの中で我々に伝えてきていることで、フィクションの中で現実を伝えるのは、演劇の、もっと言えばあらゆる表現活動、あらゆる芸術の持つ可能性に思えました。
そのように、現実の問題、特に震災の問題を伝えてくる演劇というのは、例えば2015年の「イシノマキにいた時間」のように県外の演劇では見たことがありましたが、ここまでのメッセージを新潟の団体が伝えてきた演劇を見たのは、僕はこれが初めてでした。
そんなすごいことを、プロでもなく、歴史ある劇団ではなく、あくまでアマチュアの集まりである市民劇団が成し遂げたのは、快挙と言わずして何と言うか!という気持ちです。
そして、そして、そんな素晴らしい演劇の脚本を書いたのが、プロの作家さんではなく、あくまでアマチュアとしてずっと東区市民劇団を一人の制作としてあくまで裏方として支え続けてきた近藤尚子さんである!というのが、もう本当にすごいことだと思います!近藤さんには何か勝手に特別賞を与えたいところです!
第2位
ひまわりステップ実行委員会『ひまわりステップ』
2位は、さくらもみぢさんが企画した『ひまわりステップ』です。
さくらもみぢさんは、「ちひろともみぢの新潟演劇人トーーク!」の相方であり、ソウルメイトであるので、身内を贔屓しているのかと思われるかも知れませんが、身内だからこそ分かるこの演劇の本当の素晴らしさもあると思うし、それを抜きにしても僕は感動したと思うので、そもそもこれは僕が独断と偏見で選んだベスト10なので、2位にランクインさせました。
まず、この演劇の良かったところどうこうの前に、僕はこの演劇がちゃんと上演に漕ぎ着けられたことそのものに、本当に感動しているんです。
と言うのも、さくらもみぢさんがこの演劇の企画を思い付いたのはなんと2年前で、そこからタイトルが「ひまわりステップ」になって脚本が昼町夜村さんになったのが1年前で、そこから一つの演劇をプロデュースするなんていう経験がまったくない状態から、出演者さん、スタッフさん、そして詳しくは後述しますがミュージシャン!を少しずつ少しずつ集めて、しかも主題歌も自分で作詞作曲して、手探りで色んな試行錯誤を繰り返した末に、この作品の上演に漕ぎ着けたということを、僕はリアルタイムで彼女を見て知っているのです。
しかも、そんなに長い時間をかけて、その期間に色々うまくいかないこともあっただろうけど、それでもまったく芯がぶれることなく、上演まで辿り着いた、これって本当に感動的なことだと思うのです。
もう本当に、人間が演劇をやろうって思い立って、それが形になることが、それだけで本当に感動的なことなんだよなあ!ってことをここまで感じた演劇は、人生でこれが一番な気がします。
だから正直、本番が始まる前からすでに、会場にお客さんが入って、そしてもんちゃんが舞台挨拶をしてる、その時点で僕はもうかなり感動していたことを正直に言っておきます。
しかも、そこまでの思いをして作り上げた演劇の上演が、カルチャーMIXフェスタ、N-Art Communicationでのたった一回きりで、もうこの一回きりの舞台が本当に成功してくれー!と、祈るような気持ちで開演を待ち、ここまでの気持ちにさせる演劇に出会ったことも、これが初めてでした。
そんな気持ちで見た「ひまわりステップ」ですが、三人組のアイドルグループが解散するまでを淡々と描いたとても静かな物語でした。正直、少し地味なくらいだと思います。
けれど、確かにそんな地味な物語ではあるんですけど、あらゆるシーン、あらゆる演出のすべてが丁寧に作りこまれていて、僕が大好きな「手作りの温かさ」に溢れた、本当に素敵な宝物のような演劇でした。
さらにその感動を盛り上げるのが音楽なんですけど、舞台の後ろにはキーボード、シンセサイザー、パーカッション、ベース(リズム隊!YMOじゃん!)という4つの楽器の演奏隊が常駐し(ベーシストの大輔さんだけはなんと役者もこなす!)、演劇の後ろで生演奏を披露しているのです!
まずもんちゃんが音楽を自作した時点でも感動的なのに、さらに生演奏の感動によって、手作りの温かみが格段に増していて、きっと作曲なんて初挑戦だったもんちゃんはミュージシャンのみなさんと少しずつ協力し合いながらこの音楽を作り上げたんだなあってちょっと泣きそうでしたよマジで!
しかもその音楽というのが、本当に一曲一曲がこの演劇の一つ一つのシーンに欠かせない存在となっており、本当にもんちゃんが心を込めて作ったんだろうなあ・・・って感じられましたし、音楽が目立ちすぎるわけでもなければ取って付けたような音楽でもない、本当に演劇と音楽がともに素晴らしさを高め合っているようで、ずっともんちゃんが言っていた「私は音楽劇がやりたい」って言っていた夢が、ああ、もんちゃんのその夢、叶ってるよ!ちゃんと叶ってるよ!って、やっぱり泣きそうでした。
ストーリーは、先ほど書いたようにアイドルグループの活躍から解散までをライブも少しだけ交えながら淡々と描いているのですが、一番印象的だったのは、そのグループが解散したあとをそれまでは狂言回し的な脇役だったキャラクターたちがモノローグで語るシーンです。
物語内ではアイドルの女の子たちがそれぞれ生きた人間として、アイドルの裏事情なんかも交えつつ描かれていくのですが、最後の最後はモノローグでさらっと終わるのです。
それを見ながら僕は、アイドルが好きな一人として、ああアイドルっていつかは終わってしまう儚い存在なんだなあと思いながらも、同時に、これこそアイドルを愛するという気持ちなのかもなって感じた部分がありました。
というのも、もし自分が本気で愛しているアイドルが解散したら、それを僕は本人たちから知るわけではなく、必ず人づてに聞くはずなのですが、それでもきっと、ああ、もう会うこともなくなったあの子たちはどこかで幸せに生きていってほしいなあ、って祈ると思うのでしょうし、こうやって決して直接会うことのできない誰かの幸せを本気で願うことこそ、アイドルを愛することの本質だと思ったのです。
そしてさらに素晴らしいのが、こうして解散後もどこかで頑張って生きているであろうアイドルをモノローグで表現するこの物語が伝えているものは、きっと、アイドルの本質だけではなく、人間の人生そのものではないかと思うのです。
つまり、この演劇のように、人生にはいいことも悪いこともある、どうしていいのか分からないこともある、それでも、人生というものは淡々と続いていくのだ、という普遍的なテーマを表現した、ある意味この演劇は一つの人間賛歌になっていたと思うのです。
そしてそれは、この演劇を作り上げたもんちゃんの人生ともリンクしているようにさえ思うのです。
というわけで、長々感想を書いてきましたが、言っちゃえばこの演劇、このベスト10のどれよりも地味な作品だと思いますよ。
でも、時間と手間と気持ちを込めて一つずつ作り上げていけば、これだけの素晴らしいものを達成できるんだ、という、本当に希望に満ちた演劇だったと思います!もんちゃんにも何か勝手に特別賞を上げたいです。
