無名會劇
オセロー
オセローに扮する東儀鐵笛氏
デズデモーナに扮する秋元千代子氏
丸の内
於帝國劇場
大正三年一月二十六日より 同年仝月三十一日三十一日まで
毎日午後 五時半開演
オセロー場割
第一幕
第一場 ヱ゛ニスの街上
第二場 他の街上
第三場 會議室
第二幕
第一場 サイプラスの埠頭
第二場 城内の廣間
第三幕
城内の一室
第四幕
第一場 庭園
第二場 城の前
第五幕
第一場 サイプラスの街
第二場 寝室
役割
ヱ゛ニスの公爵 上田榮氏
ブラバンシオ(元老議官) 元安豊氏
グラシヤノ(ブラバンシオの弟) 井上芳郎氏
ロドヰ゛コー(ブラバンシオの近習) 大村敦氏
オセロー 東儀鐵笛氏
キヤシオ(オセローの副官) 東辰夫氏
イヤゴー(オセローの旗手) 土肥春曙氏
ロデリゴー(ヱ゛ニスの若紳士) 毛受哲氏
モンタノー(サイプラスの假總督) 上田榮氏
デズデモーナ(ブラバンシオの女にしてオセローの妻) 秋元千代子氏
エミリヤ(イヤゴーの妻) 都郷道子氏
ビヤンカ(キヤシオの情婦) 酒井米子氏
オセロー劇に就いて
文學士 久保田勝彌氏談
今回我々演劇無名會が帝國劇場に於きまして、オセロー劇を公演する運となりました。恩師坪内博士の御翻譯を基礎といたしまして泰西 あちら のテキスと参照しまして池田氏の骨折りで場面なども結構する樣な次第で御座います。
〔以下省略〕
沙翁の傑作 四大悲劇中 『オセロー』上場
〔上の右の写真〕土肥春曙氏
舊文藝協會の同志が糾合されて劇壇に再擧しました吾が『無名會』は、こゝに沙翁の傑作中『ハムレット』と共に双璧と稱せられて居る『オセロー』を上場する事になりましたが、筋は此の筋書にある通り、錯綜した人事を捉へて、嫉妬、戀愛、忿怒、失望等のあらゆる人情を文 あや に、悲劇の筋道を運んで行きます靈腕は何人の筆も及び付かぬ所です、此の傑作を選びまして、こゝに上場して、果して其の神 しん を傳へることが出來るか如何かは、一に吾々の努力と熱誠とに歸せねばなりませんが、役々は會員各自に適したものを振り當てまして、實際を自然に行き易く致しましたから、餘りに技巧を弄する不自然もないであらうと確信をして居ますと共に、吾々に取つては、最も不得手な扮粧 ふんさう も、平尾賛平商店のレート化粧料がある爲めに、思ひのまゝに役々の扮粧が出來て、思ふよりも尚ほ立派に出來上るといふやうな譯で、誠に喜ばしいと思って居るのであります、此のレート化粧料が自由自在な扮粧に適して、自然と其の役の人物を現出せしむるだけ吾々は尚ほ一層に努力と熱誠とを以て、其の役の外形の立派やかに、其の人となり了 をは せて居るのに劣らない内容を滿たして、沙翁の傑作を遺憾なく演出しやうと覚悟も堅ければ、發奮も大なる次第であります、よく筋書と舞台とを対比せられましたなら、吾々『無名會』は躍如として諸君 みなさん の眼中に映り、而 そ して『オセロー』のいかなるものかといふ事が、明かに看取せらるゝことゝ信ずるのであります、若し新劇の気運が今日 こんにち の如く勃興して來たことゝ、その先軀をなした舊文藝協會、それを繼 う けて再び旗幟を鮮明に劇壇に現はれました吾々の團體の上に想到せられましたならば、此の中 うち に何物をか發見せらるゝことであらうと吾々は深く信じて疑はないのであります。