感冒豫防の心得
内務省社會局保險部
感冒豫防の心得
昔から感冒 かぜ は萬病の基といふ位で、感冒が基 もと で一命 いのち を取られるやうな重い病氣になることは尠くないのであります。
感冒の中でも流行性感冒 はやりかぜ は、病人が咳 せき や 嚏 くさめ をすると眼に見えない程微細な泡沫 とばしり を介 とほ して人に傳染す うつ る病氣でありますから特に注意せねばなりませぬ。
普通の感冒 かぜ も流行性感冒も、一年中冬から春先きにかけて一番罹り易いのですから、お互に感冒を引かぬやう、若し感冒を引いたら速に治療する樣にしなければなりません。
左 さ に感冒予防の心得を記載致しますから、よく熟讀して よんで 之を守るやうにして下さい。
平生 ふだん から毎朝冷水摩擦をしたり、運動に心掛けたりして、身體を丈夫にして置くことは、最も大切です。
夜具、蒲團、寢具等は時々日光 ひ に曝 さら し家 うち の内外は常に淸潔 きれい に掃除し、室内の掃除は成可 なるべく 塵埃の立たぬやうに雜巾掛けするのが一番宜しい。
作業服は汗ばんだり、室 へや の濕氣 しめりけ で濕り易く、濕った作業服の儘で寒い日に外を歩けば感冒 かぜ を引き易いから、平生着と區別し常に乾燥し かわい たものを着 る樣になさい。
暖かい作業場 しごとば から急に寒い處に出る時は、感冒を引き易いから、手拭 てぬぐひ かハンカチで鼻、口を輕く被 おほ ひなさい。
澤山人の集まってゐる處、電車、汽車等の内では必ずマスクを掛けるか、手拭、ハンカチ等で鼻、口を輕く被ひなさい。又感冒を引いてゐる人や咳をする人には近寄らぬが宜しい。
出先きから家へ歸った時は必ず鹽水 しおみづ か微溫湯 ぬるまゆ で含嗽 うがひ なさい。
含嗽藥ならば尚宜しい。家にゐる間も度々含嗽するが宜しい。
人前で咳や嚏をする時は必ずハンカチか手拭で、鼻、口を被ふやうになさい。
感冒を引いたなと思ったら度々含嗽や吸入をなさい。
看病人や家内の者でも病室に入るときは必ずマスクを掛けなさい。
普通の感冒だと馬鹿にして放って置くと肺炎を起し取返しのつかぬことになることがあるから直 すぐ に保險醫に診察して貰ひその指圖をよく守らねばならぬ。
體溫の測り方
體溫を測るには體溫計を靜 しづか に振って三十六度以下に下げ、腋窩 わきのした の汗を拭ひ ふき 水銀球 すいぎんのたま の部分をよく挾み十分位靜にしてゐて、それから度を見なさい。若し摂氏三十七度以上ならば熱があるのですから保險醫に相談なさい。
吸入の仕方
感冒に罹ったら、時々吸入するが良い。吸入をするには吸入器の蒸氣鑵に半分又は三分の二位湯を入れ、アルコールランプを點火 とも して之を沸騰せしめ、蒸汽の噴き出る管 くだ の口から藥液 くすりみづ (水百の中へ重曹か鹽を二の割合に入れたもの)が吸上げられて霧となって出るのを確め、吸入器を適宜の處に置きて吸入なさい、其の際着物や寢具等をぬらさぬ樣に注意なさい。吸入は一日數回するが宜しい。
頭の冷し方
高い熱のある場合 とき は水枕を用ひ、且 かつ 額 ひたひ に冷水 ひやみづ に浸 ひた して硬く絞りたる手拭を當てゝ頭部 あたま を冷やすが宜しい。水枕や手拭は時々冷たいのと取換へねばならぬ。四十度近いと云ふ樣な高い熱のある場合は氷枕、氷嚢を用ふるが宜しい。氷は針か錐 きり で梅の實位の大 おほき さに砕き擂鉢 すりばち の内で攪拌し まぜ て氷の角を取てから氷嚢の半分位入れ成るべく空氣を押出して氷嚢の口をよく緊 し むることが必要です。
溫罨法 しつぷ の仕方
溫罨法をするには、フランネル又はタオルを熱い湯に浸し相當 なるべく 硬く絞って頸部 くび 、胸部 むね 等の患部を卷き、その上を油紙 あぶらがみ で被ひ紐で止めて置くのです。油紙は保溫の爲ばかりではなく着物を汚さぬ爲です。溫罨法は三四時間毎に溫かいのと取換へねばならぬ。
罹 かか るな感冒
鍛へよ身體