第1位
KURITAカンパニー『曼珠沙華 -越後瞽女がゆく-』
というわけで、栄えある第一位は、KURITAカンパニー『曼珠沙華 -越後瞽女がゆく-』でした。
この演劇は、上越地区に実際に存在した越後瞽女の人々の生活や、山を越えて長野県にまで仕事に出かけていく様子、そしてそんな旅の中で出会った人々と織りなす、実際にあったのではないかと思われる物語を、淡々と描いていきます。
まず、この越後瞽女という、目が見えないけれど歌を歌うことで生計を立てているという、本当に実在した人々を演じる役者さんたちが、もう本当にそういう人にしか見えないという丁寧に作りこまれた演技だけでも見る価値があったなと思います。
また台詞や演出の一つ一つも素晴らしく、例えば明かりに手をかざして「あったかい」という台詞(「明るい」ではない!)や、目の見える人に星や月の美しさを問うシーンなど、本当に、愛を持って越後瞽女という人々の演劇を作っているんだなあと感じられました。
そして、そんな越後瞽女という人々を、決していわゆる感動ポルノのような「可哀想な存在」として描くのではなく、一日一日を精一杯生きている「気高い存在」として描いていて、「障害」というものの描き方としてこれ以上なく愛と経緯に溢れたものだったと思います。
またこの演劇の舞台背景は戦時中で、とても貧しい時代であること、さらに実際に憲兵や出征していく若者も登場し、戦争というものの、戦争が実際に行われている時代の残酷さも随所から感じられました。
でもこの演劇の素晴らしいところは、そんな越後瞽女の生活も戦争の恐ろしさも、変に誇張するのではなく、あくまで全てを丁寧に淡々と描いていて、これは映画「この世界の片隅に」にも通じる魅力だと言っても過言ではないと思います。
そしてそんな物語を見ていたら、決して平和とは言えない時代に、決して裕福とは言えない立場の人が、それでも一日一日を必死に生き抜いてきたんだなあ・・・そしてそれがこの国の歴史を作ってきたんだなあ・・・と感じられ、僕はこの演劇から本当に生きる勇気をもらったのです。
で、ここからは演劇の内容とは直接関係がないかもしれない、極めて個人的な僕の気持ちなんですが、この演劇をン見た日というのは、トランプ氏が次期アメリカ大統領に当選した日だったのです。
トランプ政権の是非は、今は問題にはしませんが、演劇を見る前、僕はこのニュースを見て、一体この世の中はこの先どうなっていってしまうのだろうか・・・ととても不安になったのです。
とても個人的なことですが、それが良いことなのか悪いことなのかは関係なく、世の中がとても大きく動くとき、僕はいつも必ずものすごい情緒不安定に襲われてしまうのです。
そんな精神状態でこの演劇を見たのですが・・・演劇を見終わったとき、僕のその不安は消えていました。
どんな時代になっても、毎日の生活を大切に、自分を、出会いを大切にして、一日一日を精一杯生きていくこと、それが人間にとって一番大切な道であると、僕は心の底から生きていく勇気をもらったのです。
本当に、こんなにも一つの演劇から生きる勇気をもらったことは、これが初めての体験で、本当に心からこの演劇に感謝したくなりました。
というわけで、そんな自分の人生の背中を優しく押してくれたこの演劇との素晴らしい出会いに感謝して、このKURITAカンパニー『曼珠沙華 -越後瞽女がゆく-』という演劇を、2016年の1位にしたいと思います!
以上、ちひろの2016年演劇ベスト10(新潟県内編)でした。
ちなみに、もみぢの2016年演劇ベスト10(新潟県内編)は以下の通り・・・
1位 劇団ひまわり新潟エクステンションスタジオ青年部・研修クラス『フォーティンブラス』
2位 魚沼産☆夢ひかり 10周年感謝記念公演『サラとベイシラマナの森』(再演)
3位 ダンス公演『光の部屋』
4位 島村哲平『再放送 島村てっぺい物語』
5位 踊れ!!聖籠IZANAI海祭り実行委員会 スペシャル舞台『70年の祈り ~幸福の連鎖~』
6位 江南区演劇公演実行委員会『親の顔が見たい』
7位 劇団第二黎明期『Detective rhapsody 探偵の狂詩曲 ~もう一つのMay be blue~』
8位 みっくすじゅ~す倶楽部 10周年記念公演『カベの向こうに忘れもの』(再演)
9位 KURITAカンパニー 創立10周年記念公演『曼珠沙華 -越後瞽女がゆく-』
もみぢが2016年に観た舞台一覧は、こちらからご覧ください。
「もみぢが今年観て来た作品一覧」
この放送の中では、ちひろともみぢが2016年に観た映画と演劇を振り返って、それぞれランキングを決めるという企画を行いました。
こちらからご覧ください。
「新潟演劇人トーーク!年末特別公開放送を行いました!ちひろともみぢの映画&演劇ランキングを発表!」
一体誰がこんな放送見てるんだ!?っていう放送にもかかわらず、ちひろともみぢが無駄に映画と演劇のランキングを悩んで発表しています。
USTRAMのアーカイブはやがて消えてしまうわけですが、せっかくこんなに頑張って考えたランキングなのだから、ブログにもちゃんと記録を残しておこうと思います!
ちなみに、ちひろが2016年に観た映画と舞台の一覧はこちらです!
「2016年にちひろが観た舞台&映画一覧を公開します。」
そして、2016年に観た映画のランキングはこちらです。
「ちひろの2016年映画ベスト10まとめました。」
という訳で、いよいよちひろの2016年演劇ベスト10を発表していこうと思います!
演劇だけでなく、コント・ダンスなどを合わせた舞台作品を、2016年は合計72作品も観ていました!
おそらく過去最多かと思われるのですが、あまりに多いので、ベスト10しか発表しないのは勿体ない!
という訳で、2016年の演劇ベスト10とは、「新潟県外編」「新潟県内編」に分けて発表することにしました。
新潟県外/県内の境界線はどうするか、ということはもみぢと協議した結果こうなりました。
新潟県内の定義を「新潟の団体または個人が中心となって、新潟の出演者が舞台作りにちゃんと関わってて、新潟県内で上演された作品」とし、それ以外のものを新潟県外の作品とすることにしました。
例えば、ダンス公演「光の部屋」は県外の平原慎太郎さんが演出しているけれど新潟のゆっぺさんが主体となって企画していて新潟の出演者もちゃんと活躍しているので新潟県内編に入れます。
また、例えばDULL-COLORED POPの「演劇」は新潟で公演していて新潟から大井南さんも出演してちゃんと活躍しているけど、主体はあくまで東京のDULL-COLORED POPという劇団および谷賢一さんである、となります。
まあ、そこらへんの判断基準はややこしいしツッコミどころもあるかも知れませんが、ちひろともみぢの中ではそういうことになったので、よろしくお願いします!
