(写真=団体交渉の様子 内容とは一切関係ありません)
NPO法人労働相談センター・労働相談ボランティアの中曽根和彦さんが、団体交渉体験記を寄稿してくれました。
以下、ご紹介します。
団体交渉ボランティア体験記
中曽根 和彦
団体交渉参加の発端は、労働相談ボランティア研修会での石川理事長のお話からでした。
一年間メールによる相談の対応をしていて、自分では何とかある程度は答えられるようにはなったつもりですが、答えを書いていて何か現実とは離れていくような、答えが宙を舞っているような不安を感じていました。
もちろん、日本でも最も実績のあると言ってよい人たちが、私の書いたメールをチェックしてくれているので心配はないのですが。
石川理事長は、労働相談は相談を受けたところから解決に至る全過程を知る必要があるという趣旨のことを述べておられたかと思います。
一人のボランティアでは自分が受けた相談が決着するところまで担当することは現実的には不可能でしょうが、自分の受けた相談ではなくても、労働問題の色々な現場で体験することは必要であると思っていました。
4 月に行われたボランティア研修会の後で団交の参加の申し込書に記入して申し込んだところ、 2 週間後くらいに団交参加要請の電話がありました。
団交は約一週間後、幸い都合のつく日でしたので、参加させてもらうことにしました。
私はうかつにも、団体交渉と言えば、何しろ「団体」交渉なので、労働側は大勢の人がいて、私は後ろで見ていれば済むのではないかとお気楽に構えていました。
当日、指定された時刻にセンターの事務所に行ったところ、 A さんと副理事長の矢部さんが打ち合わせをしていました。
聞けば、労働側は A さん、矢部さんと私の 3 人とのこと。
A さんの会社・職場は数名の規模ですが、組合に加入しているのは A さんだけ。
争点は、社会保険料の長期にわたる未払いと、一方的な賃金の減額(正社員全員が月 13,000 円ダウン)ということでした。
相手は社長さんですが弁護士や社労士を連れてくる可能性があると言われました。
話を聞きながら、私は自分の準備不足を恥じ、冷や汗をかくばかり。
さて、団交の場所に行ってみると、会社側は社長さん一人でした。
団体交渉の主役はその会社で働いている A さんですが、矢部副理事長が仕切って交渉が行われました。
社長さんは事前に年金事務所や弁護士さんなどと確認・相談しており、保険料の未払いや一方的な賃下げは法的に許されないことは充分に認識していたので、声を荒らげることもなく交渉は進みました。
会社内の労働組合員は A さん一人ですが、 13,000 円の賃下げは正社員全員にわたって撤回。
社会保険も全員について加入することになりました。
社会保険の加入時期や、年金について A さんの受けた不利益の損害の補償については、年金事務所と確認・相談の後で回答するということになりました。
終りに、 A さんから年休取得の話が出されました。
これまで年休は3日程度しか認められていなかったので、法令に沿って認めてほしいという要求です。
それまで平静を保っていた社長も顔を紅潮させ、若干抵抗しましたが法令には勝てず、回答を約して団体交渉は終わりました。
終りに、初めて団体交渉に出て感じたことを述べてみたいと思います。
一番感じたのは、やはり労働法で認められた労働者の権利を実現するためには労働者が団結することが必要だということです。
今回は労働組合による団体交渉では大きな成果を得たと言えます。
しかし、 A さんが職場に帰ったときに社長さんがどのような態度を取ってくるか心配です。
労働者は団結することが自分たちを守る最善の手段です。
職場の人たちの協力がとても大切です。
A さんの努力で会社側に賃下げを撤回させたことは職場の人たちにも大いにアピールできるはずです。
職場の人たちの支援も期待できるのではないでしょうか。
また、団体交渉の力を増すためには交渉員の人数をそろえることも大切なことであるし、また大変なことだと思いました。
一人でユニオン、合同労組に入っている場合、団交を行おうとすれば交渉員の人数そろえることもままならないわけです。
今回の団交の時は、私は適切な発言も出来そうにないので黙って見守る他はありませんでしたが、それでも人数がいることはそれなりに心強いことには変わりはなかったようです。
ほかの相談員の皆様も都合がつくようでしたら是非とも参加してい頂きたいと思います。
労働相談では労働組合に入ることを進めていますが、実際、労働組合の結成や加入が力になることを目前で見て、体験したことにより、以前に増して自信を持って相談に答え、組合加入を勧められるようになったと感じています。
以上