蔵書目録

明治・大正・昭和:音楽、演劇、舞踊、軍事、医学、教習、中共、文化大革命、目録:蓄音器、風琴、煙火、音譜、絵葉書

喜劇 「唖旅行」 帝国劇場 (1914.10)

2020年05月21日 | 帝国劇場 総合、和、洋

      

 大正三年十月女優劇
 
    オツフエンバハ作 小林愛雄譯 ローシー指導
 第一 喜歌劇 天国と地獄 四場
      並木宗輔原作
      岡本綺堂脚色
 第二 時代劇 石橋山 二幕
      太郎冠者作
 第三 増補改訂 喜劇 唖旅行 四幕 五場
     Soda San in London  

  秋の劇壇を彩る 
  帝劇一流の花形
 女優劇の権威 オーソリテー
  =他では眞似られぬ獨特の長所=
    帝劇作者主任 二宮文學士談 〔下はその一部〕 

 第三 喜劇 唖の旅行

 これが女優劇の最も光彩ある出し物であって、作者は喜劇に一流の妙味を有した太郎冠者君だけに、見るから面白く、殊に其の帝劇で上演するために、特に増補し改訂せられて、出場俳優に嵌 はま るやうにせられたゞけに、役々の生きて活動する上に、すべてが眞に迫って居る、それに現代を背景としてあるだけ、見て實際が首肯 しゅこう され、而 そ して事實あり得べき事だけに、一層の感興が深いのである、     
 
 第三

  序幕 神戸港香取丸甲板の場

 一 大野富三郎    宗之助
 一 事務長      高麗之助
 一 井筒の女將お花  房子
 一 藝妓 繁男    嘉久子
 一 舞子 豆奴    早苗
 一 双田宇介     松助
 一 前島進      長十郎
 一 事務員      律子
 一 同        菊枝
 一 舵手       麗重
 一 同        宗右衛門
          國之助改
 一 船長       四郎五郎
 一 三等運轉手    錦吾
 一 日の出商會支店員 三幸
 一 西村手代峯吉   有平
 一 乗客 支那人   錦彌
 一 同  婦人    蝶子   

 一 事務員      澤右衛門
 一 同        柏木
 一 司厨長      錦五郎
 一 同        三代造
 一 水夫       服部
 一 同        櫛木
 一 同        石井
 一 靴直シ      しやこ六
 一 雑貨商      横藏
 一 端書や      桃次
 一 見送人      錦車
 一 同        にしき
 一 同        宗三郎
 一 同        宗彌
 一 同        三之助
 一 同        小島
 一 同        高田
 一 同        しづ子
 一 同        すみ子
 一 同        增野
 一 同        ふみ子
 一 乗客       松藏
 一 同        南部
 一 同        葉須
 一 同        小幡
 一 同        モリノ
 一 同        百合子
 一 同        麗子
 一 同        たかね
 一 同        喜久代
 一 同        せい子 

      長唄音樂師社中 

     太郎冠者作
 第三 増補改訂 喜劇 唖旅行 四幕 五場
     Soda San in London

 『序幕、神戸港碇泊香取丸甲板の場』舞臺一面大阪灣神戸港の光景にして、遙に摩耶、六甲の連亙 れんこう より、和田岬の燈臺を臨み、港内には帆檣 はんしょう 林立し、埠頭の大桟橋には、日本郵船會社の新造船香取丸は、一萬五百二十六噸 とん 山の如く堂々たる雄姿を横 よこた へ、將に歐洲航路に向はんとして、盛 さかん に煙を揚ぐ、歌劇式 オペレット の水夫歌にて幕上ると、乗客、見送人大勢右往左往し、別離を惜しむもの、嬉々として歸國の途に就くもの、荷物を持込むもの、甲板上一時に雑沓を極むる内 なか に日の出貿易會社倫敦支店長大野富三郎は、馴染の大阪藝妓 げいしゃ 繁勇 しげゆう 、南地井筒の女將お花、舞子豆奴、日本橋の羅紗問屋双田 さうだ 宇助の見送りを受けて出來 いできた り、別離を惜しむ繁勇が涙に、我乍 なが ら罪な事をしたと、天下一の色男となり濟まし、ダイヤの指環 ゆびわ を強請 ねだ られる事など宜しく、凡て大腹中の英國仕込の紳士風を發揮したる迄は宜かりしも、昨夜 ゆうべ の勘定より、神戸迄の見送りの汽車代、歸路 かへりみち の車代迄請求さるゝに及び、流石の色男も少々悲歡して了 しま ふ、繁勇等は大野、事務員丙丁を相手に日本タンゴを踊り、下船を促す銅鑼 どら の音に驚き、双田の既に降りたるものと思ひ、慌てゝ船を立去る、然るに愍 あはれ なる双田は少しも之を知らず、同じく乗客の一人なる前島進と云へる悲歌慷慨の士に、煙草の火を借りしが緒 いとぐち にて、彼が滔々たる日本人の海外発展策の演説に引込まれ、船の動き出したるも少しも知らず、一心に彼が説を傾聽するを、大野出來りて見て吃驚 びっくり し、双田に注意すれば、双田は半信半疑にて周圍 まはり の景色を眺め、 双『アッー大變だ、船が出ちまった!』 大『君何うする気なんです』 双『何うするゝ、是りや斯 か うしちや居 ゐ られない、オイ船 ふね 船長、小 こ 蒸気!待つて呉れ!人殺し!』 大『冗談言つちや可 い けない、双田さん、騒いぢや可 い かん』 双『デモ、豆奴、畜生おいてき堀、オイ船、船長を留 と めろ、待つて呉れ、オーイ』と狂気の如く荒廻り、遂に舞臺前の手摺 てすり より海中へ飛込まんとするを、大野、前島其他にて抱留る模樣にて幕。

