蔵書目録

明治・大正・昭和:音楽、演劇、舞踊、軍事、医学、教習、中共、文化大革命、目録:蓄音器、風琴、煙火、音譜、絵葉書

「羽衣会第一回公演」  帝国劇場 (1922.2)

2020年05月01日 | 帝国劇場 総合、和、洋

    

   大正十一年二月廿六日、廿七日、廿八日
   三日間毎日午後正五時開場

 羽衣會第一回公演番組

     帝國劇場


   岡鬼太郎氏 作歌
   杵屋佐吉氏 作曲
   小室翠雲氏舞臺装置
 第一 舞踊 潯陽江 一幕

   本居長世氏 作曲
   久保田米齋氏舞臺装置
 第二 童謡 移り行く時代 一幕 五場

  故杵屋正次郎氏  作曲
   久保田米齋氏舞臺装置
 第三 古曲 月顔最中名取種 一幕

   本居長世氏 作詞作曲
   田中良氏舞臺装置
 第四 樂劇 夢 一幕

   坪内逍遥氏 作歌
   吉住小三郎 杵屋六四郎 兩氏 作曲
   松岡映丘氏舞臺装置
 第五 舞踊 鉢かづき姫 一幕

  京橋區木挽町三丁目三原橋際
    羽衣會事務所
  劇場 
    帝國劇場

 羽衣會 第壹回 公演

 ・潯陽江に就て ‥‥‥ 岡鬼太郎
 ・同 役割
 ・潯陽江梗概
 ・同  出演樂員
 ・移り行く時代役割
 ・同     梗概
 ・童謡の舞踊化 ‥‥‥‥ 木村錦花
 ・月顔最中名取種役割梗概
 ・同      出演樂員
 ・月顔最中名取種考 ‥‥‥ 渥美淸太郎
 ・「夢」の舞臺のあくまで ‥‥‥ 本居長世
 ・「夢」の役割
 ・同  梗概
 ・同 合 團管絃樂部員
 ・鉢かづき姫について ‥‥‥ 坪内逍遥
 ・同    役割、梗概
 ・同    出演樂員

  中村福助

  坂東三津五郎
  市村龜藏
  尾上榮三郎
  中村福之丞
  坂東羽太藏
  市川七百藏
  坂東羽三郎
  中村翫右衛門
  尾上鐘造
  坂東三津之丞
  河原崎長十郎
  市川桔梗
  中村時藏
  市川猿之助

 本居長世作詞作曲
 第二 移り行く時代 一幕 五場

  第一場 奈良三笠山の場

 中古時代。短き前奏の中に幕あく。靑く柔らかな草の上に、童が十人胡坐して遊んでゐる。 〽ひとふた、みいよう、いつむう、なゝやあ、こゝのとう、もゝちよろず‥‥‥の唄につれて、一人つゞ立って舞ってゐる。その唄の終った時、巫子四人つゞ眞榊と鈴とを持って上手と下手から出る。春日の山の眞榊を、折りかざし遊ぶ子等。めぐしたが子ぞ家告らせ‥‥‥の唄に、童達は下へおりて舞ってゐる。 〽家を告れとは笑はしや、誰が子と聞くも笑はしや‥‥‥と巫子の唄がつゞいて、それが消えても、音樂だけは聞えてゐる。その中に巫子は靜々と去って行く。
           (背景替る)

  第二場 京都郊外の場

 平安朝時代。上加茂あたりの景。こゝに前場の童達が、そのまま居殘って唄ってゐる。 〽からすゝからす、かあゝからす、お寺の屋根から森の中へ、かへるからすかあゝからす‥‥‥の唄の間に、だんだん黄昏れて、夕闇が濃くせまってくる。雪がちらちら降りはじめる。童達はそれぞれの家へ皈ってゆく。上手より二人の童が、寒さうに兩手を口によせて溫めながら來る。 〽ふれふれ小雪、つもれゝ木の股に‥‥‥と唄の聲が聞える。四邊はいよいよ暗くなって、やがて眞の闇黑。
 暗い、黑い闇に、雪がしきりに降ってゐる。二三人つゞ童が來る。その眞中に怪しさうな爺が一人立つ。 〽大雪小雪、雪のふる晩に誰か一人、あっち行っちや‥‥‥と子供の唄に、怪しい爺も、 〽なく子を貰はう、寝ない子を貰はう‥‥‥と唄って、童達を追ふ。童達は追はれながら去る。(幕)

