舞い上がる。

日々を笑い、日々を愛す。
ちひろBLUESこと熊谷千尋のブログです。

山上たつひこ、いがらしみきお原作、吉田大八監督、『羊の木』観て来ました!

2018-03-10 21:03:51 | Weblog


3/9(金)、『羊の木』を観て来ました。





予告編はこんな感じです。



朝井リョウさんの『桐島、部活やめるってよ』、角田光代さんの『紙の月』、三島由紀夫さんの『美しい星』など、時代も世代もジャンルも異なる様々な作家の小説を映画化してきた吉田大八監督が次に手掛けたのは、ギャグ漫画家の山上たつひこ、いがらしみきおさんが手掛けた異色漫画。
ギャグ漫画家の山上たつひこ、いがらしみきおさんが、非常にシリアスな漫画を描いていたということで非常に気になるのでいつか読んでみたいと思うのですが、僕はまったく知らなかったので、そういう人間の感想として書いていきます。



物語の舞台は地方都市(おそらく日本海側)、そこに刑期を終えた元殺人犯たちを移住させる国の極秘更正プロジェクトが進行し、その計画を知るのは公務員である主人公を含む数名のみ。
主人公は移住の手配をすることとなり、元殺人犯の彼らは過去を隠してその街で働き始めていくが…



有り得ないんだけどもしかしたらちょっと有りそうな設定、閉塞感のある田舎の人間関係、何気ない日常を送る彼らがこっそり隠し持っている深い闇、そしてその秘密がバレるのかバレないのかという絶妙なもどかしさ、そして何か不吉なことが起きてしまいそうな予感…
この、なんてことない日常風景の中に微妙に紛れ込んでくる違和感を、丁寧な演出の積み重ねによって描き出し、次第にそれが大きくなって日常を侵食していくという、この独特の気持ち悪さが、妙に癖になる映画でした。

日常を侵食してくる非日常、っていう展開は、僕の好きな物語の要素の一つなんですけど、それって実はホラー映画とかでよく使われるものなんですよね。
つまり、最初は我々の暮らす日常と同じようなリアルな世界を描いておきながら、徐々にそれをずらしていくことで、恐怖だったり違和感だったりを生むという。

そう考えると、この映画はジャンルとしてはシリアスなドラマ、またはサスペンスやミステリーなどになると思うんですけど、結構ホラー映画的な要素を持っているのかもも知れません。
とにかく、前編を通して、何だかよく分からないけど気持ち悪い、不気味、不吉っていう雰囲気が全体に満ちていて、それがこの映画の魅力だったと思います。

世の中には、とにかく何もかもが破壊され不幸な方向へ一気に暴走していくのを楽しむ映画というものもあると思うんですけど(最近観たのだと『悪女/AKUJO』とか)、これはそうではなく、崩壊するのかしないのか分からないまま、ちょっとずつ狂っていく世界を楽しむ映画だと思います。
そして、その独特の気持ち悪さが、日本海側特有の曇り空のある風景に驚くほどマッチするんですよねえ。(日本海側は自殺が多いっていうあの感じです)



この映画の大きな見所は、やっぱり役者さんたちの丁寧な演技かなあと思います。
殺人を犯した過去を隠し持つ人間が抱える闇や、それ故に放たれる独特の雰囲気にも一人一人に異なる個性があり、さらにそんな彼らの正体を知らないもののどこか変な目で見る町の人達、そして彼らと仕事上接しながらも距離の取り方を図りかねている主人公などなど、とにかく、丁寧でリアルな演技の一つ一つが、物語に説得力を持たせていたと思います。

また、そんなこの町で殺人事件が発生してからは、一気に物語はミステリーの様相を呈していきます。
果たして犯人は誰なのか…? 主人公の立場から言えば、信用しかけているあの人が本当は犯人なんじゃないだろうか…? などなど。

特に僕が強く感じたのは、「過去に人を殺したことのある人」に対して、そうではない人が感じる恐怖というものを描いていたなあと思います。
また、この映画では、彼らの過去を知る人、知らない人がどちらも登場するので、その違いを見ることで、何て言うか、人間関係って相手に対する印象で変わってくるんだなあ、なんてことを思ったりもしましたし。

さらに、人を殺してしまった人間とそうではない人間は、もしかして決定的に何かが違っているのだろうか? それとも果たして本当に同じ人間なのだろうか?
そして、他人に対してそうやって一方的に恐怖を感じたり、自分とは違う人間であると決めつけたりしてしまうのは、果たして正しいのだろうか…? などと、静かな映画ですが、観ているこちらの価値観にじわじわと揺さぶりをかけてくるようなところがあったと思います。



と、色々書いてはきましたが、僕がこの映画に対して語れることはここまでです。
何故なら、この映画の終盤の展開や、最終的に迎える結末を、どういう風に解釈すればいいのか、僕はよく判断できないからです。

吉田大八監督の作品は全体的に静かで淡々としているんだけど、情報量というか盛り込んでいるものがすごく多くて、一度観ただけだとちょっと処理できないところがあるなあと思います。
この映画を何度も観返してみたり、また原作を読んだり、吉田大八監督の他の映画を観たりすれば何か分かるのだろうか…と思ってみたりしましたが、まさしくそういう何度も繰り返しこの世界に触れながら、その都度色々な発見がありそうな映画だなあと思いました。
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ジョン・ウー監督最新作!チ... | トップ | 白石晃士監督!松坂桃李主演... »
最新の画像もっと見る

Weblog」カテゴリの最新記事