はい、という訳で、ここまでが長い前置きなので、いよいよ本編に入っていきましょう!(ここまで一つ前の「新潟県外編」の記事と同じ)
はい、ここからいよいよ、ちひろの2016年演劇ベスト10(新潟県内編)を始めていこうと思います!
写真はチラシを持ってるものだけ並べてみたのですが、観たものはこれ以外にもあります。
ちなみに、ちひろが2016年に観た新潟県内の舞台は、全部で44作品でした!
その中で何がランクインするのか、それでは発表していきます!
第10位
Noism1、Noism2 劇的舞踊『CARMEN』再演
えー、僕はもともとNoismが好きで、2015年の新潟演劇ベスト10ではNoism1『箱入り娘』が1位だったくらいなんですけど、今年はNoism1、Nism2の劇的舞踊が10位にランクインです。
Noismの作品の好きなところは、やっぱりその圧倒的な舞踊、体の動きによって、言葉が無くても登場人物の気持ちやストーリーが強く伝わってくるところで、いかに普段の我々が言葉に頼っているかが分かると同時に、言葉がなくてもこんなに人間はこんなに色んなことを伝えることが出来るのか!という、人間の可能性の限界みたいなものに気付かされます。
特に今回の『CARMEN』は劇的舞踊と銘打っているように、物語を舞踊によって表現するという試みなので、こんなん絶対面白いに決まってるやつだろ!と見る前から期待して観に行ったら、やっぱりめちゃくちゃ面白かったという。
オープニングはダンスかと思いきや、普通に台詞のある静かな演劇っぽく始まるんですよね。それで、あれ、いつもと違うのかな・・・と思わせつつ、一人の人物の独白の回想という形をとって、少しずつ物語が始まっていく。
物語が始まると、いよいよダンスか・・・!?と思わせておいて、今度は幕の前に置かれた小さなスクリーンに投影された人間の影のダンスと、その前後で実際に踊る人間のダンスがユニゾンするという、ちょっと技巧的な演出によって、物語が進んでいく。
ここまでの時点で、素直に「すごいなー」と感心すると同時に、「とは言え、やっぱりNoismなんだからみんなで踊る派手なやつが観たいよなー!Noismさんそろそろお願いしますよ!」という気持ち徐々に高まって高まっていったところで・・・ついに物語のメインである、ヒロインのカルメンとドン・ホセとの出会いへと進行していく・・・!!
するとその時、後ろにずっと張ってあった大きい幕が開く!それと同時に、カルメンのあの有名な主題歌が流れ出す!そして物語の舞台となる町の人々を演じる大勢にダンサー達が音楽に合わせて踊り出す!というこのシーンの「キタァァァァァァァァ!!!!」って」いう圧倒的な高揚感!これぞ劇的舞踊!って感じで最高にテンションがアガりました!
それから先は台詞による表現がほとんどなくなり、カルメンとドン・ホセ、そして町の人々を巡る様々な物語がドタバタと続いていくのですが、ダンサーさんたちの様々な身体表現によって言葉はなくてもストーリーはものすごく分かりやすく伝わってくるし、寧ろ言葉以上のあらゆる「面白さ」を次から次へと見せ付けられるという情報量の多さでまるでジェットコースターのように最後まで突き進む、本当に「ああ!舞台って楽しいー!」っていう高揚感に溢れた幸せな時間でした。
初演が観られていなかったので、再演でようやく観られて良かったなあっていう舞台でした。
という訳で、2015年では1位だったNoismが2016年は10位という始まり方をした今回のランキング、この先一体どんな作品が入ってくるのか・・・?
第9位
島村哲平『再放送 島村てっぺい物語』
島村てっぺい物語とは、島村哲平さんの人生を演劇にしようという試みで、このシリーズは、もともと2014年に完全に関係者だけに限定した「島村てっぺい物語」という作品を上演していたのですが、今回は普通にお金を取ってお客さんを招き入れる一つの演劇として披露されました。
前回の「島村てっぺい物語」が島村哲平さんが新潟で演劇を始まるまでの物語だったに続き、今回は島村哲平さんのその後の人生が描かれ、今となっては知る人ぞ知る過去に一度だけ行っていた束の間の結婚生活が描かれます。
まず、僕がこの演劇の好きなところは、何と言っても島村哲平さんという方の人生を一つの演劇、一つのエンターテインメントにしてしまおうという試みがすごく面白いなあっていうことです。
ちょっと真面目な話をすると、僕は脚本家にせよ役者にせよ、演劇を作る人達が、その演劇と、そして自分自身と真っ直ぐに向き合い、自分たちが面白いと思ったこと、やりたいことを素直に舞台にさらけ出す、そういう演劇こそが魅力的だと思うのです。
必要以上に格好付けたり、自分をよく見せたりするのではなく、自分たちの中にある格好いい部分も格好悪い部分も、そのまま舞台にさらけ出してしまう、そういう演劇に出会うと、今自分は演劇を見ながらその演劇を作っている人達と出会っている!そして、もっとこの演劇と友達となりたい!という気持ちに僕はなって、それこそが演劇の喜びだと思うのです。
そう考えると、島村哲平さんという一人の人間が、自分の人生で体験してきた格好悪い過去をそのまま脚本にしてしまい、それを一つのエンターテインメントに仕上げてしまう、それってまさしく自分が好きな演劇の一つなのではないかなと思うのです。
本当に、えっ、そんな普通の人なら出来れば人には言わないで秘密にしておきたいような恥ずかしい過去を、よくもまあ演劇なんてものにしてしまったよ!っていう島村哲平さんはすごく面白い演劇人だと思うし、そして同時に変態だなあ、ある意味での露出狂だなあと思うのですが、まあそれもそれで島村哲平さんの魅力になっていると思います。
また、僕は普段から、どんなに面白い演劇も一人の人間の人生の面白さにはかなわないと思っているのですが、この島村てっぺうい物語を見ていると、本当にえっ、これが本当に実話なの!?ってくらい波乱に満ちていて、まさしくどんな演劇よりも面白い人生を、あくまで演劇というフィルターを通して見ているんだなあと思えて、それがすごく面白かったです。
それに加えて、そんな波乱に満ちた人生を描いた演劇の中に、次から次へと畳みかけるように登場するハイテンションなギャグの数々にも本当に笑いましたし、そんな演劇に出演している役者さんの一人一人が、本当に全力で全開で舞台上で演技をしたりボケたりしているのが、本当に爽快でした。
こういう、何が何でもやりたいことを全力でやりまくる、そして全力でボケまくる、みたいな演劇こそが僕は本当に大好きなんですが、(BLUESがそうですね)実はそういう演劇って新潟ではなかなか出会ったことがあまりなかったので、そういうタイプの演劇に新潟で出会えた喜びというのが本当に嬉しかったです。
どんなに技術があっても格好悪いと思われるのを恐れて変にかしこまったりしてしまう演劇よりも、こういう上手いとか下手とかなんて関係ない!俺はやりたいこいとをやるんだ!っていう演劇の方がずっと魅力的だなあと僕は思います。
さらに、会場が鳥の歌だったんですが、開演中に島村哲平さんが手作りの料理を観客に振る舞ったり、上演中の写真撮影がOKだったりと、そういう過剰なサービス精神も、この作品の魅力になっていたなあと思います。