  第三場 神田社頭の場

 徳川時代。華やかな前奏の中に幕あく、子供が大ぜいゐる。 〽これは何處の細道ぢや‥‥‥と唄ひながら遊んでゐる。それがすむと、つゞいて 〽向ふ横町のお稻荷樣へ‥‥‥の唄になって、面白さうに遊んでゐる。やがて祭禮の衣裳をつけた子供達が、山車を引いて賑かに出て來る。 〽江戸の生粋、神田の祭、わたしや神田の唄人よゝ、江戸まつりヨイゝゝ‥‥‥の唄で、華やかに、賑かに、江戸祭の總踊になって、暗轉。

  第四場 プラットホームの場

 現代。からんゝと停車場の振鈴が鳴る。ぱっと電気がついて明くなる。停車場のプラットホーム、その後に海が見える。五六人の小兒が一列にならんで汽車ごっこして遊んでゐる。一人は車掌のつもりで、少し離れて立ってゐる。車掌呼笛を吹く。気鑵車となった先頭の子供が汽笛を吹くと共に、音樂が始って、その汽車が徐々と進行を始める。 〽汽笛一聲新橋を、早やわが汽車は離れたり、愛宕の山に入りのこる‥‥‥の唄で、やがて品川に着いたらしい。「品川々々、五分停車品川品川」と驛夫の呼ぶ聲がする。物賣りの聲も聞える。また振鈴が鳴って、車掌は呼笛を吹く。汽車は靜かに進行を始める。 〽梅に名を得し大森を、すぐれば早も川崎の‥‥と唄はつゞいて、とうたう汽車は横濵驛に着く。こゝでは御辨當サンド井ッチ、お茶などを賣りに來る。また汽笛が鳴って、汽車は動き出したが先頭の汽鑵車はノロゝとして進行しない。「どうしたんだい、汽鑵車、しっかり發車しないか」と驛夫が怒鳴ったが、汽鑵車は、「僕もう疲びれて、お腹が減って駈けられないのだもの」と元気がない。車掌は困ったやうな顔をして、汽鑵車に故障が出來たからといって、一同に降りてくれるやうに賴んだ。こゝまで進行してきた汽車ごっこも、これで止めになった。「急ぎの旅だのに、汽車が故障で閉口だなァ、諸君、仕方がないから、こゝから駈けっこで行かうよ」と駈てけ入る。

  第五場 上野公園の場

 櫻が咲きみだれて美しい。上手より兎の姿になった小兒達が、大ぜい駈けてきて、後をふり返りながら、 〽もしゝ龜よ龜さんよ、世界の中にお前ほど、歩みの遲いものはない‥‥‥と唄ってゐる。そちらから龜の姿をした小兒が大ぜい來る。のそりのそりと遲い歩み方。龜と兎の姿が、面白く可笑しく踊りあってゐる。(幕)