  二幕 倫敦市ピカデイリー街
     モニコ料理店外の場

 一 猶太の紳士         石井
 一 同             岸田
 一 乞食音樂師         菅
 一 號外賣の小僧        銀杏
 一 モニコ料理店ボーイ     小治郎    
 一 同             柏木
 一 双田宇助          松助
 一 大道商人          宗右衞門
 一 同             三代造
 一 花賣娘           勝代
 一 同             靜枝
 一 捨子の母          壽美代
 一 田舎者の夫         錦五郎
 一 同   妻         重子
 一 巡査            幸四郎
 一 大道果物商夫        松山
 一 同    婦        はま子
 一 大野富三郎         宗之助
 一 芝居行の紳士        高麗之助
 一 同   夫人        蔦子
 一 ローズ、ビウフォルト嬢   律子
 一 リリー嬢          菊枝
 一 ヴァイオレット嬢      かね子

 一 兵卒            錦車
 一 サンドヰツチメン(廣告屋) しやこ六
 一 メッセンヂャボーイ(使屋) 宗彌
 一 靴磨の小僧         宗三郎
 一 女コック          愛子
 一 往來の紳士         南部
 一 同             小島
 一 同             高田
 一 同  婦人         磯代
 一 同             百合子      
 一 同             桂
 一 同             年枝
 
 『二幕目、倫敦 ロンドン 市ピカデイリー街、モニコ料理店兼酒店外の場』倫敦流行節の音樂にて幕明けば、正面下手寄に同市中最も賑やかなるピカデイリー街モニコ料理店の正面入口、及美しき内部を硝子越しに見せ、上手下手とも同所近隣火入の遠見、倫敦市中雑沓 ざつたう の夜景、料理店入口兩側の人道に、小形の白の蠟石製のテーブルを圍み、美酒に咽 のど を潤して談笑する紳士婦人數名、料理店に出入 しゆつにふ する男女、忙しく立働く給仕 ウエーター 、其他種々 さまゞ の通行人を出 いだ し、觀客をして宛然 あたか も身倫敦市中に在 あ るの思ひあらしむ、今しも料理店外に談笑中の甲乙二人の猶太 ジユダヤ 紳士、何やらん連 しき りに打興じ居る矢先に、一見ボヘミヤ人らしき乞食音楽師、ヴァイオリンを持って面前に立ち塞がり、怪しげなる聲を出して歌ひ立つれば、兩人は五月蠅 うるさ がり乍 なが らも、賭 かけ をなし、負けたる方は一片 ペンス を出して乞食を追返す、號外賣の小僧紳士が談笑に餘念なき隙を窺ひ、卓子 テーブル の下より手を出し、洋盃 コップ の酒をの飲干して遁 にげ 出せば、兩紳士は大に怒り、小僧を追ふて下手に入る、前幕の双田宇助船に降り場を失ひてより、儘 まゝ よと覺悟を極め、倫敦へ直行したるが、人込みの中にて大野に紛れ、四邊 あたり の雑沓にキョトゝして居る内、見知らぬ婦人より赤兒 あかご を預けられ、後に夫 それ が棄兒 すてご と知れ、大野の骨折にて漸 ようや く巡査に引渡す、大野が倫敦にての馴染みなるエムパイヤ座の女優ミス、ローズ。ミス、ヴァイオレット、ミス、リリー連れ立ちて出來リ、大野を見付けて色々と話しかけ双田が滑稽なる態度を笑ふ、されど彼の金滿家なるを聞くに及んで、忽ちに愛相 あいそ よくなりて、彼を取巻き、大野が繁勇のために指環を求めに行きたる間 ま に、双田の言語の通ぜざるに附込み、高價なるシャンペン酒を抜かせ、散財させ相場にて儲けたる時の記念にして、双田が命より二番目の指環を取上げる、大野立歸りて、此場の有樣に呆れ返り、澁々 しぶゝ に双田が爲に、勘定を立替をなし居る内、双田はポケットより煙草入れを取出し、刀豆 なたまめ の煙管 きせる にて煙草を吸付け其火を掌 てのひら に轉 ころが せば、今迄之を見物し居たる人々は總立ちなり、女優も思はず双田の手首を摑む、大野は驚き振返り双田は呆然として一同を見る模樣にて幕。