第8位
江南区演劇公演実行委員会『親の顔が見たい』
青森で高校教師をやりながら渡辺源四郎商店という劇団を主宰している畑澤聖悟さんの戯曲を、港南区演劇公演実行委員会さんが上演したものです。
結構有名な戯曲らしいのですが、僕は初めて知りまして、いやー、よくこんないい演劇を見つけてきたなあ!って思いました。
物語は、ある高校に5人の子供の保護者が集められ、何やら教員から神妙な話を始める、実はこの日にこの学校で一人の生徒が自殺をしていて、その遺書には自殺した生徒をいじめていたらしい5人の生徒の名前が書かれていた、そして、その5人の生徒の保護者がこの日学校に集められていた、というものです。
物語が進行するに従って、自殺した生徒よりも自分の生徒を守ろうとする保護者の思惑が暴走を始め、それに困惑する学校の教員たちとの会話劇が長く続くのですが、徐々に自殺した生徒の生前を知る人物や、自殺した生徒の母親なども訪れ、少しずつ、真相とおぼしきものが浮かび上がっていく、という運びになっており、まずこの会話劇だけで進行していくストーリー展開に、いやー、本当によくできた戯曲だなあ!って関心しました。
それと同時に、物語の進行に従って、いじめをはじめとした、おそらく悲しいことに現在も日本中で行われいるであろう、子供たちの生きる世界に存在する様々な問題、人間の抱える負の部分、世の中の闇みたいなものが次々と浮彫になっていき、おそらくこの演劇は高校教師である作者が、すべての子供(特に思春期の)と大人に向けて、自分たちが生きているこの現実について、そして人が生きること、死ぬことを考えてもらうために書いた戯曲なのではないかなあと思いました。
このタイプの戯曲は、場所や団体を超えて多くの人が演じ、多くの人が見ることにこそ意味があると僕は思うので、そういう意味で、この戯曲を新潟で上演した港南区演劇公演実行委員会の皆さんは、よくぞこの決断をしたなあと思いました。
また、出演している役者さんたちも、それだけの演劇をやっているのだ、人が一人亡くなっている演劇を自分たちはやっているんだ!という気迫を感じたというか、とても真摯にこの演劇に向き合っている感じがして、それにはとても好感を持ちました。
そして、それら今まで書いてきたようなこの演劇の魅力以上に、僕は決定的にこの演劇を評価したい理由というのは、実はものすごく個人的なところにあるんですけれど、いじめが一つのテーマである演劇を見ていたら、ふと演劇の内容とは全然関係のない自分自身に対する疑問が浮かんだのです。
それは、「自分は今、いじめ問題とは無関係な顔をして演劇を見ている。しかし、本当はどうだろう?自分もいじめの被害者だったこと、そして加害者だったことがあるのではないか?」ということです。
そして、演劇を見ながら、色々思い出してしまったのです、小中学生の時にいじめられていたこと、さらに、それより前、保育園の時に、おそらく自分もいじめに加担していたということ・・・
いじめられていたことを思い出すことは今まで度々ありましたが、自分がいじめに加担していたことを思い出してしまったのは、こういう言い方は都合がよすぎるかもしれませんが、正直ショックでした。
さらに思い出したのは、保育園の時に、一人の女の子をみんながいじめていると知ったときに、僕の母がその子の家族に謝りに行ったことがあって、それから母が幼かった自分に、こういうことは絶対にやってはいけないんだと話してきたのです。
おそらく、当時の自分はまだ母の言葉を理解していなかったと思いますが、それから現在に至るまでの人生で、自分は絶対にいじめには加担しないと心に決めているのは、もしかしたらその母の言葉があったからなのではないかと思うのです。
そういう、自分の人生でとても大切な絶対に忘れてはいけないことを、この演劇がきっかけで思い出すまで僕はすっかり忘れていて、そのことが恥ずかしくなったり、思い出したことで二十数年分の申し訳なさに襲われたりして、ただでさえショッキングな演劇を見ながら、もう自分の頭の中はグチャグチャになってしまったのですが、それもこれも、この演劇に出会わなければもしかしたら一生忘れていたことかも知れないのです。
そう考えたら、自分はこの演劇に出会えたことに本当に感謝しなければいけないなあと思いました。
この演劇に携わった皆さん、本当にお疲れさまでした、そして、ありがとうございました。
第7位
みっくすじゅ~す倶楽部『カベの向こうに忘れもの』
みっくすじゅ~す倶楽部さんは新潟のアマチュア劇団で、結構好きな劇団なんですが、これは僕がみっくすじゅ~す倶楽部と出会う前の作品の再演らしいです。
率直に言って、僕が今まで見てきたみっくすじゅ~す倶楽部の作品の中でも群を抜いて面白かったと思います!
脚本、そして演出、演技、あらゆる部分に、演劇というものの面白さが詰まったとても魅力的な作品だったと思います。
物語は、老人ホームの一人の老人の一人が老人ホームを抜け出そうと突然言い出して、老人たちが集まってみんなで抜け出す話と、それを阻止しようとする職員たちの物語が、ドタバタコメディタッチで描かれます。
まず、すべての老人と職員(一人は親族)が一人二役で演じられるのですが、さっきまで職員だった人達が今度は老人で登場するという、この遊び心にあふれた演出が、ああ、演劇だからできる面白さ!って思って、とても引き込まれました。
役者さんたちの演劇もとても生き生きとしていて、特に老人役を演じている時の皆さんが本当に老人になりきることを楽しんで演じているんだなあー!ってのが伝わってきて、それが劇中で子供みたいに施設を抜け出すことを企てる老人たちのワクワク感とリンクして、見ていてとても楽しかったです。
さらにストーリーもとてもよく出来ていて、実は一人のずっとボケていた山ちゃん演じるおじいさんは実は子供の時に初恋の幼馴染との約束を果たすために施設を抜け出そうとしていたという切ない物語が徐々に明らかになってきて、しかもその相手のことをずっと忘れていたんだけれど、実はそれは同じ施設の花野さん演じるおばあさんだった、と、ドラマティックに物語は展開していきます。
最後に、おじいさんはずっと忘れていた気持ちを思い出すんですけど、でもおばあさんにその気持ちを伝えることは出来ずに、代わりに孫を若いときのおばあさんだと勘違いしてずっと忘れていた数十年前の気持ちを打ち明ける、という、クライマックスがあり、何でしょうね、大切な気持ちを思い出した喜び、だけど本人には伝わらない切なさ、だけどやっぱりそれを言葉にできたおじいさんは幸せなのかな・・・という、一言では言い表せない深い感動がありました。
ちなみに、おじいさんが若いときのおばあさんと間違って気持ちを伝えてしまう孫を演じた花野さんは、そのおばあさんと一人二役だったことも、この、伝わってるようで伝わっていない切なさを非常に際立てていたと思います。
そしてそのさらに最後の最後、気持ちを言葉にしたおじいさんは再びボケた状態に戻ってしまい、その横にそっとおばあさんが座る、そこでしばらく二人の無言のシーンが続き、ゆっくりとそのまま暗転していって、物語が終わるんですけど、この終わり方、本当に最高だと思います!