 『夢』の舞臺のあくまで
        本居長世


 この歌劇『夢』を書いたのは、今から十年ばかり前です。或る夜、私は夢にヒントを得て、異常なる感興の下に、直に奇怪極る一種の傳説風なものに纏めて、脚本を創作し、それから作曲にかゝって兎に角、半月ほどの間に書きあげました。さうして年の暮の忙 せわ しい時に、如月社同人の手によって試演が行はれましたが、時間その他いろいろの事情のために、劇中の一部を演出したに過ぎませんでした。その後、この脚本は私の本箱の底に秘められて、今日に及んだのであります。
 今回、中村福助氏のために羽衣會が成立して、同會の木村錦花氏から是非にもこの『夢』を福助氏のために上演させてくれるやうにとの交渉を受けました。私としては若い時代の作であって今の眼で見てゆくと稚気がありますから、再三辭退したのですが、若い時代の創作といふことを條件にして見て頂ければ、そこに私としての若々しい感激もあれば、またまっしぐらに行進しやうとした努力もあると思ってゐますから、それを若い福助氏の新らしい舞踊運動の第一歩に試みて貰ふことはまったくふさわしいと思ひまして、こゝに上演することになったのであります。
 そんな譯で今の私としては、この脚本に飽きたらないところがありますから、多少の改竄 かいざん を加へたいとも思ひましたが、一面から考へますと、たとへそれが拙劣であるとしても、創作當時の感興そのものを今更に補綴 ほせつ して、それを破壊してしまふのは忍びませんから、そのまゝ上演することにいたしました。即ち脚本に於ては一言一句、樂曲に於ては一音一符、少しも改めません。
 それからこれは歌劇として書いたものですから、舞臺の上で演技者が歌唱することを必要としてゐますが、今回の演技者は舞踊と臺詞 せりふ だけを演じて、合唱獨唱は蔭から歌唱させることにしましたから、豫め御承知を願ひたいと思ひます。 この上演に際しても、時間その他の事情のために、劇全部を演出することの出來ないのは、甚だ遺憾であります。この劇をつくりあげた傳説としては、むしろ前半に生命を有してゐるのですが、今回は後半が上演されるのですから、この劇を御覽になるお方は、まづ幕のあく前に、どうぞ次ぎの梗概を読んで頂きたいと存じますそれは斯 か うです。
 往昔 むかし 、或る處に左京右京と呼ぶ二人の男性がありました。神の惡戲か、二人とも通稱を鏡之助と呼んで、全く同樣の人間でした。ただ右京左京の名に區別のあるやうに、その運動に際して、左京が左する時は、右京は右するといったやうな差異だけはありました。このために二人は、現世に於て遭遇する機會がありませんでした。自分と同一の人間が、他處 よそ に實在してゐるといふことは、相互で知らなかったのです。
 こゝに神の惡戲は、更にお京と呼ぶ美しい女性をこの二人にからむべく生れさせたのです。お京は右京左京の兩人を處 ところ を異 こと にして知って、遂に焔のやうな戀を抱くことになりました。お京は二人に對して至上の愛着を感じてはゐたが、二人のあまりに似ているために、何れに身と心とを寄せることも出來ませんでした。その苦しい運命の翻弄 ほんろう に悶えて、とうたう深い淵に身を沈めて、この世を去ってしまひました。
 お京のその苦しい心を知らなかった二人は、近頃どうしてお京の姿が見えないのか、不思議に思ってゐました。さうして懐しい顔を見ることが出來ないのを寂しく思ってゐました。時は過ぎてゆきました。やがて二人はお京の死に心づきました。二人はどんなに悲しんだでせう。人世 じんせい の果敢 はか なさを感じて、とうたう二人は山深く入って出家得道の途 みち につきました。
 神のなした宿世 しゅくせ の不思議は、法 のり の道をゆく二人に、再び不思議を與へました。それは即ち鏡圓といふ法名が、また一致したことです。この二人の鏡圓は、その後、山から山へ、寺から寺へと、ひたすら亡きお京の冥福を祈ってあるく行脚 あんぎゃ の身とまりました。
 月の圓 まど かな秋の或る夜、二人は深山 みやま の奥にて、ゆくりなくも左右より邂逅しました。二人は始めは己れの姿の反映かと思ひましたが、次ぎの瞬間に、この世に唯一人と思ってゐた自分と同じ人間が、今、眼の前に實在してゐることを知って驚かずにはゐられませんでした。あまりの不思議さに、二人の胸は愕 おどろ き顫 ふる へました。さうしてお京がこの世から去った原因も、期せずして釋然と了解しました。二人は右京左京といふ互の俗名を名乗りあったのみで、他は無言の中に意味深き目差 まなざ しを交 かは して、永久に右と左へ別れてゆきました。
 今回舞臺の上に演出されるのは、これから後の物語です。その後、右京は或る山に入って、おぼろ月に花が霞んで白く散る夜、峯のお寺の梵鐘の音に引きつけられて、うつらうつらとなった刹那、夢ともなく幻ともなく一場の幻影を見ました。ちようどその日、その時、左京も何れかの山奥で、やはり全く同じ幻影を見てゐました。--これは詳しい梗概が別に添へてありますから、これで止 とゞ めておきます。どうぞ、それをもお讀みなすって、舞臺の幕のあくのをお待ち下さい。

 本居長世氏作詞作曲
    一幕

 若き僧 鏡圓  福助
 所化  行念  翫右衛門
 同   頂念  長十郎
 老いたる僧了觀 七百藏
 役僧  了順  梅次
 同   祐觀  千化壽
 歌ひ女 お京  榮三郎

 〔梗概略〕

 (夢)合唱

   ソプラノ 長澤よね子
   同    三笠秋枝
   アルト  相馬たづ子
   同    相田まつ子
   テノール 千葉榮三
   同    水原保定
   バス   大牟田愛作
   同    矢部五郎
   ソプラノ 瀨野伊都子
   アルト  飯野今子
   テノール 伊藤小四郎
   同    小島虎之助
   同    菊池武夫
   同    荒川新二
   同    本間資高
   バス   藤英之
   同    石橋太郎
   同    鹽澤三之助
   同    黑田光明

        本居みどり
        本居貴美
   指揮者  本居長世
   補助   三宅延齢

  帝國劇場管絃樂部員

    樂長  永井建子
    部員  山崎栄次郎
        萩田十八三
        吉田盛孝
        村上彦三郎
        内藤彦太郎
        紣川藤喜知
        渡邊金治
        大野忠三
        篠原慶心
        大木精一
        齋藤長七
        神山梧平 



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