   三幕目 コスモポリタンホテル内
        同 双田寝室の場
          浴場入口の場

 一 ホテルの下男ジヤツク 麗重
 一 ホテルの女中メリー  日出子
 一 大野富三郎      宗之助
 一 双田宇介       松助
 一 ホテルの番頭     錦五郎
            國之助改
 一 露西亞人       四郎五郎
 一 ホテルのボーイ    麗三郎
 一 ホテルの召使     重子
 一 ホテルの小僧     小春
 一 佛國人        小治郎
 一 同 婦人       浪子
 一 ホテルの召使     蝶子
 一 年若き婦人      龍子
 一 老婦人        勝代
 一 宿泊人        宗右衞門
 一 同          錦吾
 一 同          三幸

 『三幕目、コスモポリタンホテル内、双田寝室の場』輕き靜 しづか なる音樂にて幕開けば、茲は倫敦中流ホテルの一室、室内にはホテルの女中メリー、下男ジヤックと巫山戲 ふざ け居る、メリーは蒼蠅 うるさ く附纏 つきまと ふジャックを打たんとして、運惡く入り來る双田の顔を嫌と云ふ程、撲り付け、面目無げに兩人は逃げて入る、後より續きし大野は、双田の室内にて素足なるに驚き、せめて上靴 スリッパー なりと穿 は く可きを勸め、今迄の失策 しくじり の爲に如何に迷惑したりしかを語り、何にも云はずに寝かせんとするに、双田は未 ま だ食事を濟さず、且つピカデイリー街 まち にて女優等に、エムパイヤー座見物を約束し置きたることを告げ、其前に是非一 ひ と風呂浴びんと強請 せが む、大野も已むを得ず、女中を呼び風呂の仕度を命じ、兎角日本人には風呂場の失策 しくじり 多き事とて、双田にも懇々と注意を與へ、尚ほ念の爲めにもと、自ら附添ひ風呂場へと行かんとするに、双田は日本の浴衣、兵児帯を取出 とりいだ し、其場にて着替へんとするをもて、大野は狼狽 あわて てそれを引つ奪 たく り、双田を睨む、双田の呆れて立つを見て、下女は思はず吹出す、此模樣無言にて幕。
 『同、浴場入口の場』舞臺は凡てホテル二階廊下浴室外の模樣にて幕開 あ くと、色々なる宿泊人の出入ありたる後、下女メリーの案内にて、大野に附添はれて双田出來り、浴室の扉 と の一旦締りたる上は、外よりは開かざる事を、大野より注意されて内に入 い り、衣類は其儘廊下に脱ぎ置きたる爲めに、他の下女に持去られ、日本手拭を持ち來らんと、外へ出たる拍子に、戸は内より固く締りて、最早開かず、若き婦人下より昇り來りて、双田が異樣の扮装 いでたち を見て、金切聲を上 あ ぐれば、之を聞き附けて、ドヤゝと人の駆付け來る足音に、双田は愈々狼狽し、度を失ひて他の部屋へ飛込めば、客は烈火の如く怒りて、双田を抓み出し、ホテルの人々總出となりて双田を捕へんとすれば、双田も今は絶対絶命、夢中になって駈廻り、遂に自分の部屋の鴨居へと飛上ると同時に、大野狼狽 あはて て、扉を開けば、双田の兩足に胸を蹴られ、尻餅を搗 つ きて呆れて見上げる、此模樣宜しく大騒動の體 てい にて幕。

  四幕目 
   エムパイヤ座演藝の場

 一 大野富三郎     宗之助
 一 双田宇介      松助
 一 見物の老紳士    錦車
 一 同  老夫人    澤右衞門
 一 場内案内の女    錦彌
 一 佛國下層社會の男  ローシー
 一 同   その情婦  ミセス、ローシー
 一 下層社会の男    淸水
 一 同   その情婦  信子
 一 日本將校      律子
 一 同 旗手      かね子
 一 英國將校      菊枝
 一 同 旗手      蝶子
 一 米國將校      はま子
 一 同 旗手      日出子
 一 露國將校      勝代
 一 同 旗手      蔦代
 一 佛國將校      嘉久子
 一 同 旗手      壽美代
 一 白國將校      房子
 一 同 旗手      龍子
 一 平和の女神     宗彌     