あ、ちゃんと伝わったのかな・・・二人は幸せなのかな・・・伝わっているといいな・・・幸せだといいな・・・っていう、二人の気持ちやその後の展開を思わず想像してしまうような、深い余韻があり、何かと台詞で何でもかんでも説明してしまいがちな演劇の多い中、言葉を使わないからこそ伝わる感動、観客の創造力を働かせる余地、を大切にした、本当に名シーンだったと思います。
最後に、アマチュア演劇って友達が出てるからみたいな軽い気持ちで見に行くことが僕は多いのですが、そういう演劇でこういういい作品に出会うと、プロの演劇などでは味わえないような嬉しさというか、感動がありますよね。
何ていうか、新潟のアマチュア演劇だって全然いけるじゃん!っていう可能性さえも感じる、本当に素晴らしい演劇だったと思います!いやー、いい演劇だったなー!
第6位
ダンス公演『光の部屋』
えーと、この作品がこの新潟演劇ベスト10にランクインしているのは意外かもしれません。
まず、演劇じゃなくてダンス公演じゃないか!っていう問題ですけど、もみぢと話し合った結果、このベスト10はダンス公演も演劇と同様に対象作品とすることにしました。
そしてもう一つ、これは平原慎太郎さんという東京で活躍されているダンサーさんが演出を手掛けられた作品なので、新潟の作品に加えてよいのかという問題ですが、これももみぢと話し合った結果、新潟の人間が中心となって上演されたものであること、そして新潟の人間がクリエーションに参加しているならば、対象作品としてよい、ということになりました。
というわけで、この作品は、新潟の創るつながるプロジェクトのメンバーでダンスユニットnamaの代表であるゆっぺさんが中心となってこの企画を進めてきたこと、そして新潟の安藤美和さん、坂田恭平さんが重要な出演者としてこの作品を担っていることから、6位にランクインさせました。
で、感想ですが、この公演を見たときに、こんなに面白いダンス公演を見たのは初めてだったんじゃないか!?ってくらい感動しました。
まず、舞台が始まったときに最初に登場するのが坂田くんで、坂田くんとは普通に友達なんですが、そんな坂田くんが舞台に登場し、照明を切り替え、独白から始まるのですが、その佇まい、言葉の一つ一つに、カ、カッコイイイイイイイ!!!!!!!!と一気に引き込まれてしまいました。
それから、どうやらこの作品は、ある目的で被験者と観察者が会場に集められ、その動向を観察する、というストーリーが存在しているようです。
そして会場がとても暗かったのですが、そんな会場を取り囲むように並べられた客席に実は最初から座っていた出演者たちが、一人また一人と立ち上がり、徐々にストーリーが進行していくのです。
客席の中から出演者がまさしく突然舞台に踊り出ていくのですが、それを見たとき、何だかもしかしたら自分も何かの間違いで立ち上がってしまったらどうしよう・・・みたいな謎の緊張感に包まれました。
そのあとも、出演者が観客一人一人の目を見ながら何かを訴えかけるような動きをするシーンもあり、その度に会場に緊張が走り、そしてその緊張が最後まで続きます。
ところで僕は2016年に平原慎太郎さんの「端堺」という作品も1月に見ており、それもすごく面白かったのですが、そこで感じたのは、平原慎太郎さんの作品は、人間と他人の境界とは何なのかを探っている作品のように思えたのです。
自分と他人の境界線がはっきり見えたり、時に曖昧になり、時に自分と他人の関係が入れ替わったりする、その不思議な世界にとても引き込まれたのですが、今回の「光の部屋」はそれのさらに先を見せ付けられたように思いました。
この作品は、観察者と被験者が存在する物語なんですが、見ていると観客である自分も観察者の一人に組み込まれているように感じ、さらに先ほど書いたように出演者が観客に訴えかける演出によって、まるで途中から本当は自分も被験者の一人になっているかのように思えてくるのです。
もちろん、出演者さんたちのダンスにもその構造は存在し、最初はおそらく観察者として設定されていたであろう坂田くんが順番に色んな出演者を文字通り「踊らせている」ように見えて、途中から坂田くんも「踊らされている」ように変化していくのです。
そしてこの公演を見ていると様々な短いシーンの積み重ねになっていることに気付き、その一つ一つのシーンもよく見ていると、「一人が踊ることで何かのアクションを起こす→他の誰かがそれに反応して踊りだすというリアクションを示す」というとてもシンプルな構造の積み重ねであることに気付かされるのです。
この「アクション→リアクション」を見ていると、それはまさしく我々が「ストーリー」と呼んでいるものの究極の形態だなあと思え、ダンス公演であえると同時に、一つの演劇としても楽しめたなあと思いました。
その、「人と人が反応しあうこと」そのこと自体が、実はとても感動的なことに思え、ああ、だからこそ人は演劇やダンスに感動するのか、もっと言えば、人間が生きることの本質をとらえた、一つの人間賛歌のように思えたのです。
それが究極的に感じられるラストシーンでは、美和さんを坂田くんが支えながら二人が歩き出す、という場面が描かれるのですが、それが徐々にダンスのようになっていって、ああ、ダンスってのは人と人が支えあって生きることの美しさを表現した本当に素晴らしいものなんだなあ、って心の底から感動してしまいました。
最後に、この作品は物語の設定上、会場のえんとつシアターというコンクリートや機材がむき出しの地下室であることや、時折外の騒音が聞こえてしまうことさえも、物語に効果的に機能していて、えんとつシアターをここまで有効活用した作品は初めてみたなあと思いました。
第5位
プロジェクトB@ZANTO『溶解ロケンロール』
はい、ここからいよいよベスト5!5位にはプロジェクトB@ZANTO『溶解ロケンロール』がランクインだぜヒャッハー!!!!
プロジェクトB@ZANTOさんは名前だけずっと知ってて、何でも昔からとんでもないハイテンションな演劇ばっかりやっているという噂だったのですが、予想のはるか斜め上を行くハチャメチャっぷりでした!
