2/2(木)、りゅーとぴあで、Noism0+Noism1「Der Wanderer―さすらい人」を観てきました。
新潟ではりゅーとぴあで1/20(金)~2/4(土)に合計11回というのロングラン公演で、僕はかなり終盤に観たのですが、公演も無事に終わったということなのでネタバレ全開で書いていきます。
ただ、よく考えたら新潟公演が終わってから2/24(金)~26(日)には東京公演もあります。
なので、厳密に言うとまだ終わってない公演なわけですが、まあ、そこまで気にせず書いていきます。
まず、個人的にNoismは好きなんですが。正直自分としては5000円というチケット代は結構高めでなかなか行けないんですよ。
いや、世界レベルの舞台芸術が新潟で5000円で観られると考えれば実はすごくお得!ということは理解しているのですが、とはいえ5000円は自分には…
ただ、実際に見ると、その高いチケット代以上のものが得られるのもまた事実。
今回も久し振りに頑張って5000円払ったわけですが、本当に行って良かったです!
というので、ここからちゃんと感想を書いていきます。
まず、Noismの公演は舞踊なので、基本的に台詞がありません。
正直、初めて見た時(8年前くらい)は、そこが難解だと感じました。
しかし、Noismを何度も観る中で思ったのは、台詞がないからこそ、言葉ではなく舞踊から物語の世界が広がる感動があるということ。
自分は普段の生活の中でいかに言葉に頼っていたかということ、言葉がなくても人間の肉体はこんなに豊かな表現力を持っているのかということに気付かされます。
そして、言葉ではなく舞踊から、想像力フル回転で物語を想像しながら、どんどんその世界に引き込まれるというのは、ただ受動的に観るだけではなく、自ら物語を味わうという本当に豊かな体験でした。
ここからさらに細かく感想を書いていきます。
まず、会場に入ると、舞台の周りがたくさんの花(造花)で囲まれていて、そこに一人の白い服の女性(井関佐和子さん)が、ちょっと人間離れしたような雰囲気で微動だにせずに立っている。
公演が始まると、様々な人々が舞台上に登場するのだが、誰もがどことなく表情が暗い。
そして、全員が機械的に同じような動きをしている感じから、これはおそらく、都会の中で自由や個性を失って生きている現代人の苦しみを表現していたのではないかと思いました。
そんな人々の間を、ちょっと他とは違った雰囲気の井関佐和子さんが自由に動き回るのですが、おそらくこの井関さんは、この町が開発され都市化する前から生きている自然界の象徴の精霊的な存在なのではないだろうか。
そして、舞台の真ん中で、一人だけカバンを持った男性(山田勇気さん)だけが残るので、おそらく彼がこの物語の主人公、さすらい人。
やがて舞台上から人々がいなくなり、一人残った山田さんは、舞台の横に立っている、大木のようなオブジェの下に座り込む。
すると、色々な人達が現れてくるのだが、これはおそらく、この町がまだ自然で溢れていた時代の歴史を回想しているのではないか(そして、自然の精霊的存在の井関さんが、さすらい人にそれを見せている)。
そこからは、とにかく明るい音楽がかかり、誰もがとても楽しそうに踊っています。
よく見ると、遊んだり喧嘩をしたり恋をしたり、そういう人々の営みが見えてくるようです。
そして特徴として、登場人物達は会場に飾られた花を手に持って踊っています。
これも、人々が豊かな自然と共に平和に暮らしていたことを表現していると思いました。
しかし、終盤になると、次第に音楽が暗いものになっていき、それに伴って人々の踊りも、明らかに「死」を思わせるものが増ていきます。
そして、実際に舞台の周りで死体のように倒れ込んだまま動かない人々も増えていき、これは多くの人々が亡くなっていく戦争や疫病など、今の時代の社会問題を表現していたのかなと感じました。
さらに、公演の前半ではたくさん飾られていた花も、公演が進むにつれて人々がたくさん手に取ってしまったためにどんどん減っていき、舞台上にはまるで捨てられたような花が散らかったいきます。
これも、人々が自然の恩恵に頼りすぎると自然を破壊してしまうという、環境問題というテーマを表現していたのかなと思いました。
そんな感じで明るい場面から暗い場面へとどんどん進んでいくのですが、最後の最後、すべての登場人物が舞台上に一列に並び、舞台上に花を植えていきます。
そして、舞台に再び花が咲いた時、公演は終わります。
あくまで自分の解釈ですが、この公演は一つの町の人々の営みや歴史を表現することで、明確な反戦や環境問題のメッセージを表現していたと思いました。
豊かな自然が戦争や環境問題で失われても、芸術という種を撒いて平和という花を咲かせよう、そんな世界に向けたメッセージを自分は受け取りました。
個人的に、世界の戦争や差別、日本でも最近の政治問題やネットでの誹謗中傷などが多く、希望が感じられない時代だったので、こうして芸術から平和のメッセージを発信している人達を見られて世の中捨てたもんじゃないという気持ちになりました。
実際、Noismの金森譲さんは、東京よりも自然豊かな新潟の中だから表現できるものがあると以前インタビューで話していたので、こうして自然豊かな新潟から世界に向けたメッセージを発信しているのは本当に素晴らしいことだと思うし、芸術はそのくらい大きな力を持っているというメッセージでもあると思いました。
あと、今回はシューベルトの音楽を使っています。
あえてクラシック音楽を使うことで、芸術文化を大切にしようというメッセージも込められているような気もしました。
とはいえ、個人的に僕はシューベルトに詳しいわけではないので、公演で使われた曲の中で知っているのは「野ばら」くらいしかない…
と思ったら、終盤でなんと、中学の音楽の時間で習った「魔王」が流れ出したではないか!
「魔王」の物語の内容が、舞踊で表現されているのは見ていて面白かったです。
というわけで、芸術は知識があることでより深く楽しめるんだなあということも感じました。