 一 バーの女      磯代
 一 同         モリノ
 一 同         百合子
 一 同         桂
 一 同         せい子
 一 米國黑奴      石井
 一 同         柏木
 一 同         南部
 一 同         小島
 一 同         松山
 一 同         高田
 一 同         岸田
 一 同         菅
 一 日本兵士      せい子
 一 同         愛子
 一 同         小春
 一 同         京子
 一 英國兵士      桂
 一 同         磯代
 一 同         八千代
 一 同         八重子
 一 米國兵士      ふく子
 一 同         薫
 一 同         たかね
 一 同         喜久代
 一 露國兵士      玉枝
 一 同         歌子
 一 同         年枝
 一 同         百合子
 一 佛國兵士      みね子
 一 同         靜枝
 一 同         重子
 一 同         早苗
 一 白國兵士      すみ子
 一 同         照子
 一 同         しづ子
 一 同         モリノ

       帝國劇場管絃樂部員

 帝國劇場洋樂部員

 第一 ヴアイオリン 荻田十八三
 同         吉田盛孝
 同         山崎榮荻次郎
 第二 ヴアイオリン 佐藏忠恕  
 同         渡邊吉之助
 同         小松三樹三
 ヴイオラ      蛯子正純  
 同         紣川藤喜知
 セロ        内藤常吉  
 同         村上彦三
 バス        荒木茂二郎 
 同         内藤彦太郎
 フリユート     横山國太郎
 オーボエ      八尾五郎
 クラリネツト    横須賀薫三
 同         大野忠三
 ホルン       吉田民雄
 同         篠原慶じ 
 トロンペット    吉田竹二  
 同         加福一雄
 トロンボン     加瀬順
 ドラム       渡邊金治

 『四幕目、エムパイヤ座演藝の場』舞臺正面にエムパイヤ座の舞臺を見せ、上手下手共に二階造 づくり の金碧燦爛たる桟敷を設け、凡てエムパイヤ座幕開き前の光景、微醉 ほろよい 機嫌の双田宇助、大野に案内されて桟敷に現はれ、場内の美事なるに打驚き、大聲を出して話し掛くれば、大野は穴へも入りたき心地にて、双田を靜むる内、幕開 まくあ きとなり、演藝の第一は『ダンス、ザパッシュ』と稱すると佛國下流社會居酒屋の内部を描ける無言的舞踏となり、居酒屋の内にはバーの女を相手にに數人の男飲酒し、女と共に舞踏する事宜しく、次 つい で男女二人打連れ入來り、座す可き空席なきを見、 一隅に居る一人の男の肩を叩き立去れと命ずれば、件 くだん の男は怒って立上り、既に喧嘩とならんとする時、人々出來り、男を宥 なだ めて別室へ導く、更にミセス、ローシーの扮せる一婦人、其夫を探しに出來り、茲に在らぬに失望すれば女連れの男は、之を見掛け、其仲間に引入れんとす、されど其婦人は之を斷りて上手へ行く、間も無く婦人の夫にて、ローシーの扮する一無頼漢、獰猛なる顔色 がんしょく にて入來り、婦人の茲に來り居るは、彼 か の男と密會する爲なる可しと嫉妬し、先づ其男を撲 なぐ り付け、次いで女房を捕へて散々にこずき廻し活劇的舞踏乃ちダンス、ザパッシュを演ず、演藝の第二は『ニグロース、クーン、ソング、エンド、ダンス』にして南米の廣漠たる小麥畑を背景として、黑奴男女の可笑 をか しき歌唱と舞踏とを見せ、更に第三に至りては『武装的平和 アームド、ピース 』とを題し、女優の扮する日、英、米、白耳義 ベルギー 、佛、露の陸軍々人、軍装美々しく、聯隊旗を翻 ひるがへ し、オーケストラの奏する各國々歌に從ひ入來り、勇壮なる分裂式を行ひ、平和の女神天の一方に現はれて、此場に神嚴を加ふ、此間双田は大野より雙眼鏡を借り、女優の中 うち にローズ其他の交り居るを見乗出して見物する内、過って雙眼鏡を取落し、夫 それ を取らんとして桟敷より吊下 ぶらさが れば、一同驚きて双田を見る此模樣宜しく幕

 なお、上の写真の一番右は、絵葉書のもので、下の説明がある。

 (帝國劇塲喜劇唖旅行) 神戸港碇泊香取丸甲板の塲



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