そして『溶解ロケンロール』という作品は大人計画の松尾スズキさんの戯曲で、僕はまったく知らなかったのですが、この公演を見て、よくもまあこんなにめちゃくちゃな話をやろうと思ったよ!そしてやりきったよ!って思いました。
ストーリーはめちゃくちゃ過ぎて説明しにくいのですが・・・とある国では離婚をするためにはとある町を訪れる必要があり色々な夫婦が訪れている、その夫婦を案内するホテルマンはかつてアンダーグラウンドで活動家をしていて悲しい恋をしていた、一方その町では一人の女の子を巡って二人の男がカヌーのデスレースが繰り広げられ一人が命を落とす、その町では年に一人だけ死者を蘇らせることが出来る儀式があった、女の子は死んだ男の子を蘇らせようとするが失敗して男の子がゾンビに、町の人々との逃走劇の果てに女の子の復讐劇が始まる、そんな町が突然溶け出すという大災害が発生し、最後には誰もかれもが溶けてなくなる、最期の時を迎えた人々はとにかく踊り狂うのであった・・・
・・・って、こんなどっから突っ込みを入れればいいのだ!?っていうストーリーなんですが、今思えばこれは様々な深刻な問題を抱えた人々が共存する世の中や、いつ発生するかわからない大災害を描いている、意外にも社会派な物語に思えなくもない・・・
・・・しかし、そんな難しい解釈をする前に、この演劇ではあらゆるシーン、あらゆる役者さんが全力でこのめちゃくちゃなストーリーを体現し、次から次へと登場するボケの数々を全力でボケ倒し続け、最終的には何もかもをぶっ飛ばすかの勢いで全力で踊り狂うという、その熱量、勢いに圧倒され続けるのです。
そして、僕が演劇を見ていて一番嬉しくなる展開である「何がやりたいんだよ!!!!」と思わず心の中で叫びたくなる展開ばかりが登場するという、とんでもなく多幸感に溢れまくった演劇だったのでした。
ちなみにこの演劇、松本から新潟に遊びに来た4人の友人たちと一緒に最前列で見たんですけど、いやー、仲間たちとキャッキャキャッキャ大爆笑しながらプロジェクトB@ZANTO『溶解ロケンロール』を見られたという体験は、もう最高に楽し過ぎました。
そして、先ほどの『再放送 島村てっぺい物語』でも書いたような、どう思われるかなんて知るか!俺はとにかくこれを全力でやるんだ!全力でボケまくるんだ!っていう演劇って、新潟ではなかなか出会えないので、そんな演劇をこんなベストな環境で見られたのは最高の思い出になりました。
松本のみんなにも、新潟のいい演劇を見てもらえて嬉しかったです。
第4位
劇団第二黎明期『Detective rhapsody 探偵の狂詩曲 ~もう一つのMay be blue~』
もともと僕は劇団第二黎明期のシダさんが大好きなんですが、今回はそんな黎明期の作品の中でも屈指の名作だったのではないでしょうか?
というか、最初に言っておきますが、革命的に面白い作品だと思っているので、テンション高めに感想を書いていきますよ!
まずですね、シダさんの共演者に名前が挙がっていた、Aiちゃんという女優なのですが、誰かと思ったらそれはなんとロボットのキャラクターであったという!
顔のついた炊飯器のような形態をしていたAiちゃんがお掃除ロボットのルンバのように動き回り、シダさんとなんと会話劇を繰り広げるのですが、それが非常に可愛く魅力的で、あとから知ったのですが自作したロボットで、ラジコンが仕込まれていて、声は海外にいる高橋景子さんに録音してもらったものをシーンに合わせて流していたそうです。
そんなAiちゃんの動きなんですが、実にコミカルでそれだけで面白い!舞台にAiちゃんが登場するだけでもう超面白い!そしてそこに人間であるシダさんの会話が加わることで、ロボットと人間という謎の違和感が完全にプラスに働いて、もう、超絶的に面白い!
もちろんシダさんの落着きながらも心の中にある葛藤や哀愁を時に見せる演劇ももう最高に素晴らしく、ロボットと人間がどっちがメインというわけでもなく、両方が主役級の活躍をしながら、ロボットと人間の会話劇というものを完全に成立させてしまった、これはもう、革命だと思います!
僕は見ていないのですが過去に平田オリザさんがロボットと人間の演劇を世界で初めて行ったという話を聞いたことがあるのですが、少なくとも新潟でそれをやった演劇はこれが初めてだと思いますし、文字通り新潟演劇の一つの革命となった演劇だと思います!
そして、タイトルにも名前が入っている過去作『May be blue』も本当に大好きな作品なんですが、今回はその魅力をまた違った方法で描き出してくれたなあと思いました。
『May be blue』は一人の妻を失った男性が女性のアンドロイドと暮らしながら、徐々にアンドロイドと人間の認識の違いから、「人間は大切な人の死をどう受け入れていくのか」という普遍的なテーマが浮かび上がる作品で、架空の設定の中から人間の本質を描き出すのはまさしく王道のSFのあるべき姿だなあと感動しました。
そして、今回の『Detective rhapsody 探偵の狂詩曲 ~もう一つのMay be blue~』も、妻を失った男がAiを雇うという設定も共通してるし、まさしく同じようなテーマが浮き彫りになっていくのです。
AIと人間、物事の考え方の構造がまったく異なった存在がコミュニケーションを取ることで、他社同士がコミュニケーションを取ることの大切さが浮かび上がり、徐々に相手の情報を記憶していくことで名コンビになっていくシダさんとAIちゃんの姿に、人間関係というものはお互いの膨大な記憶の蓄積の上にやっと成立しているのだということに気付かされます。
もうこの時点で一つのSFとして、そして新しい時代のバディものとして、最高に面白いのですが、さらにそこに加えて一つの演劇としてストーリーの面白さも用意されていて、最後にAiちゃんとの出会いによって気持ちが変化したシダさん演じる主人公が、妻の死と向き合い、そして死の真相に辿り着いたときに、しっかり感動できるような作りになっていたのです。
もう、あらゆる意味で抜かりないというか、設定と脚本、それをロボットで表現しようというアイディアと演出、演技、どこを取っても最高に素晴らしい演劇だったと思います!
最後に、この演劇の音響・照明オペをやりつつ、Aiちゃんというロボットの動き、声の操作を全て一人で裏から行っていた佐藤正志さんには、何か勝手に特別賞をプレゼントしたい気持ちがあります!
第3位
東区市民劇団座・未来『阿賀野の雪花 ~新版・王瀬の長者』(Bキャスト)
いよいよここからベスト3!第三位には大好きな東区市民劇団座・未来さんの『阿賀野の雪花 ~新版・王瀬の長者』がランクイン!
もともと僕は座・未来さんが大好きで、正直新潟の劇団の中で一番大好きなんですけど、何がそんなに好きかっていうと、どんな人でも演劇を楽しみたいっていう人なら参加できて、演劇を楽しむことが出来る、そしてその温かさが舞台からにじみ出ているところなんです。
それって、僕が演劇で一番大切だと思ってることなので、今までもこれからも座・未来さんのことは全力で応援していくし、そういう気持ちでずっと見ていくと思います。
だから正直、この劇団に関してはちょっとマイナスな点が作品にあったとしても評価が下がらなくて、寧ろよくぞここまで頑張った!って思ってしまうので、ぶっちゃけ、評価が甘くなってしまっている部分がある自覚はあるのですが・・・
・・・なんですけど、今回ついに「本当に素晴らしい!」と思える作品に出合ってしまった!しかも、今まで思っていた座・未来さんならではの魅力を100%発揮した上で、さらにそれを抜きにしてもこの時代の演劇、この新潟の演劇として、最高に素晴らしい大傑作に出会ってしまった!と思いました。
良かったところの一つ目、座・未来の演劇として素晴らしかった!
というのは、先ほども書いたように、座・未来の演劇をしたいという人の気持ちを最大限に尊重して、全員が一つの演劇を楽しみ、全員が一つの演劇の中で輝き、そして全員で一つの演劇を作り上げる!という魅力が、ここまで感じられたのは、この作品が一番だと思います!
色んな登場人物が登場するんですけど、それぞれにちゃんと見せ場があり、しかもそれが取って付けたような見せ場ではなく、ちゃんとストーリーに意味のある活躍の仕方をしている、そして主役脇役、出番の多さ少なさに関係なく、全員がちゃんと血の通ったキャラクターとして、物語の中で生きていた!
それは本当に、演劇を楽しみたくて集まったすべての人を大切にしてきた市民劇団だからできたことだと思うし、市民劇団の一つの理想だと思いました!
良かったところの二つ目、一つの演劇としてストーリーがよく出来ていた!
というわけで、先ほど書いたことと少しかぶるのですが、あらゆる登場人物が物語にとって無くてはならない存在で、無駄なシーンが一つもなく、そしてそんなシーンの全てが「次はどうなるんだろう?」と引き込まれる魅力に溢れていて、ド直球で王道の面白いエンターテインメントとして、ちゃんと成立していた!
そしてこの二つだけでももう最高なんですけど、さらに良かったこと三つ目、現代社会を生きる我々の問題をちゃんと描き出し、さらに勇気づける内容になっていたこと!
一応これは時代劇なんですが、物語には貧困や格差社会、家族の抱える問題と言った、現代を生きる我々にも完全に当てはまる社会問題がたくさん登場し、地続きの問題として我々に訴えかけてきていると感じました。
しかも、これは東区市民劇団として、新潟市の東区の歴史を踏まえて作られているので、歴史的にも地理的にも完全に地続きの問題となっているのです。
さらにクライマックスでは大水害が発生するのですが、これは完全に東日本大震災の津波を意識して書かれたということが伝わってきて、この現代を生きる我々のトラウマを刺激されてしまうのですが、決して目を背けてはいけない現実として描いているのです。
そして、そんな残酷すぎる現実を描きながらも最後にはちゃんと「それでも我々はここから生きていける」と希望を感じられるエンディングになっていて、演劇からものすごく勇気をもらいました。
さらに素晴らしいのは、そんな重いテーマをあくまでエンターテインメントの中で我々に伝えてきていることで、フィクションの中で現実を伝えるのは、演劇の、もっと言えばあらゆる表現活動、あらゆる芸術の持つ可能性に思えました。
そのように、現実の問題、特に震災の問題を伝えてくる演劇というのは、例えば2015年の「イシノマキにいた時間」のように県外の演劇では見たことがありましたが、ここまでのメッセージを新潟の団体が伝えてきた演劇を見たのは、僕はこれが初めてでした。
そんなすごいことを、プロでもなく、歴史ある劇団ではなく、あくまでアマチュアの集まりである市民劇団が成し遂げたのは、快挙と言わずして何と言うか!という気持ちです。
そして、そして、そんな素晴らしい演劇の脚本を書いたのが、プロの作家さんではなく、あくまでアマチュアとしてずっと東区市民劇団を一人の制作としてあくまで裏方として支え続けてきた近藤尚子さんである!というのが、もう本当にすごいことだと思います!近藤さんには何か勝手に特別賞を与えたいところです!
第2位
ひまわりステップ実行委員会『ひまわりステップ』
2位は、さくらもみぢさんが企画した『ひまわりステップ』です。
さくらもみぢさんは、「ちひろともみぢの新潟演劇人トーーク!」の相方であり、ソウルメイトであるので、身内を贔屓しているのかと思われるかも知れませんが、身内だからこそ分かるこの演劇の本当の素晴らしさもあると思うし、それを抜きにしても僕は感動したと思うので、そもそもこれは僕が独断と偏見で選んだベスト10なので、2位にランクインさせました。
まず、この演劇の良かったところどうこうの前に、僕はこの演劇がちゃんと上演に漕ぎ着けられたことそのものに、本当に感動しているんです。
と言うのも、さくらもみぢさんがこの演劇の企画を思い付いたのはなんと2年前で、そこからタイトルが「ひまわりステップ」になって脚本が昼町夜村さんになったのが1年前で、そこから一つの演劇をプロデュースするなんていう経験がまったくない状態から、出演者さん、スタッフさん、そして詳しくは後述しますがミュージシャン!を少しずつ少しずつ集めて、しかも主題歌も自分で作詞作曲して、手探りで色んな試行錯誤を繰り返した末に、この作品の上演に漕ぎ着けたということを、僕はリアルタイムで彼女を見て知っているのです。
しかも、そんなに長い時間をかけて、その期間に色々うまくいかないこともあっただろうけど、それでもまったく芯がぶれることなく、上演まで辿り着いた、これって本当に感動的なことだと思うのです。
もう本当に、人間が演劇をやろうって思い立って、それが形になることが、それだけで本当に感動的なことなんだよなあ!ってことをここまで感じた演劇は、人生でこれが一番な気がします。
だから正直、本番が始まる前からすでに、会場にお客さんが入って、そしてもんちゃんが舞台挨拶をしてる、その時点で僕はもうかなり感動していたことを正直に言っておきます。
しかも、そこまでの思いをして作り上げた演劇の上演が、カルチャーMIXフェスタ、N-Art Communicationでのたった一回きりで、もうこの一回きりの舞台が本当に成功してくれー!と、祈るような気持ちで開演を待ち、ここまでの気持ちにさせる演劇に出会ったことも、これが初めてでした。
そんな気持ちで見た「ひまわりステップ」ですが、三人組のアイドルグループが解散するまでを淡々と描いたとても静かな物語でした。正直、少し地味なくらいだと思います。
けれど、確かにそんな地味な物語ではあるんですけど、あらゆるシーン、あらゆる演出のすべてが丁寧に作りこまれていて、僕が大好きな「手作りの温かさ」に溢れた、本当に素敵な宝物のような演劇でした。
さらにその感動を盛り上げるのが音楽なんですけど、舞台の後ろにはキーボード、シンセサイザー、パーカッション、ベース(リズム隊!YMOじゃん!)という4つの楽器の演奏隊が常駐し(ベーシストの大輔さんだけはなんと役者もこなす!)、演劇の後ろで生演奏を披露しているのです!
まずもんちゃんが音楽を自作した時点でも感動的なのに、さらに生演奏の感動によって、手作りの温かみが格段に増していて、きっと作曲なんて初挑戦だったもんちゃんはミュージシャンのみなさんと少しずつ協力し合いながらこの音楽を作り上げたんだなあってちょっと泣きそうでしたよマジで!
しかもその音楽というのが、本当に一曲一曲がこの演劇の一つ一つのシーンに欠かせない存在となっており、本当にもんちゃんが心を込めて作ったんだろうなあ・・・って感じられましたし、音楽が目立ちすぎるわけでもなければ取って付けたような音楽でもない、本当に演劇と音楽がともに素晴らしさを高め合っているようで、ずっともんちゃんが言っていた「私は音楽劇がやりたい」って言っていた夢が、ああ、もんちゃんのその夢、叶ってるよ!ちゃんと叶ってるよ!って、やっぱり泣きそうでした。
ストーリーは、先ほど書いたようにアイドルグループの活躍から解散までをライブも少しだけ交えながら淡々と描いているのですが、一番印象的だったのは、そのグループが解散したあとをそれまでは狂言回し的な脇役だったキャラクターたちがモノローグで語るシーンです。
物語内ではアイドルの女の子たちがそれぞれ生きた人間として、アイドルの裏事情なんかも交えつつ描かれていくのですが、最後の最後はモノローグでさらっと終わるのです。
それを見ながら僕は、アイドルが好きな一人として、ああアイドルっていつかは終わってしまう儚い存在なんだなあと思いながらも、同時に、これこそアイドルを愛するという気持ちなのかもなって感じた部分がありました。
というのも、もし自分が本気で愛しているアイドルが解散したら、それを僕は本人たちから知るわけではなく、必ず人づてに聞くはずなのですが、それでもきっと、ああ、もう会うこともなくなったあの子たちはどこかで幸せに生きていってほしいなあ、って祈ると思うのでしょうし、こうやって決して直接会うことのできない誰かの幸せを本気で願うことこそ、アイドルを愛することの本質だと思ったのです。
そしてさらに素晴らしいのが、こうして解散後もどこかで頑張って生きているであろうアイドルをモノローグで表現するこの物語が伝えているものは、きっと、アイドルの本質だけではなく、人間の人生そのものではないかと思うのです。
つまり、この演劇のように、人生にはいいことも悪いこともある、どうしていいのか分からないこともある、それでも、人生というものは淡々と続いていくのだ、という普遍的なテーマを表現した、ある意味この演劇は一つの人間賛歌になっていたと思うのです。
そしてそれは、この演劇を作り上げたもんちゃんの人生ともリンクしているようにさえ思うのです。
というわけで、長々感想を書いてきましたが、言っちゃえばこの演劇、このベスト10のどれよりも地味な作品だと思いますよ。
でも、時間と手間と気持ちを込めて一つずつ作り上げていけば、これだけの素晴らしいものを達成できるんだ、という、本当に希望に満ちた演劇だったと思います!もんちゃんにも何か勝手に特別賞を上げたいです。
第1位
KURITAカンパニー『曼珠沙華 -越後瞽女がゆく-』
というわけで、栄えある第一位は、KURITAカンパニー『曼珠沙華 -越後瞽女がゆく-』でした。
この演劇は、上越地区に実際に存在した越後瞽女の人々の生活や、山を越えて長野県にまで仕事に出かけていく様子、そしてそんな旅の中で出会った人々と織りなす、実際にあったのではないかと思われる物語を、淡々と描いていきます。
まず、この越後瞽女という、目が見えないけれど歌を歌うことで生計を立てているという、本当に実在した人々を演じる役者さんたちが、もう本当にそういう人にしか見えないという丁寧に作りこまれた演技だけでも見る価値があったなと思います。
また台詞や演出の一つ一つも素晴らしく、例えば明かりに手をかざして「あったかい」という台詞(「明るい」ではない!)や、目の見える人に星や月の美しさを問うシーンなど、本当に、愛を持って越後瞽女という人々の演劇を作っているんだなあと感じられました。
そして、そんな越後瞽女という人々を、決していわゆる感動ポルノのような「可哀想な存在」として描くのではなく、一日一日を精一杯生きている「気高い存在」として描いていて、「障害」というものの描き方としてこれ以上なく愛と経緯に溢れたものだったと思います。
またこの演劇の舞台背景は戦時中で、とても貧しい時代であること、さらに実際に憲兵や出征していく若者も登場し、戦争というものの、戦争が実際に行われている時代の残酷さも随所から感じられました。
でもこの演劇の素晴らしいところは、そんな越後瞽女の生活も戦争の恐ろしさも、変に誇張するのではなく、あくまで全てを丁寧に淡々と描いていて、これは映画「この世界の片隅に」にも通じる魅力だと言っても過言ではないと思います。
そしてそんな物語を見ていたら、決して平和とは言えない時代に、決して裕福とは言えない立場の人が、それでも一日一日を必死に生き抜いてきたんだなあ・・・そしてそれがこの国の歴史を作ってきたんだなあ・・・と感じられ、僕はこの演劇から本当に生きる勇気をもらったのです。
で、ここからは演劇の内容とは直接関係がないかもしれない、極めて個人的な僕の気持ちなんですが、この演劇をン見た日というのは、トランプ氏が次期アメリカ大統領に当選した日だったのです。
トランプ政権の是非は、今は問題にはしませんが、演劇を見る前、僕はこのニュースを見て、一体この世の中はこの先どうなっていってしまうのだろうか・・・ととても不安になったのです。
とても個人的なことですが、それが良いことなのか悪いことなのかは関係なく、世の中がとても大きく動くとき、僕はいつも必ずものすごい情緒不安定に襲われてしまうのです。
そんな精神状態でこの演劇を見たのですが・・・演劇を見終わったとき、僕のその不安は消えていました。
どんな時代になっても、毎日の生活を大切に、自分を、出会いを大切にして、一日一日を精一杯生きていくこと、それが人間にとって一番大切な道であると、僕は心の底から生きていく勇気をもらったのです。
本当に、こんなにも一つの演劇から生きる勇気をもらったことは、これが初めての体験で、本当に心からこの演劇に感謝したくなりました。
というわけで、そんな自分の人生の背中を優しく押してくれたこの演劇との素晴らしい出会いに感謝して、このKURITAカンパニー『曼珠沙華 -越後瞽女がゆく-』という演劇を、2016年の1位にしたいと思います!
以上、ちひろの2016年演劇ベスト10(新潟県内編)でした。
ちなみに、もみぢの2016年演劇ベスト10(新潟県内編)は以下の通り・・・
1位 劇団ひまわり新潟エクステンションスタジオ青年部・研修クラス『フォーティンブラス』
2位 魚沼産☆夢ひかり 10周年感謝記念公演『サラとベイシラマナの森』(再演)
3位 ダンス公演『光の部屋』
4位 島村哲平『再放送 島村てっぺい物語』
5位 踊れ!!聖籠IZANAI海祭り実行委員会 スペシャル舞台『70年の祈り ~幸福の連鎖~』
6位 江南区演劇公演実行委員会『親の顔が見たい』
7位 劇団第二黎明期『Detective rhapsody 探偵の狂詩曲 ~もう一つのMay be blue~』
8位 みっくすじゅ~す倶楽部 10周年記念公演『カベの向こうに忘れもの』(再演)
9位 KURITAカンパニー 創立10周年記念公演『曼珠沙華 -越後瞽女がゆく-』
もみぢが2016年に観た舞台一覧は、こちらからご覧ください。
「もみぢが今年観て来た作品一覧」